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7月7日ガザ法要 ~ガザ・イスラエル紛争2023, 35,000名の殉教者のために~

今回の文章は、私が「ガザ法要」を続けてきた私的な思いを中心に綴ってゆく。

留学からの帰国とガザ紛争の開始

 テル・アヴィヴ大学の演劇学科の留学から帰国したのが2008年12月末だった。
 それを待っていたかのように、2008年12月27日から「ガザ紛争」が始まった。
 イスラエルとパレスチナの紛争は1948年のイスラエル建国宣言からではなく、1880年にシオニズムが現れた1880年ごろに始まり、そして1900年以降の20世紀の100年を超えて21世紀の今日まで続く紛争だ。ユダヤ教のオーソドックスがパレスチナに憧れて住みはじめるのと、ユダヤ人の国「イスラエル」を作る計画、そのために今まで住んでいた「パレスチナの先住民」を排除するという考え方、それがシオニズムだが、それは違うのだというのが、ヤコブ・ M・ラブキンの「トーラの名において」に書かれている。
 興味を持っていただいた人は、ただ「パレスチナ問題」とか「ガザ・イスラエル紛争」をウィキペディアで検索していただくだけでも様々なことを知る機会になると思う。その中で自分が引っかかったことだけをとっても、ある意味パレスチナーイスラエルを通して世界を見ることになるだろう。

ガザ法要の始まり

 イスラエルから帰国して広島の兄のところに行った時に2008年12月27日のガザ紛争は始まった。兄の家にはテレビがある。そこでアラブ各国がどのような声明を出しているか、というニュースが少し気になった。つまり、イスラエルを正式に非難しているのはイランだけだった。パレスチナはイスラームの国のスンニ派の人々が暮らしている。しかし、スンニ派の国々が口ごもっている中で、シーア派の多いイランがイスラエルを非難している。このときからイランという国の知識者層のこと、そして音楽、芸術、文学といろんなことを知ろうとするきっかけにもなった。
 そして日本のテレビでは放映されない映像をアル・ジャジーラで観た。そこには逃げ惑う男性が家族を引き連れながら、インタビューに答えていた。「私たちにはわかっている。誰が敵なのか?イスラエルではない。敵は私たちを囲む同胞たちだ」と。逃げ惑うパレスチナ人たちは、人間が金や欲望で、信念、彼らから言えば「最も尊い信仰」を、いとも簡単に捨て去る人間の本質をよく知っていた。

アラビア語の学習と法要の準備

2008年の私はヘブライ語は散々勉強したものの、アラビア語は全く無知だった。イスラエルに滞在中にパレスチナで合気道を紹介した体験もあり、私はもっとパレスチナのことを真剣に考えるべきたと思った矢先のガザ紛争の始まりだった。
 そんなに若くないのにまた新しい言語を学ぶなんて無謀だなぁと思ったが、ガザ紛争は私を2年間のアラビア語の学校「マアハド(神学部語学学科)」に通わせるきっかけを作った。
 声明教室に通ってくれる生徒たちのモチベーション(やる気)を上げるために発表会をしたほうが良いとは思っていたが、いわゆるピアノや合唱のようなスペースを借りた発表会を声明でやってもなぁと思っていたので、ガザ紛争で亡くなった人、これをイスラームの人々が殉教者と呼ぶが、その人々の名前を読み上げる法要をしようと思った。施行日は2009年12月27日。殉教者の名前をどこで知れば良いのだろうか?直接パレスチナ領事館に電話をすると、アラビア語で書かれたリストを送ってくれた。アラビア語を初めて1年。その名簿を読めるほどの能力は私にはなかった。アラビア語の教室で一番成績が悪く、一番出席率の高い私は、おそらく出席率のみで半期に一度の試験を合格にしてもらったと思う。他の優秀な同級生の力を借りざるをえなかった。「今度、こういうことをやるんですけど、名簿を読んでもらえませんか?」しかし、優秀な同級生も独自の判断で読み上げる人数は100人が限度ということで、二人のシリア人の人に読み上げを手伝ってもらうことになった。
 2010年の12月27日も、アラビア語の同級生に無理矢理お願いしたが、やはりスラスラ読めるわけでもないし、間違っているかも知れないので、アラビア語のチェックしてもらえる人に来てもらえないかと言われた。そこで当時パレスチナ料理を店頭販売しているディアブ・ガッサンという人を見つけ殉教者の名簿の発音チェックをしてもらうことになった。アラビア語は母音が表記されていない。子ども用の文章に母音の表記がされており、その子ども用の表記が私たちには必要なわけで…それを全部つけ終わったガッサンは法要の前にクラクラになっていた。
 さらにイスラームを信仰する人、ムスリムが、仏教の法要に参加することにもガッサンさんは難色を示していたが、2年、3年、4年と続けていくうちに私たちの法要もなんとなく受け入れてくれようになった。しかし、アラビア語を学ぶ同級生たちから次々に断りの連絡が来るようになった。「ムスリムの人たちにとって、果たして仏教の法要で殉教者の名前を読まれて、それはかえって迷惑じゃないか?」と。
 しかし、私にイスラームの祈りを捧げて彼らを追悼することはできない。また「何かパレスチナのことをやっているというあなたの自己満足ではないか?」という意見も私には否定できない。まさに自己満足なのかも知れないと私自身が思ったからだ。
 それやこれや、毎年続けてゆくことは困難なことだった。それでも続けるためのことをし続けた。

