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yamamoto15
【毎週ショートショートnote】文学トリマー
芥川龍之介は、水羊羹を前に腕組みをしていた。
水羊羹。
この涼菓について思うことがある。
『羊羹』
この漢字はいかがなものか。
何だか、菓子に毛が生えているような気がしてならぬ。
若干気持ちが悪い。
この漢字でなければ、もっと美味しく食べられるものを。
ひとつ、毛を剃るか。
『ようかん』という響きは、濁点がなく滑らかである。
よって響きを変えずに漢字を変えてみる。
羊、妖、陽、要、洋……。
食べ物であるゆえ、ケモノくささや不浄を思わせるものは論外として、あまり意味のある文字も排除しよう。
『容』
これだ。
次に『かん』である。
文豪は瞑目して、考えこんだ。
そして、長い時間をかけ、かんの字を選んだ。
『閑』がよい。
『容閑』
この菓子の漢字が決まった。
毛を思わせる要素がなくなり、さっぱりしている。
文豪は満足して、水ようかんを口に運んだ。
水ようかんは、すっかりぬるくなっていた。
(406文字)
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