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【前編:さくらインターネット事業説明会】代表の田中が語る、さくらインターネットについて

さくらインターネットは、メディア向けの事業説明会を2024年8月27日に実施しました。
当日のアーカイブは以下のURLよりご参照ください。

https://youtu.be/R-bZ3BT6C64

当日、代表の田中より発表した内容を記事化いたしました。ぜひご覧ください。

※「【後編:さくらインターネット事業説明会】副社長の舘野が語る、生成AI向けクラウドサービスについて」は以下をご参照ください。


▼さくらインターネットと社会

本会ではさくらインターネットについて、3つの分野にわたってお話をいたします。
①デジタルインフラについて、②GX分野について、③人材についてです。
当社はこれまで様々なビジネスをしてきましたが、2024年度から中長期戦略としてデジタルインフラに的を絞りました。ここから10年、20年と将来を見据えた成長ストーリーを描いていますので、ご紹介します。 

▼インターネットインフラとは

そもそも「インターネットインフラ」とは、インターネットやデータセンター、それを支える光ファイバーネットワーク電力網などを含む、新しいインフラのことを指しています。現在ではガスや水道、電気と並ぶ、必要不可欠なインフラとされています。
インターネットが本格的に利用されてから30余年が経ち、インターネットが無いと困る時代になりました。インターネットがあると「便利」だったのは過去の話で、今はインターネットがないと生活が成り立たないとも言われています。 

▼さくらインターネットの事業領域変遷

さくらインターネットがIT業界において珍しい点は、事業分野がデジタルインフラに集中しているところです。IT業界では様々なビジネスから利益を生み出し、相乗効果でエコシステムを拡大していく企業が多いです。しかし当社は創業以来サーバー事業を、特に直近13年間に関してはパブリッククラウドサービス「さくらのクラウド」を中心としたデジタルインフラを提供しています。 

実は2020年3月期から2021年3月期にかけて成長が鈍化し、その翌年の2021年度は売上高が凹んでいます。外資系クラウドとの戦いが、特に直近5年間で熾烈になってきているということが売り上げにも表れています。 

当社はクラウド分野以外にも、データセンターをそのままお貸しするというビジネスもしていました。当社の基幹データセンターである「石狩データセンター」も、クラウドでの利用だけではなく物理的にラックごと貸し出す「物理基盤サービス」も提供しています。
しかし、世界的なクラウド化の波の中でグラフの青いライン(物理基盤サービス売上高)は急速に縮んでいます。当社は特に直近の5年間、クラウドサービスが世間のクラウド化の波の中で大きく伸びてきました。しかしその一方で、クラウド化の影響を受けて、クラウドサービス以外のビジネスに関しては縮小を余儀なくされています。 

後ほど詳しくお話ししますが、当社はガバメントクラウドやGPUクラウドの伸長により、今期の売り上げ予想を約280億円と発表しました※。今期は過去最高の売上と利益を目指して取り組んでいます。
※2024年9月20日に上方修正しました。
https://www.sakura.ad.jp/corporate/wp-content/uploads/2024/09/04f639285104323b1d51fb147bde62e2.pdf

▼デジタル貿易赤字と経済安全保障

外資系クラウドがより便利なサービスを提供し、外資系のサービスベンダーもさらに伸長する中で、日本のIT化が進んできたということは紛れもない事実だと思っています。ただ、それと同時に日本発のクラウドサービスソフトウェアがない中で、さらに輸入が超過している状況にもなっています。特に直近2~3年に関しては円安が進んだこともあり、外資系のソフトウェアサービスに依存することが、いかにコスト高を招くのかということも改めて認識しました。

私の意見としては、外資系であろうが便利なサービスはどんどん日本で使われるべきだと考えています。
例えば、OpenAIさんのAIサービスも当初は日本語がうまく取り扱えないという話もありました。うどんだと思って入力したらスパゲッティが出てきたというような話もありましたが、OpenAIさんはその後日本語のモデルを作ると強く仰っています。そのように日本が市場として認知されている限り、また日本が世界に対してオープンである限りは、日本人にとって便利なサービスを世界中から使うことができると考えています。

ロシアでは便利な海外のサービスが使えなくなってしまい、国民は非常に不便な思いをしていると言われています。しかしそれと同時に、ロシア国内のIT産業が伸びているということも事実です。海外のサービスが使えなくなると、国内産業が伸長します。

必要なのはバランスだと考えています。便利な海外のサービスを使いながらも国内の産業も伸ばしていく、この両方を目指すことが重要だと考えます。 

▼国産のデジタルインフラを提供

2023年11月に、デジタル庁が募集したガバメントクラウドサービス提供事業者に5社目として、日本企業で初めて認定いただきました※。
(※2025年度末までに技術要件をすべて満たすことを前提とした条件付きの認定)
またそれとは別に、経済安全保障推進法に基づく特定重要物資である「クラウドプログラム」の供給確保計画を経産省に提出し、GPUクラウドサービスの提供にあたり助成金の認定をいただいています。 

