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でこぼこ道の先に。

流行りのウェーブのエクステをつけ、茶髪にしっかりめのアイライン、赤いヒールで授業を受けていた私は、見た目とは裏腹に、取り残されたような不安の渦にいた。

12年ほど前。
大学3年の時、ゼミの友だちがほぼ一斉に就活を始めた。髪を黒くしてバイトを減らし、いつでも面接へ行けるよう準備を整えていた中、私はと言うと、卒業したら1年間オーストラリアへ行こうと決めていた。

「新卒捨てるの?もったいない。」
「帰国したら大変で、後悔するよ。」

そんな言葉をどれだけ浴びたかわからない。
その時から私は、「大多数の人とちょっと違う決断をする」時に降りかかる言葉の雹や、それらが積もって作り出す、歩きにくいでこぼこ道を知った。

もったいないかどうかは人が決めることではないし、その回り道を後悔するか財産にするかも、自分で決める。
時間がかかったが、悩んだ末にそう心に決めた途端に、雹の積もった道が溶けていくような感覚を味わった。

そして、言うまでもなく財産にして帰国した1年2ヶ月後。
私は初めての就職を前に、息が上がって動機が激しくなる苦しい夜を、何度も過ごすようになっていた。

とある小学校で障がいのある児童に、非常勤でサポートをすることになった。
大学時代夢中で勉強してきた障がい児支援を、海外生活をした後も、やはりやりたかった。
しかし、帰国したのが夏という半端な時期であること、初めての就職、そして資格が無いことで、希望する条件の仕事が見つからなかったのだ。

キラキラと目を輝かせ「世界は広いはず」と日本を飛び出し、海外で学び、働き、差別に傷つき、人に救われ、身近に溢れていた愛を知り、前を見つめて帰国した私は、日本の就職を前に、履歴書上で条件を満たせない自分を目の当たりにし、また現れたでこぼこ道を歩けなくなってしまった。

その頃全盛期だったmixiの日記に、当時の私はこんな言葉を記していた。

たくさん探して考えたけど、すべてを満たす事なんて出来ない。悔しい。
あぁ、こうやっていくしかないのか‥
って気付いた事が寂しい。
でもまずはここから、現場で勉強と経験を積む。
焦らないで1歩1歩、いつかの為に土台を作っていこう。それは今後、きっと役に立つと信じてる。
ため息が止まらないけど、また1週間頑張るんだ。
…我慢。
いろんな事を『仕方ない』とむりやり納得する、諦めるしかない自分が、今までの自分じゃないみたいで寂しい。

若くて、青くて、痛いほど懸命で、そして愛おしい自分がいた。

10年の月日が流れ、私は先月無職になった。
働いて、途中で学生に戻り、そしてまたがむしゃらに働き、立ち止まりたくなり、辞めた。

辞めた私は、1ヶ月弱スイスの湖のほとりで過ごした。
帰国後は、今まで苦手だった本を読み漁るのが楽しくて、カメラを持って散歩して、胸の内をこうして言葉にして、物事をじっくり考えてみている。
再就職の不安はあるが、「今」の過ごし方を大切に思っている。「未来」のための下積みだと「今」をむりやり納得させた10年前の私が、「今」を大切にしたい私の背中を押している。

33歳の私はまた、「大多数の人とちょっと違う決断」をしている。
でも、大学生の頃の私より、新社会人だった頃の私より、力を抜いてこの道を歩けるようになっていた。
重ねてきた日々は、人生は、こうして重なっていたことを知った。

「諦めるしかないことを、むりやり納得する自分が寂しい。」
もし「今」に違和感を感じたら、素通りせず、残してほしい。否定せずに大切にしておくことに、きっと意味がある。
その違和感をいったん心にしまっても、しまわずに立ち止まっても、どちらでも構わないと思う。自分で選び、決めることが重要だ。

そしてあの自分に伝えたい。
大好きなひとり旅を、10年経っても大切にしていられること。
スイスの藁のベッドで眠る日が来ること。
憎かった自分を好きになれたこと。
そして「今」を我慢しないで、「未来」のためにも、今そのものを楽しむ勇気を持てるようになったこと。
若くて、青くて、痛いほど懸命で、愛おしい私へ。

#社会人1年目の私へ
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