【毎週ショートショートnote】三日月ファストパス
今週もたらはかにさんの毎週ショートショートnoteに参加します。
【三日月ファストパス】
老人は昔から月が好きだった。
三日月になっても、いずれ満月に戻ろうとする気概が好きだ。
ハードボイルドだ。
男はそうでなければならぬ。
月の裏側は、隕石でボコボコだといわれている。
地球に落ちるはずの隕石を月が受けとめつづけた結果らしい。
地球に向いている面は美しいが、見えないところでは常にキズを負っているのだ。
老人は、社会の荒波から家族を守りつづけた自分と月を重ねあわせた。
かっこいい。
月は、本物の男だ。
*
老人は億万長者になっていた。
そして三日月ファストパスを購入し、一足飛びに憧れの月の裏側におりたった。
そこは、思っていたハードボイルドな世界とは全く違っていた。
華やかなウサギが踊り、楽しく餅をついている。
美しいウサギが口に餅をいれてくれた。
うまい。
ウサギはホステスのランに似ていた。
『社会は荒波ではあったが、こういう甘い汁も結構あったな』
しみじみと思い出す。
男の裏側と月の裏側はとてもよく似ていた。
『やはり男は月で、月は男だな』
老人はひとり苦笑した。
【450文字】
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