当社が上記2種の認定をいただけた理由の一つとして、自社だけで完遂できる企業を国として育成したいからではないかと考えています。ガバメントクラウドの認定を受けたり、助成金をいただいたりしても、その後の工程を外注に依頼したり海外のソフトウェアを購入してクラウドを構築したりすると、付加価値が日本国内で最大化しないことになります。

当社の場合はどちらかと言うと付加価値の低いサーバーなどは輸入に頼らざるを得ない状況ですが、一番付加価値の高いソフトウェアやサービス自体を国内で開発しています。例えばGPU自体も自社で作れたら良いのですがそれは難しいので、NVIDIA社からGPUを直接購入しています。それを利用して自社でソフトウェアを載せてサービス提供すると、何倍もの提供価格で売り上げを作ることができ、国内に付加価値を残せます。

▼アジアのハブとしての期待

ここからGXについてのお話をします。
GXを進める中で、データセンターやクラウドサービスがどのような位置づけになるのかが当社にとって大きなポイントになります。①データセンターの運用にあたり電気を大量に消費する必要があるため、データセンター自体がエコな存在であること②データセンターおよびクラウドサービスを積極的に利活用されること、この二つの観点がGXを加速させると考えています。 

①について、特に北海道には自然エネルギーが多く余っています。送電線を作り、自然エネルギーを北海道から東京に運ぶ計画もあるほどです。自然エネルギーの電源がある場所でデータ処理を行うことで、エコなデータセンターづくりを加速させることができます。
 
②について、日本は自然エネルギーのポテンシャルが非常に高いと言われています。また、アジアの中でも極東に位置しているため北極から上回りで見た場合、ヨーロッパから非常に近い位置にあります。そのため、北極圏経由でアジアに入る時の玄関口は、実は北海道、日本になります。そのような環境で自然エネルギーや光ファイバー網が充実した場所の活用を考えると、外資系のデータセンターが日本に進出してくるのも納得です。 

このように、日本のデータセンターの市場規模は大きく拡大しており、今後も拡大していくと考えています。

▼再生可能エネルギー100%のデジタルインフラを提供

現在北海道では、ICT(石狩、千歳、苫小牧の頭文字)地域をデータセンター立地と推進しています。他社のデータセンター計画がこのICT地域内ですでにいくつかあると聞いておりますが、自然エネルギーとデータセンター立地、そして光ファイバーが入ってくる北海道という立地に対しての興味関心が非常に高まっています。  
当社は石狩データセンターを建設した13年前から、再生エネルギーの利用や光ファイバーについてのビジョンを語っていました。それから十数年の時を経て、相次いで多くの企業がICT地域に進出し、データセンターを新設するようになりました。

▼消費電力を抑える取り組み

当社の省エネに関する取り組みは、13年前の石狩データセンター新設時から培われたものです。最近、偶然にGXの流れができ、当社が低消費電力で自然エネルギーを使い外気を利用した効率のいい冷房方式を活用していることがはまりました。引き続きGXの取り組みを深めていきたいと考えています。 

当社の現在稼働しているGPUサーバーは北海道に設置しており、すべて再エネで稼働しています。もし今開発されているAIが化石燃料に由来するものだとしたら、AIを使えば使うほどCO2を排出してしまうことになります。人間の脳を消費電力に換算すると、1人あたり約30Wと言われていますが、それに比べAIは1,000倍~10,000倍の電気を使って動いています。つまりAIの利活用によって人間が考えるよりも1,000倍~10,000倍のCO2排出をしていることになると、さらにAIに対する批判が大きくなると思います。逆にAIが自然エネルギー由来で稼働させると、人間よりもAIのほうがCO2の排出量が少なくなる、AIの利活用はGXにつながる、という文脈ができます。 
今後新しく開発されるAIはCO2フリーであること、カーボンフリーであることは必須だと考えています。当社もGXの取り組みを継続していく所存です。 

▼さくらインターネットの人事制度

最後に、人材面についてお伝えします。
当社はデータセンターのオペレーションやカスタマーサポートもすべて自社の正社員が行います。クラウドビジネスを提供しているので安定的な収入があり、継続的に人を正規雇用するよう取り組んできました。

当社の従業員に対する考え方はY理論、いわゆる「性善説」です。約19年前、当社が上場した当初は規約をいかに厳しくしていくか、ということに取り組んでいました。このようにX理論、いわゆる「性悪説」をベースにしてしまうと社員を縛る必要があり、リモートで働くことはできず、そもそも正社員を雇うという選択肢が出てきません。 

