中学聖日記⑩ 〜中学生に手を出した話〜
そして12月。
舜は菫との関係が悪化して、別れることになりました。また訪れた舜のフリータイム。
ただ舜にはひとつ問題がありました。
大学受験です。
舜はこれでも受験生だったのです。貴重な半年間を菫に捧げてしまっていました。もちろん塾には行っていましたし、彼はやるときはやる男です。
ただ、過去のエピソードでもお話したように、高校1.2年は廃れた生活を送っていた舜。
勉強なんてほぼしていないと言って良いでしょう。
しかも、目指している大学がかなり高いランクの私大でした。こんなの、まぐれで入れるところじゃないだろう…と、私も半分諦めモードではあります(まだ合否は分かっていません)
舜と話しました。
舜が大学生になったら、私は彼氏と別れて舜と付き合ってもいい。その覚悟でいる。
でも、5歳下という関係性でさえ難しく思っているのに、浪人してしまったら6歳下になることと同じ。浪人したら私は付き合わないよ。
我ながら酷な決断だったと思います。
舜が合格できるかなんて分からないし、そんな選び方で果たして良いのか。
でも、私にできる最大限でした。
舜は私のことを想って、目標を持って勉強すれば志望校に受かる、それは高校受験で証明されたと感じています。
だから、私との未来を本気で考えてくれるならば、それが非常に大きなモチベーションになると思いました。
だから私は舜に、喝入れのためにお守りを渡すことに決めました。あの時みたいに。
同じ人の受験を2回応援することなんて、今までもこれからも無いと思います。子どもが産まれて初めて経験することだと思っていました。
コロナ禍で初詣に行くことができなかったので、お揃いの招き猫のお人形と幸運を呼ぶように願いが込められたボールペン、お手紙を渡すことにしました。
待ち合わせは最寄駅、舜の塾が終わった18:30。ご飯を食べる約束をしたので、最寄駅で知っている最大限お洒落なレストランを予約しました。
色々波瀾万丈な関係だった私たち。
でも最終的にここに行き着くんだな。
久しぶりに会った舜は変わっていませんでした。相変わらず背が高くてかっこよくて、笑顔がかわいい舜でした。
お店に着き、ふたりでお揃いのオムライスを注文しました。
すると、私たちを待っていたかのように
真横で花火が打ち上がったのです。🎆
教習所からの花火だったようですが、レストランが教習所の真隣だったので、全てが奇跡的でした。
花火は30分ほど打ち上げられ、私たちは素敵な景色と共に会話を弾ませました。
「すぐ舜は彼女作るからな」
「でも、結局回り回って先生のところに戻ってくるから安心して」
「いや、回り回る必要なくない?」
「じゃあ彼氏と別れてよ」
この会話がお決まりでした。
でも今回はそれに加えて、もうひとつ話題がありました。私たちの今後について。
私はきちんと、「舜のことを本気で考えている」と伝えました。
その言葉が受験へのプレッシャーをさらに大きくしてしまいましたが、でも、モチベーションにもなったかなと。
それからはふたりで結婚式の話などをしました。先の話ではあるけれど。
「さすがに中3に手出したって言ったらマズイよね、偽装工作しよう」
「俺がずっと先生のこと好きで、3年後に偶然最寄で再会して…そっから連絡先交換して…とか?」
「よくバッタリ会うし、あり得なくはないシチュエーションだよね笑 よし、それをユキちゃんに伝えておくわ。ユキちゃんにスピーチ任せるから」
幸せでした。
舜はやっぱり私のことが好きだった。
3年間ずっと、舜の頭にいるのは私だ。
そう感じた瞬間、改めて安心するのでした。
ユキちゃんの「先輩には舜くんがいるから大丈夫です」が脳裏を再びよぎります。
そして舜に御守りのプレゼントを渡し、店を後にしました。
外は極寒。私の冬のスタイルは、白のもこもこマフラーと手袋が欠かせません。
私の横を歩く舜が言いました。
「いいな、手袋」
「いいでしょ」
と、舜に手袋を見せつけようとしたその時。
気付いたら、私は舜と手を繋いでいました。
「隙あり」
そう言う舜は、マスク越しににやりと笑いました。
「それはずるいって…」
3年以上友達以上恋人未満の関係を続けてきて、初めてのことでした。高校生と手を繋いでドキドキするなんて。
そのあと駅までふたりで手を繋いで歩きました。
「まだ、帰りたくない」
と舜がぼそっと呟きました。
お泊まりを匂わせる誘い文句…
ではなく。この日は、私は自転車・舜は電車だったので、駅でお別れだったのです。
今は21:10。舜は、21:30まで一緒にいさせてとお願いしてきました。
私は承諾し、ふたりで懐かしの場所に行きました。大きな図書館の前の広場です。
合宿の翌日に舜と会ったのも、舜に高校合格の御守りを渡したのもここでした。
また3年後にふたりでここにいるなんて。
「懐かしいね」
私たちは過去3年間の思い出を語り合いました。2人でいると、思い出が溢れ出てくるのです。3年前の、出会ったときのふたりに戻ったようでした。
「ねぇ先生、俺、先生のこと大好きです。愛してます。こんなに好きになれる人いません」
舜はそう言うと、照れながら私のことを強く抱き締めました。3年前、夜の大学に不法侵入したときのあすなろ抱きとは全く違いました。
もう大人の体格の舜。
身長が180センチあるため、163センチの私は軽く埋まってしまいます。
目の前には交番がありました。
こんなところ見つかったら、今度こそ捕まってしまう…と思いつつも、私は舜を抱きしめ返しました。愛しさが止まらなかったのです。
そしてこう言いました。
「舜、私のこと幸せにしてね」
「もちろんです。幸せにしますから、待っててください。」
私は舜と付き合い、結婚するのだと思いました。舜の苗字と自分の名前を重ね、「おお、なかなかいい名前じゃん」と思ったり。先程ふたりで計画した結婚式のプランが現実的になるんだなとわくわくしたり。
