【毎週ショートショートnote】彦星誘拐
彦星は激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の天帝を除ねばならぬと決意した。
彦星は牧人である。
笛を吹き、牛を飼って暮らしていた。
ある日、天帝が美しい織姫と自分を引きあわせた。
自分はすぐに夢中になった。
結婚し、甘いハネムーン期を過ごしていると、天帝が突然「仕事をサボった」と難癖をつけてきた。
そして織姫と引き離し、一年に一度しか会えぬようにしたのだ……!
許せない。
彦星は激怒し、クーデターを決意した。
*
数ヶ月後、クーデターは成功し、牛飼いは天帝となった。
こうなると邪魔なのは織姫である。
あらゆる美女を侍らせられるのに、なぜ機織り女と会わねばならぬのか。
彦星は『自分が誘拐され行方不明になった』という噂を流し、逢瀬をボイコットした。
そして天帝としてこの世の春を謳歌した。
*
7月7日ーー
彦星誘拐に悲しんだ織姫は、何でも願いが叶うチートアイテム、五色の短冊にこう書いた。
『愛する牛飼いの彦星様がかえってきますように』
(417文字)
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