私はあなたの「理想の女の子」じゃないよ。
一度だけ、長い間友達だった男と付き合ったことがある。
その時の私は大失恋をした後で、親とも色々あって、だけど実家から逃げることもできなくて、とにかく現実逃避がしたかった。
何を言いたいのかというと、正常な精神状態であれば長く友達だった男とは付き合わないということ。
なぜなら私にとっての「友達」には男女の境がないからだ。
男女問わず友達は永遠に友達で、そこから何かが変わることはまず、ない。
だから長く友達でいた男と付き合うなんてことは基本的にあり得ないことで異常自体だったのだ。
これは今でも変わらなくて、「友達→恋人」の手順を踏んでお付き合いする場合も、その男と友達になって少し仲良くなった時点で私の方が相手を恋愛対象としてみているから厳密にいうともう「友達」ではない。
なので私の中での人間の区分は以下のような形になる。
男、女、友達(男女問わない)
と、まあ少し話が逸れたが、私にとって長い間友達だった男が彼氏になるのはそれくらいあり得ないことで、大事件だったということである。
ただ、これはあくまでも私からみた場合の話。
相手からしたら長年していた片想いが叶ったという喜ばしい事実だけが存在していた。
その事を彼から初めて聞いた時は、嬉しいというより「薄々気がついてはいたけど…いざそう言われると…なんか…えええ…」という感じでとにかく複雑だった。
この時点で相手のことを大して好きではないということがよくわかる。
SA・I・TE・I☆彡
ちなみにこの彼氏は前に紹介したクソプレゼントランキング1位の男である。
後からこれを読んだ知人に「自分的に1位と2位逆だと思ったけどなんで桜子はかっさが1位なの?」と聞かれたのだが、確かに物品だけ見ると逆でいいと思う。
が、大好きだった彼氏からの顔面クッキーより、大して好きじゃなかった彼氏からの温感かっさだと、温感かっさの方がいらないんだよね。残念ながら。
ここは恋愛の残酷なところである。
このように私たちは最初から大きな想いの差があるところから交際がスタートした。
今まで付き合うときは相手からのアプローチがあれど自分の方が好きになって没頭していく私にとって、このパターンは稀有だった。
付き合ってからの彼はデートの時間は全部こちらの予定に合わせてくれるし、連絡もマメ。
きっかけは当時元々付き合っていた彼氏の浮気調査をお願いしたことだったのだが、そんな変なお願いをしても嫌な顔ひとつせずに引き受けてくれたのが高校の時からの友達だった彼だった。
側から見ると素晴らしい恋人である。
が、私の心はそんな彼に惹かれるどころかどんどんどんどん萎えていった。
長く友達でいたから、私のことは悪い面もよく知っていると思っていたが、彼の頭の中にはお花しか咲いていなかったからだ。
彼の方からするとずっと好きだった人と付き合うことができたのだから花が咲くのも当然だ。
そう言われればそうだろう。
ただ、長い片想いの間に彼が作り上げていた神山桜子はもはや私ではなかった。
私は彼が思うほど純粋でもないし、優しい女でもない。
自立もしていなかったし、包容力もなかった。
彼と友達だった高校時代の私は物事をハキハキというタイプだったからか、彼にとっては精神的に自立した逞しく優しい女に思われているようだった。
実際は幾多の失恋に心を砕かれメンタルはガタガタで思いっきり依存タイプの女になっていたというのに。
彼とは友達だった時はあんなにもずっといろんなことを話し込んでいたというのに、恋人になると二人の間にある会話は途端に空虚なものになった。
あからさまに冷めていく私を見て、彼が私の機嫌を伺うようになったからだ。
そうして私に嫌われたくない彼と彼に飽きつつあった私は毎日当たり障りのないLINEをして、当たり障りなく会う日程を決めて、当たり障りのないデートスポットで、当たり障りのない会話をした。
そんなことの繰り返し。
流石に退屈がすぎる。彼の方も冷めてきたのでは?もう良いかと思い始めた頃に彼が唐突に「将来は一緒になりたい」と言ってきた。
