国内通信事業・キャリアサービス会社が今後買収したいサービスとは?
調査対象企業
KDDI、NTT、SoftBankの3社が調査対象。
本稿では国内通信事業会社として、3社取り上げ、基本情報やM&A動向に触れます。各社とも通信事業をもとに、非通信事業を展開し、来るべきAI・IoT時代を見据えた動きを取ってる点が特徴的といえます。
基本情報
2017年3月期の決算は以下のとおり。
NTTグループの売上高(営業収益)は11兆3,910億円、営業利益は1兆5,398億円とトップになっています。
次いで、売上高・営業利益ともSoftBank、KDDIという順です。
営業利益率ベースでは、19%とKDDIが首位に立ちます。
1985年の「通信自由化」の動きをもって、現在の「NTT」「KDDI」「SoftBank」が誕生するに至りました。
各社、主な収益基盤は以下のようになっており、
・NTTは、クラウド、システムインテグレーション
・KDDIは、国内通信事業
・ソフトバンクは、ブロードバンド事業とヤフー
各社携帯通信事業以外に強みを持っていると言えそうです。
子会社件数
2013年~2017年で各社が子会社化した件数は以下の通り。
3社合計で案件数は124、事業譲渡含む子会社化件数は44社に上ります。
企業別調査【概要】
KDDI
直近のKDDI社の動きとしては、15年迄はauスマートパスやauスマートバリューにより3M戦略を推進し、通信事業の基盤を固めています。
また16年よりマルチユース分野を固めていくためにIoTサービスの普及促進や、顧客の基盤を活用し付加価値ARPAの伸張を狙いとして「ラインデザイン戦略」を掲ています。
現在の主な事業は「国内通信事業」「ライフデザイン事業」「海外事業」の3つになります。
ソラコムの買収が記憶に新しくありますが、De コマースやLoco Partners等もあり、これは「ライフデザイン事業」の拡大を意図したものでしょう。
IRの記載のとおり、今後もコンテンツ、決済、物販、エネルギー、金融、サービス等の従来の通信サービスから拡張していくためのサービスはM&A狙いの本丸であることは間違いさそうです。
NTT
15年より中期経営戦略として、「グローバルビジネスの拡大・利益創出」「国内ネットワーク事業の収益強化」「B2B2Xビジネスの拡大「自己株式取得」、これら4つを掲げています。
直近の動きとしては「設備投資の効率化」「コスト削減」を図り、地域通信事業や移動通信事業の営業利益の改善が目立つと言えるでしょう。
またNTTの場合、他のCVCファンドとは異なり、NTTグループ内で資金を調達し、その資金をNTTドコモ・ベンチャーズが投資を行っています。他社と比較した際に、自社の事業に対して付加価値のある事業やサービスなのかというポイントがよりシビアと言えそうです。
SoftBank
2016年3月期の、SoftBank社の事業上でのニュースは「ARMの黒字転換」「スプリントの増収」の2つが大きかったのではないのでしょうか。また同決算説明会では、”金の卵を生むガチョウ”と自社を称し、「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」についても大きく触れていました。
他2社と同様に国内通信事業が収益事業となっており、営業利益ベースでも約7割が同事業を占めます。「顧客基盤の拡大」「OTT(Y!シナジー)」「新領域の拡大」といった成長戦略を掲げており、各社とも国内通信事業で獲得した顧客基盤をいかに固めつつ、そこから更に拡大していくかという流れは同様といえるのではないでしょうか。
SoftBank社のこれまでのインターネット投資は、コマースやコンテンツといったグループのビジネスモデルと親和性の高い分野への投資、さらには交通サービスといった成長分野、かつ新興国を狙った成長市場を中心に行ってきましたが、2016年度に入ってからは、当社が保有するアリババ、ガンホー、スーパーセル売却することを決定しています。
引き続き足元の事業を固めていくことは勿論ですが、「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」での積極的な投資動向からもシンギュラリティを見据え、今後もAI/RPAプロジェクトを推し進めていくことは間違いなさそうです。
企業別調査【M&A動向】
KDDI
ファンド概要
2011年5月にKDDI∞ラボの1期募集を開始
2012年2月に「KDDI Open Innovation Fund」1号ファンドを設立、ファンド規模は50億円
2014年7月に2号ファンドを設立、ファンド規模50億円
KDDI∞ラボは約半年に一度のペースで募集を開始し、17年10月現在で、12期目に至る
主な投資分野
「Game」「O2O」「Payment」「Media」「Education」「Photo / Movie」「EC」「Tool」といった分野を主な投資領域としています。
KDDIの持つ多くの企業との幅広いネットワーク、マーケティングスキル、auスマートパスをはじめとする各種サービスとの連携に加え、豊富なベンチャー支援経験を持つグローバル・ブレインの事業運営支援により、投資先企業の「パートナー」として投資先企業の成長を強力にサポートします。
最近の子会社化・事業譲渡状況については以下のようになっています。
KDDI Open Innovation Fundは、合計39企業へ出資を実施しています。(2017年8月3日現在)
KDDIの最近の出資動向で注目されるのは、ソラコム買収に見られるIoT関連の企業への出資・買収です。
(1)新たなIoTビジネスの創出、(2)グローバルにも通じる「日本発」のIoTプラットフォームの構築、(3)ソラコムの海外展開の加速、(4)次世代ネットワーク基盤の構築(LPWA/5G)
