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fighting spirit
試合終了の合図は、
審判の声か、
それともサイレンか。
違う。
それは漫画の世界だけの話だ。
キャッチャーミットに球が埋まった音。
少し湿った、それでいて馴染み深い音。
空(くう)を切った俺のバット。
選球を見定めていたはずの視線。
その視界の片隅に映るのは、
喜びに満ち溢れた、
ベンチから飛び出す相手チームの選手たち。
背中越しのチームメイトの顔を、
見ることが出来ず、体が硬直する。
── 終わった。
足元が揺れる程の歓声よりも、
俺の鼓動の音がこだまして、
ただ、
ただ聴覚がなくなり、
無となった。
体を背後から包み込む、
三年間馴染みのある仲間の、
汗の香りと、震える体に、
俺はまともに「敗北」を認識した。
終わった。
ああ。終わった。
あれから何年経っただろうか。
夏の強烈な日差しと、
突き刺さる蝉の声。
そして、
乾いた土に湿気を含ませた、
特有のムっとした土臭さ。
胸が疼く。
青春の酸っぱさと、
頂点だけをめざした闘志と熱。
そんな訳の分からない感覚に、
今年の夏も支配されて。
俺は、いつまで経っても、
魂が昂る。
敗北の感情は、
努力をした者だけが味わえる特権。
痛ければ痛いほど、
人は成長する。
俺は、あの時、負けた。
確かに負けたが、
得たものは、勝者よりも多いと、
今は思える。
強がりと言われても構わない。
夏の匂いが運んでくる、
脳を突っつくような感情。
少し、苦味はあるが、
それが、今は心地良い。
だから、夏は嫌いじゃないんだ。
完
あとがき
野球部時代を思い出しながら書きました。当時の痛みは今も忘れませんが、歳を重ねるごとに思い出となって、あの時の思いは無駄ではなかったと今になると思えます。負けた時は自暴自棄になりますが、それは頑張った証拠だったのだと、昔の自分を褒めてやりたい、そう思えるようになりました。
台詞を使用してくださる方へ
①ご自身の音声配信や動画における公開、
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#桜吹雪の声遊戯
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(え…恥ずかしいですか?
②なお、いらっしゃらないと存じますが、
自作発言はお控えいただくようお願い致します。
③一人称、二人称、語尾の言い回し改変、
ご報告の義務はございません。
たくさんのチャレンジ、
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