また、当社には性善説に基づく3つの要素「風土、制度、ツール」があります。多くの企業でも制度は充実しています。ただ制度があっても実質は「育休はなんとなく使いにくい」、「なんとなく休みにくい」、「なんとなく会社に行かないといけない」と社員が思っているケースはよくあります。当社では制度だけでなく風土も併せて作り、「どうしてもこの仕事をするために会社に行かざるを得ない」「実印が必要だ」などのケースが発生しないよう業務プロセスから変えてしまいます。それを実施するため、ツールもすべて変えます。リモート主体であり、フラットが主体であり、社員が性善説であることが前提であり、セキュリティ面以外はすべて性善説であるという考え方がベースになっています。 

▼数字で見るさくらインターネット

当社はリモートワーク実施率が約90%です。その上離職率が低いので、他経営者からは「どうしたらサボる社員を減らせるのかアドバイスが欲しい」などと言われますが、前述の通り性善説をベースにしているので、そもそも社員はみんな働いているであろうという前提で経営をしています。サボる人というのは実はほとんどいなくて、わずか数%のサボる人のために90%以上の社員が割りを食うような制度にならないよう心がけています。 
自由に休めて自由に働ける環境を作ることで、結果として離職率も低くなっていくことを目指しています。

▼「余白の経営」という考え方

当社は「余白の経営」の考え方で経営しています。今必要な分だけではなく、将来必要になるであろう分も見越してリソースを確保しています。社員も今必要な人数ではなくて三年後に必要になる人数をあらかじめ雇い、データセンターに関しても同じく大きな敷地を確保しています。

石狩データセンターの3号棟は、1,900ラックほど収容ができる非常に大きな建物です。竣工したのは7年前ですが、実は竣工して5年経った時に8部屋あるうちの2部屋しか埋まっていませんでした。残りの6部屋が埋まるために20年~30年ほどかかる計算でしたが、GPUサービスの進捗が非常に速いので、あと5年ほどで全部屋が埋まるくらいのペースになっています。 

IT業界はインフラレイヤーに近ければ近いほど需要に波があります。ものづくりに即した考え方が日本を支配している中、ジャストインタイムの考え方で必要な時に必要な分のデータセンターを確保する動きになりがちです。しかし、それでは急速に変化するITトレンドに追随できません。当社は自社でデータセンターを作り、自社で社員を雇っていますので、2023年6月に発表した投資計画のようにGPUを2,000基投入しようというオーダーも、即座にチームを作り、データセンターの空き部屋をすぐに準備することができました。

当社は最適化され常にギリギリで運営し、その中で利益を最大化する経営方針とは反対に、比較的余裕がある中で、しかし急速にきたトレンドに対してはすべて取りきるという経営方針をとっています。 

▼中期的な経営方針

最後に、今後の経営施策についてまとめます。
まずはGPUクラウドの強化を進めます。少なくともこれから3年~5年の見通しの中でGPUが足りないと考えています。各社がGPUに対し大幅な投資を決定されていますが、その全てを実施したとしても日本で必要とされるGPUに対し供給量が不足する状況が続きます。 当社は他社に先駆けてGPUを2,000基投入しましたが、それもすべて売り切れている状況です。

そのような状況で、2024年度は200名の採用を目標に掲げております。半期を待たずしてすでに100名の内定が出ていることから、年間で200名を超える採用ができる見通しです。

当社は今後もGPUクラウドサービスを中心に大きな成長を目指していきます。 
インフラやハードウェアへの投資に注目されることが多いですが、それらを自社でマネジメントし、オペレーションし、そしてソフトウェア開発、サービス提供までを垂直統合で行えることが当社の強みです。これからも当社はますますの成長を目指してまいります。

田中 邦裕(たなか くにひろ)
さくらインターネット株式会社 代表取締役社長

1996年、舞鶴高専在学中の18歳の時にさくらインターネットを起業。2005年に東証マザーズに上場し、現在はプライム市場。自らの起業経験などを生かし、多数のスタートアップ企業のメンタリングやエンジェル出資を行うほか、IPA未踏のプロジェクトマネジャーや神山まるごと高専の理事として、若手起業家や学生エンジニアの育成にも携わる。また、アイモバイルやi-plug、ABEJA等の社外取締役を務めるほか、ソフトウェア協会(SAJ)会長、日本データセンター協会(JDCC)理事長、日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)副会長等として、業界発展のためにも尽力。最近では、関西経済同友会常任幹事、AI戦略会議構成員なども担う。現在は沖縄に移住し、自ら率先して新しい働き方を実践中。


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