【ショートショート】トラネキサム酸笑顔
春の夢のよう。
ふわふわしているうちに10年が過ぎた。
トラネキサム酸配合の風邪薬、トラ君はある日愕然とした。
『このダメ主婦め、ぼくを買ったことを忘れてるな』
トラ君は薬箱から飛び出し、主婦にクレームをつけた。
「やいやい。ぼくの使命はノドのイガイガをとることだ。薬箱の肥やしじゃないやい」
「風邪薬が怒ってる! ……しかし、今はそれどころじゃない。ノート(note)に恋愛小説を書いてるの。うそつきな6人の六角関係に、薬屋の少女と異世界勇者が加わって八角関係になって、ああ、この後どう展開させればいいの?」
うわ、八角関係とか、イガイガじゃないか。
ん?
ノートがイガイガ。
ノドがイガイガ。
トラ君は主婦のパソコンにピョンと飛びこんだ。
「何するの?」
「イガイガをとってあげる。ぼくの仕事だから」
出来上がった小説を読んで、主婦は喜んだ。
すべてが丸くおさまっている。
さすがトラネキサム酸だ。
「ありがとう」
主婦はにっこり笑った。
(415文字)
たらはかにさんの毎週ショートショートnoteと小牧幸助さんのシロクマ文芸部に参加しました✨
素敵なお題をありがとうございました。