冴えない男
中学、高校の頃、大体のカップルはお似合いの二人組ばかりだった。学年一可愛いと言われていたあの子は、モテそうな男と付き合っていたし、頭の良い人は頭の良い人と付き合っていた。外から見ても、二人が何故惹かれあったのか、大体の理由はなんとなくわかった。
顔立ちの良い女の子が、冴えない男の子と付き合うことは、知っている限りなかったし、その逆もなかった。僕はといえば、完全に冴えない側の人間だった。中学、高校、髪型は丸坊主、学校祭ではメインイベントの「カラオケ大会」に無理やり出され、当時全く触ったことのないギターを片手に持たされ、ギターを背負う訳でもなく、文字通り片手に持ち、HYのAM11:00を歌い上げた。そして、その後、バスケ部のイケメンが登場し、EXILEのいい感じの歌を歌い、大盛り上がり。今、思えば僕はそのイケメンが出る前に会場のハードルを下げに下げたので、前座としては、いい仕事をしたと思っている。思っているというか、そう思わないと悲しくなる。
あとは、忘れもしないが、中学校の頃、クラスの皆で誰がどの委員会に入るかをホームルームで話し合ってる時だった。委員会は男女一人ずつで構成され、決まれば一年間同じ人とペアになり、その委員会を動かしていく決まりだった。僕はなんとなく、飼育委員になった。話し合いの最後まで、飼育委員をやりたがる女子が出てこず、結局じゃんけんで負けた人がやることになった。その結果、さえりちゃんという子が飼育委員をやることになった。すると、次の授業からさえりちゃんがトイレにこもって、出てこなくなった。
話を聞くと、さえりちゃんは同じクラスに好きな人がおり、その人以外と委員会をやるのは嫌だ。とトイレで泣きじゃくっていたらしい。さえりちゃんの友達の数人から「ねー!どうすんのさ!さえり泣いちゃったよ?どうすんの?」と半分キレ気味で言われた。「どうすんの」はこっちのセリフである。「まじで、どうするんだこの状況。皆はこんな時、どうしてるんだ。いや、皆にはこんな状況は訪れないのか。僕だけ?なんで僕だけこんな状況になるの?てか飼育委員って、教室の後ろでノタノタ生きてる亀に1日1回エサをあげるだけなんですけど。二人で力を合わせなくたってできるから、さえりちゃんは何もしなくていいです、僕がエサをあげるから君はただ飼育委員としてだけ、肩書だけ背負ってくれ。」と思ったが「ごめん」とだけ謝って、さえりちゃんは「まぁ仕方ないか」って感じで、一年間飼育委員を全うした。
学生時代はわかりやすい二人組が結ばれていたが、大人になった今、街を歩いていると「なぜこの二人が付き合っているんだ。」と感じてしまう二人組が手を繋いでいたりする。「男がすごく性格が良いやつか、すごくお金を持っているか、実はどこかですごく有名な人なのか、一体なんなんだ。」とあまりよくない想像をする。そして、同時にやんわり希望を感じる。
そんな瞬間に出会うたび、関西の友達に言われたことを思い出す。「冴えない俺らはな、好きな人ができたら、0からのスタートじゃないねん。マイナス一万からのスタートやねん。」毎日は平等で、どんな人にも朝が来る。前の日に嫌なことがあったって、次の日には、よーいどんで始まる。また一日を一から頑張ればいいけれど、人生は無残なことに、そうはいかない。相手の好みに自分がハマらなければ、マイナスからのスタートだってありえる。それでも、朝が来るたびにリセットされない信頼を積み重ねていけば、不可能なことなんてないのかもしれない。
飼育委員を一年続けた最後の日、さえりちゃんは僕に「一年間ありがとね、ちょっと寂しいね!」と笑って言ってくれた。
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