ただでさえこんなにも上手くいっていないのになぜ?という気持ちと、
当時の私は家族のことでゴタゴタしていて、とてもそんなことを考えられるような状況ではなかったから、そのことを話して「気軽にそんなことは言わないで欲しい」とお願いをした。
もちろん彼と一緒になる気など毛頭なかったが、あまりにも現実が辛かった私は何度もそう言われるとその道に逃げてしまいそうで怖かったからだ。
しかし、その時は「わかった」と言ってくれても頭にお花が咲いている彼はまたすぐにそんなことは忘れて将来のことを語り出した。
当時の彼にとっての私はあくまでも高校生の時から片思いをしていた優しくて自信のある堂々とした神山桜子で、大学生の、家庭に問題を抱えた依存性のある厄介な女になってしまった神山桜子ではなかったのである。
現実と大きく乖離した幻想をぶつけられるのはしんどいし苦しい。
だけど、このまま当たり障りのない交際を続けていても、永遠にそれが続くだけだ。
彼に本当の私を開示してみよう。
そう思った私は唐突に自分の想いを綴った長い長いLINEを送った。
今考えると突然の長文LINEほど嫌なものはないが、対面するとうまく言葉にできないと思った私は、当時感じていた違和感だったり、この先の交際についてもう少しちゃんと考えたいというようなことを全部文章にして送ったのだった。
返信はなかった。
1日経っても、3日経っても、1週間経っても返信はない。
流石に憤りを感じた。
散々プロポーズのようなことをしておいて、恋人の深刻な想いに返信なしとは何事だ?
せめてひと言くらい返信しろや。
そう思った私は彼に電話をしてみることにした。
もし出なかったら自然消滅ということで別れたことにしよう。そう思った。
「・・・はい。」
出るんか〜〜〜〜〜い。
1週間も既読スルーを決め込んでいた彼は3コールくらいですぐに電話に出た。
無視されることを見込んでいたこちらとしてはあまりにも予想外である。
「なんで返信しなかったの?」
単刀直入に聞いた。
「ごめん。ただ、楽しくデートしていたのに、帰ってきたら急に長文が送られてきて、なんて返せばいいか分からなかったし…変なこと言って嫌われたくなかった。」
はああああああああ?!?!?!
はあああああああああ?!??!?
ああああああああああああん?!?!?!?
てめえ、自分のことしか考えてないじゃねえか!!!
こちとら勇気出して自分の気持ちを開示したのに、今更「嫌われたくない」だぁ?
お前、自分のことしか考えてねえじゃねえか〜〜〜〜!!!
と、叫びたかった。
が、この言葉、どこかで聞いたことがある。
頭ポンポンおじさん事件である。
時系列的にはこの時の彼は頭ポンポンおじさんの後に付き合った彼氏なので、あの時自分がポンポンおじさんにしていた「嫌われたくないムーブ」を人を変えて今度は自分がぶちかまされたことになる。
結局この男も「本当の桜子」なんかに興味はなく、現実に向き合うつもりもなく、自分にとっての「理想の女の子」の影を追いかけていただけだったのである。
この理想を相手にぶつけていくスタイルは初恋の時に私がやらかしたそれである。
が、当然「ああ、あの時のポンポンおじさんはこんな気持ちだったのかあ」「初恋の相手には悪いことをしたなあ」などと省みる私ではない。
ただひたすら「ないわ〜」と思い、自己開示なんてしようとした自分がバカだったわと変なところで反省し、この後適当な理由をつけてこの彼とは別れることにした。
その間約2ヶ月間。
向こうからしたらやっと実った片思いは散々振り回された挙句に短期で終了したのだった。
HI・DO・I・O・N・NA☆彡
そんなわけで「尽くす恋」も「尽くされる恋」もダメだった私。
ここまでくるといよいよ自分でも「もしや、自分に結構な問題があるのでは?」と思うようになる。
そして訪れる恋愛ノウハウ迷走期。
そう、まだまだ迷走期。
そんな話はまた次の機会にしたいと思う。