ソラコムの連結子会社発表では 両社の生み出すシナジーについて上記を挙げています。KDDIにとって、同社の買収の意味合いは非常に大きく、既にAWS導入サービスの最大アイレットや、データ分析企業ARISE analytics等を傘下にしており、こうした企業との連携により、IoTを始め、AIやSDN領域への楔を打ち込むことができるようになるのではないでしょうか。
また上記分野以外にも、金融、生命保険、電力、コマースなど非通信分野への出資を行っているのも特徴的であります。従来の3M戦略、現在のライフデザイン戦略のもと進めています。
メディア企業では「nanapi」や、KDDI傘下のSyn.ホールディングスによる「コネヒト」の買収、「TSUMIKI」のCCCへの売却、EC・サービス分野では「LUXA」や「Loco Partners」の子会社化が挙げられます。KDDIの顧客基盤を中心としたサービスに対する出資や買収といった動きは今後も継続して続くと見られます。
NTT
ファンド概要
2008年3月に「NTTインベストメント・パートナーズファンド投資事業組合」1号ファンド、規模150億円
2014年1月に同2号ファンドを設立、規模は100億円
2013年2月に「ドコモ・イノベーションファンド投資事業組合」を設立、規模は100億円
主な投資分野
主な投資領域は、KDDIとは大きな相違はありませんが、クラウドやエンタープライズ分野への投資が目立ちます。
対象とする分野は、ICT技術、IoT分野、プラットフォーム、アプリケーション、サービス、コンテンツなど情報通信関連分野全般です。
最近の子会社化・事業譲渡状況については以下のようになっています。
海外投資やM&Aについては巨額投資を行っており、米DELLのITサービス部門や印vCentric Technologiesの買収等を行い、海外のBPO事業やSAP事業に積極的な投資を図っています。本稿ではNTTドコモ・ベンチャーズを中心とした国内のM&A動向について扱いたいと思います。
KDDI同様、通信会社としてではなく、通信事業を中心とする総合サービス企業に転身を狙いからか、09年にテレビ通販「オークローンマーケティング」、12年に有機野菜宅配サービス「らでぃっしゅぼーや」、同年CD販売「タワーレコード」と買収・子会社化を積極的に展開しています。
これらのM&Aでは、提携先とのシナジーを発揮するだけでなく、ドコモのサービスそのものへの取り込みも行われています。例として、dショッピング上でオークローンマーケティングの通販商品や、らでぃっしゅぼーやの有機野菜、タワーレコードのCD/DVD等を扱っています。
将来的には音声通話収入の減少や、スマートフォンのデータ通信料の伸び悩みも見据えたものであり、音声通話とデータ通信に頼らない収益構造の構築を目指しているのではないでしょうか。
SoftBank
ファンド概要
2011年に「SBイノベンチャー」を設立
2016年10月に「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を設立、規模10兆円
主な投資分野
他の2社も同様ですが、分野問わず積極的な出資やM&Aを行っています。
KDDIやNTTと比較して、海外企業分野への桁違いの投資が目立ちます。また連日のように大型の出資や買収が飛び交います。
最近の注目度の高い案件として以下のようなものがあります。
スナップディール(Snapdeal):2015年8月、17億ドルで出資。
ARM:2016年9月、243億ポンドで買収。
ボストン・ダイナミクス(Boston Dynamics):2017年6月、非公開。
最近の子会社化・事業譲渡状況については以下のようになっています。
「ソフトバンク・ビジョン・ファンドの設立により、世界中のテクノロジー企業への出資をさらに推し進めることができる。本ファンドは、今後10年でテクノロジー分野において最大級のプレイヤーとなるだろう。我々は、出資先のテクノロジー企業の発展に寄与することで、情報革命をさらに加速させていく」
17年3月期決算説明会からは、ARMとの事業シナジーに強く触れており、シンギュラリティを備えて最先端テクノロジー分野に投資する意向を述べています。また初回クロージングを完了してから時を待たずして、「Plenty2億ドル」「WeWork44億ドル」「Slack2.5億ドル」等大型投資を行っています。
本稿では国内2社と同様に比較するのが非常に難しい為、SoftBank社M&A動向については別途切り出して扱えればと思います。
今後買収したいサービスは?
a. 金融・コマース・メディア
この分野は既に2-3年前にピークが来たと思われますが、
生命保険や住宅ローンといった金融分野、決済まで一通したHalloや他予約やコマース系サービス、やや逸れますが関連したセキュリティ分野は狙い目ではまだ見通しがあるのではないでしょうか。
b. センシング、ロボティクスやコンシューマ、ビジネス向けのIoT
ソラコムやARMの買収から、IoT周辺サービスやその基盤にプラットフォームになるサービスは引き続き出資・M&A対象の本丸ではあることは間違いなさそうです。最新のKDDI社のアクセラレータープログラムでも、これらの分野を活動テーマを掲げています。
c. ヘルスケア
各社とも、医療・ヘルスケアの領域についてはまだまだ手薄な状況ではあるのではないでしょうか。
最近の動向では、NTTでは同社のICTの活用を狙いとしたメドレーやGENOVAへの出資、KDDIではシーメンスやテラリコとの業務提携等の動きが挙げられます。個人/法人問わず、医療・ヘルスケア分野へのサービスは、各社通信事業やライフスタイル関連の事業は広がっていく中で、ますます出資やM&Aの動きが加速していくのではないでしょうか。
今回取り上げた3社は、通信事業を収益基盤としながら、今後のAI・IoT時代に向けての着々と布石を打っている状況です。IoTプラットフォームのKDDIか、半導体のSoftBankか、クラウド・システムインテグレーションのNTTか、今後の行方に目が離せません。