第9話 嘘つきは何とやら

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「ふっ」

私の背後から聞こえてきた小さな笑い声。私含めた全員が、笑い声の主に目を向けた。

「…何がおもろいん?小笠原サン」

制服のポケットに手を突っ込んで、小笠原さんを睨むように見る沢渡晃介。

「いえ。失礼いたしました。
ただ…私はすごい人にお仕えしているんだ、と思うと嬉しくて」

小笠原さんはちょっと上機嫌に言葉を返すと、静かに目を伏せた。
その瞬間、始業のチャイムがタイミング良く鳴り響く。

「韓国語の授業でございますね」

小笠原さんの声が弾んでいるように聞こえる。私はこくりと頷くと、小笠原さんが教科書の用意をしている光景をぼんやりと眺めていた。

全ての授業が終わり、ぐーんと伸びをする。

「(あー疲れた。早く部屋に戻って休もう)」

私は教科書をしまおうと手を伸ばす。しかし、それは別の手によって遮られた。

「悠様。荷物は全て私がお持ちいたしますね」
「あっ、…お願いします」

宙に浮いた手を誤魔化すように、私は小さく咳払いをする。

ふと顔を前に向ければ、また阿久津涼と目が合った。

「…」

小さく息を吐くと、静かに立ち上がった阿久津涼。私は特に気にも留めず、静かにその場から立ち上がった。

「あー!もう疲れたー!」

ぼふん!とベッドに飛び込み、ローファーをその場で脱ぎ捨てる。綺麗に掃除された床の上に、ゴンッと落ちる私のローファー。

私はベッドの横にあるサイドテーブルから、お気に入りの漫画を取り出した。

「悠様。スリッパを着用させていただきますね」
「うーん…」

ベッドの上で漫画を読んでいる私の脚を触る小笠原さん。漫画に夢中だった私は、小笠原さんがどんな目を向けていたのか気が付かなかった。

「…悠様。なぜ、女性であるあなたがルミエール学院に?」

漫画から目を離し、がばっと起き上がる。そして、視線は小笠原さんの方へ。

「な、なんで…」
「ふふっ。さあ?なぜでしょう」

目を見開いて驚く私を差し置いて、小笠原さんはただ不敵な笑みを見せる。そして静かに立ち上がると、私の首にかかっているネクタイをしゅるりとほどいた。

「1つだけ言えるのは…俺の楽しみが増える、ということですね」

これは、まずい。

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