Al Schmittの話 その2
前回の続きです。
Bob Dylanのレコーディングの話
前回はAl Schmittの総論を書いたので、今回は各論を書いてみよう。2015年に発表されたBob DylanのShadows In The Nightというアルバムのレコーディングに関してSound On Sound誌に記事が出ている。それを一部翻訳あるいは参照しながら紹介していく。
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Frank Sinatra
DylanのShadows In The NightはSinatraのカバーアルバムである。劣化しつつあるDylanの耳障りな鼻声は、Sinatraの優美なクルーナー唱法の対極にある。その声をあてにしてSinatraの古典的名曲に取り組むなんて、多くの人が最悪の事態を心配した。が、この作品はみなの期待をいい意味で裏切った。丁寧に優しく歌われたこの作品は、儚く美しく、時にゴージャスですらある。
Dylanと彼のバンド
Dylanの声も良かったが、控えめでミニマルでかつ完璧なバンドもそのアレンジも良い。時折顔を出すホーンも気が利いている。極めて自然な、かつ独自の世界観がある。そのサウンドをAlの素直な、あまりに素直な録音が支えている。「夜」の憂鬱と、その「影」を補うような温かみ、親密さの両方がここにはある。
「ずっと前からやりたかった」
そうDylanは語った。
「すべてがライブ演奏で、ワンテイクかツーテイク。オーバーダブは無し。ボーカルブースもない。ヘッドホンもなし。分けた個別の録りもない。そして殆どが録音されたままにミックスされている」
Un-Cover覆いを外すということ
「この作品はカバーではないと思っている。Sinatraはもう十分にカバーされてきた。実際のところ、(カバーされすぎて覆いがかけられたように)埋められてしまっている。僕らがやっていることは、覆いを外すこと(uncover)、墓場から持ち出して、陽の目を当てること」
方法論
Dylanの音楽的アプローチはSinatraと全く異なっていたが、Alの手を借りた本作のレコーディングの方法論はほとんど50年代のそれだった。そして、この作品がAlにとってもDylanとの初めての仕事だった。Dylanサイドが熱望し、都合がつかなかったAlを待つ形でDylanのバンドの予定を変えてまでして彼に依頼した。
Dylanの一行は録るべきスタジオを探していた。Alの本拠地であるCapitol RecordsのBスタジオを訪れた彼らは、その部屋の響きが気にいった。
「どこで歌うのが良いかな?」
Dylanがそう尋ねると、Alのアシスタントが
「まさに今立っている場所でしょう」
と答えた。そしてその結果がこの作品なのだった。
Capitol B Studioは、シナトラもしばしば録音した部屋だった。そしてAlの"庭"でもある。Alによるとレコーディングは「めちゃくちゃ良い感じだった」らしい。「昔ながらの方法でね」と。
7本のマイクが56ChのNeve 8068に入って、エレキギターとスティールギターにすこしリバーブを掛けて、Dylanの声にすこしリバーブとコンプレッションをかけて、あとは全部それを24トラックと2トラックのテープで録る。編集は無し。3曲は、この2トラックのテープがそのまま最終マスターになった。のこりの7曲も、バランスを取った程度でエフェクトは無し。ミキシングと呼ぶにはあまりにもささやかななにかだ。そしてこのアルバムは、「ミキシングエンジニアの秘密」と題されたシリーズで初の、ミックスを一切行わなかったアルバムになった。
(続)
以下投げ銭用です。作ライくんにどうしてみコーヒーをオゴりたい人用。内容はありません。
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