第10話 吉凶担う専属執事

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「いっ、いつから…?」

あまりにも早すぎる。編入した初日から、なぜ…?

おずおずと聞く私に対して、小笠原さんは端正な顔立ちをぐっと近付けた。その隙に、強く掴まれる私の両手首。

「最初から、かもしれませんね」

キスできそうなくらい、顔の距離が近い。

「悠様。なぜこのような真似を?」

自分の顔が赤くなる。手を覆い隠したくても、小笠原さんに両手首を掴まれているせいでできない。そして、この質問に答えることもできない。

「答えて…くださらないのですか?」

今の私にできるのは、目を横に逸らすことだけ。気を抜くと…この空気に流されてしまう。

「…そうですか、答えてくださらないのですね。やむを得ません、学院側に連絡を…」
「待って!それだけは…」

それだけは、ダメ。私の計画が全て流れてしまう。

「では、お答えください。
…理由次第では、あなたを助けることができるかもしれませんよ?」

−目の前にいる執事は、吉と出るか凶と出るか。

私はもう一度、小笠原さんの目を見る。そしてゆっくりと口を開いた。

「…婚約者探し、をしているんです」
「婚約者探し、ですか」

小笠原さんは考え込む素振りを見せると、ふふふっと笑みを漏らす。

「悠様は、とても面白いですね。
良いでしょう、これは俺とあなた様2人だけの秘密ということで」

小笠原さんはそう言うと、私の前から退く。そして「お風呂の準備をしてまいります」言い残し、バスルームへ入って行った。

「(うっわ~!死ぬかと思った…!)」

とりあえず、首の皮一枚は繋がった。

「(…婚約者探し、か)」

ここに来てから、嘘しか吐いてない。

乱れた制服を手で整えながら、ぼんやりとバルコニーの方へ目を向けた。

「(…はあ)」

息が詰まりそうだ。

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