はやく彼氏と別れないとな、と罪悪感に駆られたり。
舜の受験がうまくいかなかったらどうしよう、と不安に陥ったり。
舜の胸の中で、そんなことを考えました。
頭の中はぐるぐるでした。理性なんてものは無し。今は目の前にいる舜が愛おしくて、好きでした。
21:30になり、私は舜のことを見送りました。
次は受験後ね、と約束をして。
今は受験勉強に集中するんだよと。
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1月の中旬。
受験勉強の邪魔をしてはいけないと、舜との連絡を我慢していた私の元に、舜から1通のLINEが届きました。
「これってどういう意味?」
そこには、韓国語で사랑해요と書かれた写真が添付されていました。
私は韓国語を勉強していたのです。
「愛してる だけど」
「ふーん、そっか」
嫌な予感がしました。この写真は明らかに女の子の字だったからです。
私「何女作ってるの?」
舜「さあね🥰」
私「え、付き合ったの?」
舜「まだ付き合ってはない」
私「舜にとって私はその程度だったの?」
舜「んーそんなこと言われても」
私「私は舜の受験が終わるのを待ってたんだよ」
舜「終わらなかったら?」
私「それはその時また考える」
舜「なんだかんだ俺以外のところいきそうじゃん?」
私「今のままじゃ舜が他の人のところに行くじゃん」
舜「うーん、でも俺この子が好き」
私「都合良すぎてウケる。結局そんなもんなら最初から好きとか言うのやめてくれない?私がどれどけ舜のこと思ってたか、わかる?」
舜「元カノへの不満とか、別れた寂しさとかで勘違いしてたんだと思います。すみません。この子が好きなので、先生とはごめんなさい」
私は状況がよくわかりませんでした。
最近のデートから2週間も経っていません。
こんなこと、ある?
でも、そうなんだと受け止めるしかありませんでした。そしてあることを決めました。
女を振り回すのはやめて。
舜が無償の愛を注いでくれてたことが私の活力でもあったわけで、好きと好きじゃないをコロコロ使い分けるのは いくら私が年上だろうが 傷つくものは傷つく。
舜が別れて寂しかったりするのもわかるし そういう辛い時に近づいてくる女に魅力を感じるのもわかるけど、お願いだから受験に集中してください。舜の先生として思います。舜は何か他のことに夢中になると周りが見えない性格なんだから、それくらい自覚しててほしい。諦めるのはまだ早い。
あとそういうときに近づいてくる女は基本ろくでもないから!また女を否定すると桜子ちゃんのときみたいに逆ギレされそうだからそんな言わないでおくけど。
私から言えることは以上。
これを境に、舜のことを本気で考えることはもう2度と無いです。私はずっと舜の先生っていう立場を貫きます。
これに対する返事は素っ気ない「はーい」のみでした。それ以降舜とは連絡を一切取っていません。こんなに呆気ない終わりなの?と、心も身体も空っぽになってしまいました。
2度あることは3度あるといいます。
だから、舜は今の好きな子とうまくいかなくなったらまた私の元に戻ってくるのでしょう。
「回り回って先生のところに戻ってくる」と本人も言っていましたし。
でも、流石に傷つきました。
3年間私を想っていた感情が偽物だったとは思いたくない。でも、本当の愛なのだと確信していた私がいかに哀れで虚しい人間だったか。
桜子のときも、菫のときも、
私のことを否定して、彼女が大切だと主張していた舜。きっと今回もそうでしょう。
よく考えたら当然です。
遊び盛りのころに、結婚を意識しなければならない年齢の女が立ち塞がっているなんて邪魔で仕方ないですよね。
しかもその人は、受験に失敗したら付き合わないという過酷なミッションを課してくる。
それなら自分を好きと言ってくれる、同い年くらいの女の子のほうが手っ取り早いですよね。
私はからっぽになった心で笑いました。
本気にしていたのは私だけだったんだ。
読者の皆さんも、呆気ない結末に不満だと思います。ですが、これが現実でした。
私はもう今後、舜からどれだけ愛の言葉を貰おうとも本気にしません。
また裏切られる、と思ってしまうから。
でも私には、舜から貰ったプレゼントがあるから彼のことを忘れることができないのです。
歌です。
舜が「My hair is Badの味方っていう曲、先生のことを想いながら聞いています」といってくれたこと。今では毎日「味方」を聴いて、どの歌詞に私を重ねていたんだろうと想像しています。
そして、中学聖日記の主題歌である、Uruさんのプロローグ。この曲を聴くと、舜との思い出がぶわあっと溢れてしまいます。
「あなたを探してる 隠した瞳の奥で
誰にも見えぬように 行き場もなくて彷徨いながら」
「あなたと見る世界はいつでも綺麗だった」
「あなたが溢れていく 抑えた胸の数だけ」
「あなたに触れたいと思ってしまった どうして二人出会ってしまったの」
この歌詞を聴くたび胸が熱くなり、
私はどこで間違えてしまったんだろうと悩むのでした。
私はまだどこかで、舜が私と一緒にいる未来を描いてしまっています。でももうその日々は訪れないでしょう。
だからせめて、この綺麗で尊い、私の大切な記憶を書き留めておくことにしたのです。
そうすればどこか整理がつくと思ったから。
いつかお互い幸せになって、
どこかで、違う形で再会できればいいね。
「終わり」としてしまうとほんとに終わってしまうから、いつかまた続きを書くことができるように。
続く☺️
〜ご愛読いただき有難うございました!〜
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