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尽くせば尽くすほど、なぜかあなたの気持ちは離れていった。(前編)

もう時効だから言うけど、私は過去に家庭がある人を好きになったことがある。

好きで、好きで、彼の言うことはなんでも聞いたし、愛してもらうために必死だった。
だけど、その想いは報われることはなかった。

きっかけは大学の授業のリアクションペーパーだった。
彼は先生で、私は生徒だった。

先生は毎回授業の初めに前回面白いと思ったリアクションペーパーを読み上げ、それに対する回答を生徒たちの前でする。
私はその読み上げの常連生徒だった。

もちろん読み上げは匿名だが、自分が書いたものは覚えているから、読まれるたびに嬉しくて、授業を必死に聞いて、また読んでもらえるように工夫を重ねた。

そうしていくうちにリアクションペーパーへの返答は授業中から、SNSのDMに代わり、授業後に直接呼び止められるようにもなった。

先生はとても人気があったから、授業が終わると先生と話したい生徒たちで列ができる。そんな中先生の方から「神山さん」と呼び止められ、「この前のリアクションペーパーの件だけど…」と質問される。
素直に嬉しかったし、優越感もあった。
その気持ちが恋心に発展していくのにそう時間は掛からなかった。

それから先生とは毎日のようにSNSでDMをするようになった。
内容も授業のことばかりだったのが、学校でのことから家族のこと、恋愛のことと少しずつ個人的なものに変化していった。

「今度、授業で話していたような内容の映画が渋谷で上映されるんです。気になっているのですが先生良かったら一緒に行きませんか?」

本当は映画自体にはなんの興味もなかったが、このまま何もなく卒業を迎えてしまうことに危機感を持った私は勇気を出してDMを送った。
返信が来るまでは心臓が潰れるくらいドキドキした。

「良いですね。行ってみましょうか。」

先生から返信が来た。嬉しかった。
先生は薬指に指輪ははめていなかったが、こんなにも魅力的な人が結婚をしていないわけがないという気持ちと、でももしかしたら。と言う気持ちの間に私はいた。
もしデートに誘えたら、ちゃんと聞こう。そう思っていた。

当日は映画を見て、喫茶店でお茶をして、当たり障りのない話が続いた。
夕方、店が混み始めてきた。
とっくに飲み物も飲み終わった私たちの席に店員は迷惑そうに何度も水を交換に来た。
今聞かないときっとずっと聞くことはできない。
自分的にはさりげなく、でも多分ぎこちなく聞いた。

「先生って結婚してるんですか?」

うん、先生はサッと頷いた。
何事もないというように。
終わった。

心のどこかでは分かっていたが、淡い期待を完璧に砕かれた私は絶望しながら家路についた。
そうこうしているうちに卒業は間近に迫っていて、やっぱり無謀な恋だったと諦めようとした最中、内定が決まっていた会社から地方配属の連絡が来た。

先生とのDMは相変わらず続いていた。
やめれば良いのに返信が来れば嬉しくて、自分から切ることができなかったのだ。
けど、この不毛な連絡を続けている限り諦めることもできない。
地方への配属は断ち切るにはちょうど良いのかもしれない。
そう思った私は唐突にDMで想いを打ち明けた。

「先生のことが好きになってしまいました。
なのでこれ以上連絡を続けることはできません。
地方へ配属が決まったので、新しい場所で新しい恋を探します。
ありがとうございました。」

そんな感じの内容。
わざわざそんなことを告げなくても、本当に終わりたいなら黙って連絡を断てば良いのに、我ながら最後まで往生際の悪さを感じる。
だけどそんな風にでも気持ちを告げないと終われないとも思っていた。

「一度会いませんか?」

先生から来た返信はその一言だった。
好きだからもう連絡したくないと言っているのに会う?私の文章見てんのか???
間違いなくこの時点でブロックして連絡を取らないことが正解だ。
けど、すぐに日付と場所を確認している自分がいた。
片思いというものはとことん愚かである。

卒業後、地方へ行く前に先生と会った。
桜が咲いている市ヶ谷の池を2人並んで見た。

「今日は来てくれてありがとう。授業も終わったし、もう会えないと思った。」

先生はポツリとそう言った。

もう会いたくないし、連絡も取りたくないなら神山さんの気持ちを尊重するけど、僕はここ最近神山さんと連絡したり、映画に行ったり、すごく楽しかった。
僕は神山さんのことをずっと応援しているから、この先もし何か辛いことがあったら頼って良いからね。

続けてそんなようなことを言われた。

今の私だったら「おおおおお!なんとまあ!無責任でずるい男だね!告白の返事はしないで関係を続けようとしてやがるな?!」と思うんだけど、悲愛のヒロイン全開モードだった私はなんで優しい人なのだろうと涙した。

それからはもう、お決まりのコースである。
暫くは本当に連絡をとっていなかったのだが、配属先に引っ越しして1ヶ月くらい経った頃、先生から出張でそちらの方に行くからひさしぶりにご飯でもどう?と誘われ、行き、まあ、そうなった。

完全に身を委ねるのは本格的に不倫になるという恐怖があったからしなかったが、キスもしたし、ドライブもしたし、旅行にも行った。
妻になったことのある立場からしたら夫が隠れて女とデートしている時点でアウトだし、むしろ体の関係がない方が純愛気取っているようで気持ち悪くて無理だ。
キモいandキモい。

とはいえ渦中の私には完全に純愛だったわけで、不倫ソングを聴いたり不倫ドラマを見たりして悲劇の恋に浸っていたのだった。

あれ?報われていませんか?
と思った方。ノンノン。
恋愛が始まることだけが、両思いになることだけが「報われる」ではないのです。
むしろ、ここからが本当の始まりなのです。

出会編で長くなりすぎたので、おつきあい(地獄)編は後編に続きます。

尽くせば尽くすほど、なぜかあなたの気持ちは離れていった。(後編)


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