法要の継続と新たな挑戦

 アラビア語の学校も2年で卒業。もう彼らにお願いできないとも思った。このアラビア語をカタカナに変えて、アラビア語の読めない人たちにも読んでもらうことにしようと思った。そこでパレスチナ料理店「ピサン」を経営するスドゥキ・マンスールさんに仕事の合間に名簿を読み上げてもらいそれを録音してカタカナに書き起こすという作業を始めた。しかし、2008年のガザ紛争の殉教者は1,352人、2014年の「第二次ガザ紛争『シュジャイヤの戦い』」の殉教者は2,138人。そして毎年、毎月、殉教者は増えてゆく。1回や2回で終わる作業ではない。スドゥキさんに、これ以上時間を取らせるのは心苦しいと、今度はパレスチナ領事館の参事官イヤード・アルヒンディさんのもとに通うようになった。そうやってカタカナに起こして、もっと幅広く殉教者の名前を読み上げてもらう準備ができた。
 お茶の水にあるインド料理屋さんの休憩時間14:00から17:00を使って法要を行い、その後でインド料理を食べるという交換条件で場所を借りた年も何年か続いた。それから改めて食事の出来そうなスペースを借りて、法要を行いガッサンさんのパレスチナ料理を法要のあとの精進落としで食べるという企画も何年か続けた。
 しかし、ガッサンさんも料理の店頭販売自体をリタイヤしたりして、今度は王子のスタジオでただ法要をすることになった。その日はものすごい雨だったが、そこに来てくれた梅田まりあさんが「こんなことをしているのにもっと多くの人に知ってほしい」と場所探しを協力してくれることになった。

2023年のガザ・イスラエル戦争と新たな企画

 それからは大久保や神田のスタジオで法要をし、その後で、大久保のケバブやさんや神楽坂のエジプト料理アブ・イサームで法要のあとの精進落としをする企画が何年か続き、2023年で15年目を迎える。イスラエルによるガザの民族浄化は計画的だ。2008年のガザ紛争から15年目の10月7日、今も続くパレスチナ・イスラエル戦争が始まる。この戦争は悲惨を極めている。10月7日から26日までで6.747名の殉教者が出ている。さらに殉教者は、2024年6月18日の時点で、3万7,347名に及んでいる。ネタニヤフ(イスラエル首相)が政権から降りるまで決して終わる様相はない。
 もう法要を待っているわけにはいかない。2024年4月22日のアース・デイは「パレスチナへの詩と歌」という企画を梅田さんと立ち上げた。新たにパレスチナの人々に向けて詩と歌を作ろうという企画だ。詩人の参加に大田美和さんに大いに協力していただいた。大田美和さんをはじめ、11名の詩人の方々がパレスチナへの詩を書き下ろしてくださった。その詩の内容、そして朗読する声は、熱く激しい。初めて自分の同じ思いを持ったアーティストに出会ったような気持ちだった。大田さんは、何度も言った「マーティン・ルーサー・キングが言った。『最大の悲劇は悪人の暴力ではなく、善人の沈黙である』」そう、ここに集まった11名の詩人たちも、善人の沈黙に魂も心も痛め続けられてきたんですね。
 そして2008年に逃げ惑うパレスチナの男性が言った「私たちにはわかっている。誰が敵なのか?イスラエルではない。敵は私たちを囲む同胞たちだ。」
 わたしが声をあげなくてもよい、その方が安全に社会生活を送れる。そのあなたの安全が、真実を叫ぶ人々の魂を地獄に追い込んでいるのだ。
 それでもあなたは黙っていることでしょう。さらに大田美和さんは、そんな私に徐京植(ソ・キョンシク)著書の「詩の力」を送ってくれた。そこには
「…詩人とは、どういうときにも沈黙してはならない人のことだ。…勝算があるかないか、効率的かどうか、有効かどうか、という話とは違うということである。…こう生きるのだ、これがほんとうの生き方だ、ということを示さなければならない。詩人がそれをしなければならないのだ。」

人間の選択・芸術家の本質

 私は何度かユダヤ人であるエレミアの哀歌で歌を作ったことがある。預言者は見える真実を語る以外ない。それによって命を落とすことが目に見えていても。
 ヒトという生物は大脳皮質の働きによって、滅ばざるを得ない未来が待っているとしても、「こう選ぶのだ、こう生きるのだ、こう叫ぶのだ」と言い続けるしかないと思えたら、その人は詩人であり、歌手であり、ダンサーであり、芸術家と呼ばれてよい人だ。

 7月7日(日)7時間の法要に10月7日から26日までに亡くなった殉教者6,747名の名前を読み上げる「ガザ法要」を行います。5時間の声明、そして法要に演奏で参加してくださるアーティスト
 櫻井元希(グレゴリアンチャント)
 小森俊明(ピアノ)
 HIKO(ドラム)
 竹田賢一(エレクトリック大正琴)
 吉松章(仕舞)
心も身体も傷つき果てたガザの人々に心を寄せてくださることに感謝します。
 さらに声明の出仕者:コバヤシタカヒデ、吉田正子、山口裕加奈、蕭振豪
 共同企画者:梅田まりあ
いつも、どんなな時も変わらずに、この法要を支えてくださる人たちに改めて感謝します。

 私たちの法要に是非、読み上げで参加してください。
 お待ちしています。


ガザ法要 ~ガザ・イスラエル紛争2023, 35,000名の殉教者のために~

https://www.sakurai-makiko.com/gaza

殉教者6,747名のお名前の読み上げの方を募集しています。どなたでも短時間でもご参加頂けます 。
2024年7月7日(日)12:00~19:00 (開場11:30/途中出入りできます)
会場:音部屋スクエア;東京都新宿区高田馬場4-4-13 アルプスビルB1F
無料
参加申し込み・お問い合わせ:まきこの会事務局 makikoclub2022@gmail.com/090-9236-0836
申込フォーム:https://x.gd/7UvXX





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