中学聖日記⑨ 〜中学生に手を出した話〜

2020年4月。私は遂に社会人になりました。
緊急事態宣言が出る中で学校に飛び込み、始業式だけ生徒に会えたのみで自宅勤務が開始。というような、イレギュラーな社会人生活が始まりました。

私にとっての変化はそれだけではありませんでした。4月10日、社会人になって1週間で同僚の彼氏ができてしまいました。
隣のクラスの担任、32歳。私の10個上でした。(今は彼氏と馬が合わず、別れようとしている最中ですがその点は気にしないでください)私の一目惚れではありましたが、「付き合ってくれますか?」と告白してくれたのは向こうでした。

私は付き合ってから3日ほどして、舜に連絡を入れました。

私「報告がある」
舜「まさか、彼氏ができたとか言わないよね?」
私「よくわかったね」
舜「は、まじ?」
私「ごめんね。32歳の人。」
舜「はあ??俺の時は5歳差は離れすぎてるからって言ってたのに10歳差って…。しかも、出会って1週間?俺、咲桜先生のこと好きで何年経つんだろ…死にたい…」
私「それはそう、ごめんね」
舜「もう咲桜先生が好きじゃなさそうな人になろっ」
私「そしたら舜からもっと遠ざかるけどいい?」
舜「だって、いいなと思う人ならそんなスッと付き合えるのに、俺は何もなしって…」


舜が本当に傷ついているんだということが伝わり、私の心も痛みました。でもこればかりは、仕方がないことでした。これで舜に彼女ができようと、私は文句を言ってはいけないなと感じました。

しかし私の彼氏は所謂「人間性」や「感性」に欠け、人や自然などあらゆるものに対して美しさや偉大さなどを一切感じない人だったのです。だから私は一度も「かわいい」などの褒め言葉を受け取ったことがありませんでした。自分をかわいいと思っているから、ではなく、彼女を喜ばせたいなどの感情が一切ないという事実がとても悲しかったのです。
やはり、彼氏には愛されたいものです。

だからこそ、私は舜からの過剰の愛が恋しくなっていました。何をしても、どんな生き方をしていても肯定してくれる。褒めちぎってくれる。愛してくれる。
そんな人が、世の中にはなかなかいないし 出会うことも滅多にない。でも私は年下ではあれど出会うことができているのだと、改めて舜の存在に特別感を感じていくのでした。


しかし、そんな気持ちもまた裏切られることになります。

だいたい6月頃でしょうか。
舜のSNSに、再び女性の影が現れ始めました。

「彼女?」と聞くと「うん」。
私は強がって、「よかったね!お互い幸せになろうね!」と返事をしました。

彼女の名前は菫ちゃん。
プリクラを見る限り、ギャルっぽい雰囲気を醸し出していました。出逢いはやはりライブらしく、お揃いのマイヘアパーカーの写真が投稿されていました。

暫くすると、私はまた舜に、Instagramも LINEもブロックされていました。Twitterだけが唯一の舜との連絡手段でした。でもブロックされた身で、舜と連絡を取る理由もありません。

だから私は再び舜と縁を切ったような関係に戻りました。文房具屋さんで見かけても、また身を潜めなければいけない生活です。
何も悪いことをしていないのになんで避けなければいけないんだろうと思いながらも、そうするしかありませんでした。

7月27日。
私のTwitterに、舜からひとこと「さくらせんせー!」とメッセージが届いていました。
私は「縁を切ったんじゃなかったの?」と皮肉っぽく返信をしました。

連絡をしてきた理由を簡潔にまとめると、こんな感じでした。


菫ちゃんと付き合ってそこそこ経って、一通り済ませた。すると相手が異様に手慣れた感じをしていて、過去のことが気になってしまった。聞いてみると、経験人数が19人で、前は浮気して誰でもいいから身体の関係を持っていたらしい。貞操観念が狂っているのが無理。

Twitter(私と繋がっていないアカウント)、LINE、Instagramのアカウントを共有していて、Zenlyで位置情報も見ている。

私がブロックされていたのはそれが原因か、とすべての辻褄が合いました。私の存在がバレないようにしないといけないから、古いTwitterアカウントを使って、私との連絡手段を残していたのです。
それにしてもSNSをすべて監視されているだなんて、頭が狂っているのではないかと思いました。

「カカオトークとかで会話する?」と我ながら良いアイデアを出すも、「スクリーンタイム(その日に携帯で何のアプリを何分間使ったかわかる画面)もすべて送ることになっている」と、狂気じみた言葉が返ってきました。
桜子のときもそう。今回もそう。
舜はメンヘラキラーだったのです。


