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[ネタバレ]イタべこ![楽曲解説]

はじめに

手品の種明かしをしてはいけない。魔法はとけない方が良い。でも知りたいって気持ちもあるよね。

はじめに書いておくと、この記事は野暮なことをしようとしている。先日リリースされた楽曲「イタべこ!」がどういう背景で歌われた曲なのか、作者が解説しようというのである。ここまで読んで嫌な予感がした読者は迷わず踵を返してほしい。

一方で、イタべこのあの歌詞、どういう意味なのだ?知りたいのだ…って思ってたフレンズはどうぞ。


歌詞

intro シャラララ

擬態語のようなこの音は、イタリアンのカジュアルさを適当に表現している。のちにこれは意味が変わってくるがそれはまたあとの話。


1A イタリア料理を食べに行こう!

府中に実在するイタリア料理店である「イタリア料理を食べに行こう」、通称「イタべこ」であるが、その店名そのままである。そういえば「イタべこ」か「イタう」か。はたしてお店の略称の正統はどちらなのか?を巡って、SNS上では激しい論戦が繰り広げられていたと聞く。

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さておき、正式な店名は「イタリア料理を食べに行こう」である。この曲はこの一節をメロディに乗せるところから作られはじめた。「食べに行こう」と末尾が[ou]なので、イタリア語の挨拶"Ciao"の[au]とあわせて韻が踏めないか?というのがこの曲のきっかけとなるコンセプトになった。

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ただし、タイトルを「イタべこ!」としたかった関係上、サビで「イタべこ!」を連呼せざるを得なくなると予想された。その場合、Aメロで「食べに行こう」と丁寧な日本語で歌うよりは、サビとの韻の統一感を重視して、よりラフな「食べに行こ!」がいいだろうということでこの形が採用された。

一人ではなくみんなで行くことを示すために「行こ!」は、さらに二回ダメ押しのコールアンドレスポンス形のハモリで連動を提示しておく。ポピュラー音楽の流儀として、この構造は基本的に最後まで守るほうがうまくいくことが多い。


出来たてのイカしたあの店にみんなで行こ!

これはただ事実を述べているだけである。イタべこは2020年6月13日にオープンしてまだ半年なのだ。また「出来たて」というとホカホカの料理を連想するという狙いもわずかにある。「イカした」は、一行目の「イタリア」と軽く踏んでいく姿勢を見せた歌詞。

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"Va bene!"はイタリア語で「オッケー」の意味。


くちコミ頼りにさあ出かけちゃお!

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これもただ事実を述べている行。2020年の初夏に開店したイタべこは、私が常駐するアライさん界隈を始めとしてSNSなどにおいて実際にかなり話題になっていたのだ。

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行こ!行こ!は飽きたので満を持してCiao!を導入。「出かけちゃお!」からの"Ciao!"連呼によって確かにイタリア料理店に行きそうな雰囲気になってきた。

なおこのスクショからもわかるように、リストランテの坂本さんによってかなり早い段階から「イタう」のネーミングが提案されている点もここに明記しておきたい。


ちょっとドキドキ「やあやあコンニチハ!」気ままな笑顔にドアを開けた

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初めて訪れるレストランは緊張する。気持ちもうわずり思わずカタコト日本語のイタリア人さながらの「やあやあコンニチハ!」などといったぎこちない挨拶をしてしまう「僕」。それを迎えた「気ままな笑顔」、それこそがイワイさんその人であった。いやちがう、人ではない。アライグマである。お察し下さい。

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(c) 致命イさん

気ままな笑顔にドアを開けた」とあるので、「僕」が店のドアを開けたのはイワイさんの笑顔を見たあとということになる。つまり、イワイさんは「僕」を店の外まで出向いて迎えてくれたという風景が説明されている。接客業の鑑である。


1B おっきなお皿、小さなお皿

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ドアを開けるとそこには、すでに大中小のいろいろなお皿が並んでいた。どういうことだろうか——「僕」は……なんと遅刻しているのである。なぜ遅刻しているのか——それは答えるまでもない愚問である。アライグマは、その本能から基本的に遅刻してしまう。

さて、そうして「みんな」が集り、宴もたけなわのイタリア料理店にたどりついた。遅刻しつつドアを開けた「僕」が見たのは、皆がかこむテーブルの上にすでに料理が並んでいるという光景だった。

作曲上で大切なポイントは、「ドアを開けた」=場面転換ということ。ここで関係短調のC#mに移行する。そのことを明示するためセカンダリドミナント的な第一転回形G#/B#。その代理変形としての増三和音であるB#aug(=Caug)がいきなり登場している。やや気分に変調をきたすような響き。リズムもこれまでのストレートなシャッフルからイーブンの四連符に一時的に変わっている。

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2022.2.2追記
伴奏のギターはB#augではなくただのG#/B#を弾いている。トライアドの転回形。メロと合わせるとaug的な響きになる。
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ドアは開き場面が変わり、「僕」は遅刻しながらも「みんな」に会ったことで心が動いた。その様子を、このような調性変化と四連符のタイムモジュレーションによって暗示している。この短いBメロ4小節を経て一気にサビへ。


1サビ イタべこ!イタべこ!みんなのリストランテ

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たぶんみんなと乾杯でもしているのだろう。ここは予定調和的「イタべこ!」連呼であって、特に解説するところはない。コードも王道の常套句であるトニックから増三和音と六度を経由して7thまで上がっていくパターン。最後にこっそり「イワイさ(ん)」と聞こえる仕掛けがあるのがちょっとした遊び。


2A イタリアのワインを開けちゃお?

