第2話 金持ちが勢ぞろい
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「初めまして、桜庭悠と申します。
以後、お見知りおきを」
だだっ広い教室の中。長い脚を組んで座っている男子生徒が、私に目を向ける。今いる生徒は全員で5人。
有名指揮者の父とプロピアニストを母に持つ、沢渡晃介(さわたり こうすけ)。
大手オーガニック化粧品メーカー企業の御曹司、滝島草汰(たきじま そうた)。
ゲーム開発会社の代表取締役、阿久津涼(あくつ りょう)。
ダンスチームをプロデュースしている芸能事務所社長の長男、結城陽久(ゆうき はるひさ)。
デザイン建設会社をいくつも束ねている会長の孫、福澤淳平(ふくざわ じゅんぺい)。
日本を代表する会社の息子さんたちが、いま私の目の前にいる。
「私は桜庭悠(さくらば ゆう)様の専属執事、小笠原(おがさわら)と申します。
どうぞ、よろしくお願い申し上げます」
胸に手を当てて、丁寧にお辞儀をする小笠原さん。
「では、あちらの席へ。悠様」
手短に挨拶を済ませ、小笠原さんが示す席へ腰掛ける。
1人掛けのソファーはふかふかで、とても座り心地が良い。
「(人をダメにするソファーみたい)」
座り直すふりをして、ソファーのふかふか具合をもう一度確かめる。
「何アイツの座り方。女みてえ」
目の前に目を向ければ、滝島草汰がこちらを見ていた。気になって視線の元を辿れば、太ももをぴったりと閉じて座っている自分の脚。
「(やば…)」
軽く咳払いをして、皆と同じように脚を組む。それを見て、こちらに目を向けていた人たちは前に視線を戻した。
「悠様、授業の準備が整いました」
小笠原さんにそう言われ、サイドテーブルに目を向ければ分厚い教科書とペンが置かれている。それも、私の名前が金箔で印字されている教科書とペン。
思わず、ぎょっと目を見開いた。
「えっ?あっ…それくらいは自分で…」
「悠様。
お言葉ですが、ここではあなたの一切のお世話を私が担当させて頂いております。全て私にお任せを」
「あっ、はい…」
手慣れた手つきで、チャキチャキと準備を進める小笠原さん。
「あーあ!なーんか、今日の空気まずいなー!成金の味がする!」
「だよなあ!」
和気あいあいと騒ぐ金持ちたち。どうやら、私はあまり歓迎されていないらしい。
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