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バレンタインの日のおもてなし〈エッセイ〉
朝早く起きなくてはならないのに
家中に甘い匂いが充満して眠れない。
キッチンでは、まだ次女が
何やらオーブンで焼いている。
寒くてベッドから出るのは嫌だけれど、
眠れない。
寝不足も寝坊も困るので、キッチンへ向かい
「なんかいらないのちょーだい」と声をかける。
「えー」と一通り作ったものをチェックし
やや形の悪いガトーショコラを一切れくれた。
カウンターにはガトーショコラ、
クッキー、マカロン、クランチチョコが並ぶ。
たくさん余りますように。
歯磨きをやり直して再びベッドに入る。
気がつくと朝だった。
バレンタインの日は、
珍しくファッション撮影だった。
友達にあげる分の袋詰めを終えていた次女に
おねだりしてガトーショコラと
ドーナツを数個ゲット。
「娘からのお裾分けです」とスタッフに渡す。
メークさんがインスタのストーリーに
ドーナツをアップしてくれて、
それをスクショして次女に送る。
親からはもらえない栄養があるはずで
ありがたい。
この4月で長女大学4年生、
次女大学1年生になる。
自立が近づいている。
長女は就職活動は一旦、見送る感じになりそう。
やりたいことを見つけたいという理由で
賛成だし応援。
次女は時間を忘れて
夢中になれるものがあるけれど
将来の夢とは直結していない様子で、
なるほど、となる。
娘との会話は多い方だと思うが
ふたりともいちいち相談するタイプではなく
自分の意見が決まってからの報告が多い。
自分の理想と親にあまり
負担をかけない現実を天秤にかけ
絶妙な落としどころを見つけてからの意見かな、
と感じたりもする。
私がそうだったから、
勝手にそう思っているだけかもしれないけど。
私の場合は遠慮もあったけれど、
いつも進路をひとりで考えていたのは
三兄弟の真ん中で
上と下がわりと率直に
親に意見するタイプだったから
そこに割り込むよりは
自分で考えて決めた方がラクかもという
癖みたいなものだった気がする。
「どうして相談してくれないの」と、
逆に心配をかけてしまったこともあったよーな。
ただ、相談はしなくても
親が元気で心配がなく
帰る家があるということが
ひとりでいろいろ決める際の
安心材料になっていたのは間違いない。
今、親としてできることは
人間ドッグにきちんと通うことぐらいだろうか。
来週、幼い頃から知っている
娘の友だちの舞台を見に行く。
一足先に社会に揉まれて頑張っている姿に
私も、娘もいい栄養をもらうのだろうと思う。
観劇後にその子のママと一緒に
ビールを飲む約束もあわせ
今から楽しみで仕方がない。