「せっかく咲桜先生以外でいいと思えたのに」

また、私を軽率に扱ったな。
私以外にいい人が現れるなんて考え、100年早いぞ。そう思いました。

「だからまた、咲桜先生のところに戻ってきてしまいました」

うんうん、舜はそれでいいんだよ。
私に夢中の舜が1番かっこよくて、イキイキしているの。
私の中の舜への想いも狂っていたと思います。
でもその時は本気でそう思っていました。


8月。
私は人生観や自分の生き方を見つめ直すきっかけになる作品に出逢います。
それが「中学聖日記」でした。
だいぶ前の作品ですが、私は今までなぜか観るのを避けていました。自分が批判された気分になりそうだったからです。
ですが思い切って観てみると、そこは私の今まで隠し持っていた思いの宝庫でした。

黒岩くんと聖ちゃんの関係は、まさしく舜と私だったからです。
もちろん色々違うところはあるけれど、でも、私たちを相当美化して描いたらこうなるんだなと思えるくらい、実写化だったのです。
もしあのとき付き合ったり、踏み込んだ関係になって、舜の親にバレたら。
もし職場にバレたら。
私たちの「たられば」が、そこにはありました。

でもそこに存在するハッピーエンドも、私たちを描いているのかなと微かに思いました。
黒岩くんだって彼女を作っていたし、
聖ちゃんにも婚約者がいた。
でもお互いに惹かれているという事実がある以上、どんな形であろうとふたりは結ばれる。
だからもしかして私と舜も、今はふたりバラバラの道を生きているけれども、いつか想いが交わる時が来るのではないか。

突然ですが 私には仲が良くて、舜との関係をよく知る後輩がいます。名前はユキちゃん。
ユキちゃんは3年前の合宿にも一緒に行っていて、舜が私のことを如何に好きだったかをよく知っています。

私は、翌日ユキちゃんと洒落た和食屋さんに行き、中学聖日記を観て抱いた感情について話しました。

そのときユキちゃんは言いました。
「彼氏とどんなにうまくいっていなかろうが、先輩には舜くんがいるから大丈夫です。」

この言葉にどれだけ救われたか。
私は愛されている。愛されていた。
過去形であろうと、私は愛される価値がある。

この気持ちを今、舜に伝えないと。
そう思いました。

でも舜にそのとき、「やっぱり菫を大事にしようと思う。咲桜先生のことは今は特に何も思わない」と言われてしまいました。
私も舜も、どこまで自分勝手なんだろうと。苛立ちを覚えましたが、でも私はこの気持ちをストレートに伝えました。


自分の将来とか立場とか色々考えて観るのを避けてたドラマの中学聖日記を観たんだ。
自分が中学校教諭だっていうことをふまえて、今後の戒めとして観たの。
でもね、私の頭に浮かんで離れなかったのは今の生徒とかではなく舜だった。
ドラマの展開が殆ど舜と重なって、懐かしさに浸る反面、自分が今まで抑えてきた気持ちが何だったのかを考えたの。

私は舜のことを 未成年だから、て理由で避けてた。中3だった当時から、高校生になってからもずっと。
でも私にはそれ以外、舜を突き放す理由がなかったんだよ。
私がなんだかんだ言って舜との関わりを100%絶つことができなかったのは、舜に対して何か生徒とは別の感情があったからだと思う。
大切な存在だったんだと思う。

舜のこと 散々苦しめたよね。ごめんね。
気持ちに応えなかったくせに、すぐ彼氏とか作って傷つけたくせに、今更こんなこと言ってごめん。
でもやっぱり、未成年の舜に手を出せなかっただけで、舜自身は手放したくなかったんだと思う。
生徒じゃなければ、5個も歳下じゃなければ、て何百回も考えた。
それだけ私にとっても大切な人だったよ。

舜のきもちは揺れやすいから、今後はどうなるかわからないけれど、
もしまた私に気持ちが傾くことがあれば 連絡ください。今は、彼女とお幸せにね☺️

↑実際に送ったLINEです。

このメッセージには流石の舜も揺れたらしく、泣いてしまったそうです。
でも私たちはそれ以上の関係になることはなく、また私のことを大切だと思う日がきたら戻ってくるという暗黙の了解で会話は幕を閉じるのでした。


続く🐣
(次回、ついに最終回!)

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