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一番の歌詞は、イタリア料理の話だった。歌の舞台を彩るのは大きなお皿あるいは小さなお皿の料理たちであり、つまりそれはこの店で料理を担当する飯イさんのことである。二番はいよいよ店長でありワイン担当でもあるイワイさんの話。

冒頭からの三連符連打で心が躍動するさまを提示している。一番では「行こ!」となっていて、緊張しながらもイタべこ参戦を決意するような語尾だが、二番では「開けちゃお?」などと言っている。かなり馴れ馴れしい陽気ないい気分である。「僕」はすっかりご機嫌になってしまったのだ。

いまだ見たことがないキャンティの丘も飲み干しちゃお?

イタリアの一大ワイン産地であるキャンティ地方の丘陵地帯。その丘中のワインをぜんぶ飲み干してしまおう、と言っている。「」はすっかり気が大きくなってしまったようだ。キャンティの丘を「いまだ見たことがない」にも関わらず、府中の名店の空気に飲まれて、「我が心はいままさにイタリアと共にあり、すなわちキャンティの丘まさにこれ飲み干さんとす」などと調子にのっているわけである。イタリアだけになんともイタイタしい、ではなかった、なんともおめでたい人である様が描写されている。

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そのコルクを開けろ

おやおやすっかり酔ってしまいましたね。


2B 真っ赤なワイン

1Bでは、パスタ主菜副菜を紹介したので、ここでは当然ワインを各種紹介することになる。こういったparallel structureがポップスにおいては大事な作法である。でもさ赤ワインって色はべつに真っ赤ではないよね?こまけーこたぁいいんだよ。しゅわわ!しゅわわ!


2サビ みんなで大騒ぎ!

そんなわけでサビで大騒ぎである。


D 気になるあの子

構成上Cのメロと呼ばれることが多い箇所。リハーサルマークはDなのでややこしくてすみません。同主調のEmに転調する。「あの子」の様子を見て二転三転するような揺れる心に合わせてコードチェンジも追随する。

あのこ3

(c) 建イさん

さてそんなわけで「みんなで大騒ぎ」している「」であったが、じつはこの喧騒にありながら、ただ一人だけを気にしていた。「あの子」である。

テーブル越しに眺めると……「気になるあの子はほろ酔いヘブン」だった。そんな様を見た「僕の気分」もまた「Ces't Si Bon」だったのだ。イタリアなのに、おどけておもわずフランス語まで出てくる。

でも……「」は実は……アライさん……人には気軽には言えない身分……Twitterでいつも「のだのだ」言って……一日中のだつき回っていることがバレたら……そんなことがあの子にバレたら…「おしまい」なのだ……。

ちなみにここで歌詞の意味がわからなくても、ある意味では特に問題はない。ヘブン気分セシボン自分身分と五連続で韻を踏み倒しているため、耳障り的に音楽が成立する設計になっている。コードも根音がC-D-D#-E-F#-Gと連続して上がっていく順次進行的なラインで始まるため、推進力が強い。

ちなみに初期案は「気になるあの子はほろ酔い気分」だった。「僕の気分」と合わせて、「気分」を計二回使うハメになるのが嫌なのと、サントリーのCMがちらつくのがそもそも曲想にそぐわないので推敲した箇所。


Shalalala

だから美味しいワインを飲んで全部ごまかしてしまおう。アライさんはイタリア人なのだ!酩酊が現実の苦悩を泡と溶かしていく音、シャラララ


大サビ あの子もご機嫌さ!

そんななか、これはイタリアワインの力なのか、あの子はご機嫌で、今夜なにかが起こるようです。

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二人のリストランテ

そんなこんなで大サビだ。これまでは「みんなのリストランテ」「僕らのリストランテ」だったのが、最後になって突然「ふたりのリストランテ」と歌う。どうやら物語はハッピーエンドであるらしい。それはイタリアワインとイタリア料理のなせるわざか、それとも必然の運命か。シャラララ……。

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いままではハモリがついていなかったサビ最後の一行のメロディラインに、ここで初めてのハモリが付いた。さらには、これまで左右に合計二人いたハモリ担当もここだけ一人に減ることで、「二人」が二人であるさまをを示している。非常に地味ながら必須の仕掛けである。シャラララ……。


最後に

イタべこ!はこうして出来たのだ。でもこれはアライさんの考え。「こんなふうに聞いたのだ!」とか「こんなふうに解釈したのだ!」なんてのがあればぜひアライさんに聞かせてほしいのだ。

いたべこ

(c) 建イさん

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