標高2450メートルのルイヴィトン

頭が重くなってきた。ヤバイ、高山病か?そう思うとなんとなく吐き気もしてきたような気がする。ここは標高2450メートルの立山室堂:標準気圧1013hPaのところがこの高度なら767.3hPa、つまり酸素が薄いのである。

「ハア、ハア、ハア、」遊歩道は室堂の美しい景色を楽しめるコースだが、アップダウンも激しく、道を進むにしたがって呼吸も荒くなる。リュックも肩に食い込んできたような気がしてきた。
「少し休もうよ」と半ズボンでハイソックスのハズバンド(日本人です。愛媛県出身)に告げた。

ちょっとした石の上で休んでいると私たちの前を何人かのグループが現れては通り過ぎて行った。中にはトレッキングポールを持っての本格派、おしゃれな登山用帽子(絶対街中ではアカンやつ)の中高年など。                            
突然目立つあるカップルが現れた。
何かおかしい。                           異質だ。そう「恰好」が異質だ。
男性のそれは、山にふさわしいしっかりした靴、山の景色になじむ赤いチェックのシャツ、ベージュのコットンパンツ。この場に申し分ない。
異質の感覚を呼び起こしたそれはその隣の女性である。
ハイヒール・ワンピース・そして肩にはルイヴィトン(モノグラム:金具のついた高い風)だった。
えっ、ここは山、立山。銀座ちゃうし、梅田ちゃうし、八丁堀ちゃうし(3個目はわかる人にだけわかってもらったらよいです)。

私は今日の立山のために靴を買った。リュックも買った。「好日山荘」で時間をかけて服を買った。山へ行くための最初の入り口は好日山荘であり、あの味のある文字の下をくぐったところからすでに「登山」は始まっている(あくまで個人の見解です)。
そんな私にこの場所でルイヴィトンを見せられた日には「興醒めだよお姉さん」とつぶやきたくもなる。
山の景色というのは「今日のための登山服」をまとった人達もあって成立する。それこそあるべき景色なのだ(あくまで個人の見解です)。

デートなのね、あなた。                                                                                  たまたま行先が「立山(しつこいようだが標高2450メートル)」だったというだけなのね。

デートは時として勝負である。
数あるデートの中にはその人の人生がかかっている貴重な1回もあるかもしれない。                                                                                                                その1回に全力を注ぐことはしごく賢明である。

あえてこの立山でその1回が来てしまった。                                                   きっと彼女はそういう数奇な運命を生きているのだ。と思うことにした。


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