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三題噺|桃、チェス、視線

三つのお題を使って物語を作る『三題噺』をお届け。
短いお話ではありますが、ぜひ楽しんでいただけるとうれしいです。

前回の三題噺


推理はあくまで

 現場には不可解な死が転がっていた。

 長年の勘が、これは事件だと教えてくれる。
 どんな些細なヒントでも見逃さない。心に確かな闘志を燃やし、目の前の男をじっと見つめた。

「桃色の口紅。大量のチェス駒。これはダイイングメッセージに違いない」

 顎に手を当て、ありとあらゆる可能性を考える。

「さすが警部! 目の付け所が違います」

 そんな部下の言葉にも動じることはない。なあに。これくらいなんてことはないさ。

 瞳を輝かせる部下に向かい無言で頷く。

「あ〜それはないっす」

――は? 誰!?

 いきなり現れ、私の推理を否定するとは上等だ。
 さあ。この状況がどういうことなのか、説明してもらおうか。

「あなたは?」

「そいつの同居人っす。あいつ女装してキングの駒に囲まれる変な趣味あったんで。あと心臓病患ってたんでそっちの線考えた方が」

――なるほど。

 視線が痛い。
 しかし何というか。違う意味で不可解な死であった。

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