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いっしょに帰ろうよ

【櫻の魔法 〜いっしょに帰ろうよ〜「村山美羽」】
「はぁ...疲れたぁ.....」

今日の体育は女子と合同なので色んな意味で疲れる。
他の奴らはここぞと言わんばかりにカッコつけてるし、女子も女子で「誰々がカッコイイ」だ「ダサい」だとお互い様すぎる。

そんな中、ふと目が合う奴が居た。
じーっと何かを言いたそうに見つめてくる。

僕はそれに耐えきれず、トイレに行くフリをする。

「ねぇ待って」

体育館を出てすぐ、呼び止められてしまう。

「村山.....」
「それやだ.....昔は美羽だったじゃん」
「その時と状況違うじゃん」
「状況ってなに」
「変な噂とかすぐ立つじゃん」
「いいじゃん言わせとけば」
「違うよ、僕がとかじゃなk」

しまった。

「.....なに?」
「なんでもない」
「なんでもない事ないじゃん」
「なんでもないって」
「最近一緒に帰ってくんないし.....寂しいんだけど」

知ってるよ...1人で帰ってるとこ見てるんだから.....。
でも.....。

「色々あるんだよ.....」
「独りって寂しいんだよ?」
「.....知ってるよ」

僕だって独りで帰ってる。

「それに...」
「ごめん戻らなきゃ」
「待っt」

腕を振りほどいて男子のところに戻る。

『おー、なに?トイレでも行ってた?』
「.....うん」

少しあとに美羽も戻ってくるけど、一瞬だけ睨んで女子の所に戻る。

『見た!?今絶対俺の事見てた!!』
『ばか、俺に決まってんだろ』
『にしても誰が好きなんだろうな〜』
『ここまで来ると意外と○○だったりしね?』
『いや笑 さすがにないだろ笑笑  な?』
「あぁ...うん.....」
『お前みたいな陰キャどうやっても釣り合わねぇもんな〜笑笑』

別に僕だって本当は明るくなりたかったよ.....。

『まじ村山と付き合うやつ居たらみんなでそいつボコボコにして潰してやろうぜ』
『まじであり』
『そしたら選択肢減ってくじゃん?笑』
『天才すぎ笑笑』
『な?○○』
「う、うん.....」

なんでこんな奴らに.....。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

放課後、美羽に引き止められる前に教室から出て屋上に避難する。

「はぁ...はぁ...はぁ.....」

いつもこの逃げ方で逃げてるけど未だに見つかった事がない。

「別に僕だって美羽と話してたいよ.....」
「やっと見つけた.....」

ドアの方を見るとそこには息を切らした美羽が立っていた。

「なんで.....」
「なんでって...こっちのセリフなんだけど」
「.....来るなよ」
「いやだ」
「どっか行けって」
「理由話してくれるまで帰らない」
「じゃあずっと居ろ」
「ねぇなんで?なんで避けるの?」

もうこれしかないのか.....。

「.....ウザいんだよ」

最低だ.....。

「え......」
「いちいちついてくんなよ!!」

美羽の顔が見れなくて下を向いてたのに、その目線の先に水滴が落ちてくる。

「そっ...か...そうだよね.....」
「あ...いや.....」
「ごめんねしつこくて...一緒に帰りたかっただけなんだ.....」

ごめん...本当にごめん.....。

「.....もう邪魔しないから」
「.....うん」
「.....ばいばい」

今まで1番鈍い音をたてながら閉まるドアは、僕の心臓を握り潰してくる。

「美羽.....」

次の日から本当に僕の事を避け始めた。

朝イチの家のチャイムもないし、
教室に入った時の視線も感じないし、
出る時もわざわざ1番遠くの列を通るし、
ついには美羽の方が先に帰るようになっていった。

「これで良かったんだ.....」

美羽は優しいからきっとずっと僕を気にしてしまう。
美羽の人生を邪魔してる。
僕が居なければもっと楽に、もっと楽しく、友達だって.....。

だから.....

『付き合ってください!!』

今日も中庭で告白される美羽を3階から見守っていた。

「.....ごめんなさい」

今日もダメだったか.....。

『.....分かった』
「ごめんなさい.....」
『あのさ』
「はい.....」
『そろそろ好きな人誰なのか言った方が楽なんじゃないの?』
「なんでその事.....」
『男子の話題、ずっとそれだよ?たぶん分かるまで続くんじゃない?』
「誰に聞かれても教えません。その人、注目されるの嫌いだから」
『じゃあ一生付き合えないじゃん』
「え.....?」
『だって村山と付き合ったら嫌でも注目されるだろそりゃ笑』

そんな.....。
そんなのどうしようも出来ないじゃん.....。

「.....もういいですか?」
『.....教えてくれないんだな』
「はい、すみません」
『ちっ.....』

いつもならそこで帰るので僕も見守るのを止めるけど、その日は違った。

美羽はその場に座り込んでしまう。

「美u.....」

小さい時の癖ですぐ近くに行こうとしてしまう。
どうせ何も出来ないくせに.....。

しばらく美羽はしゃがみ込み、下を向いていた。

「こういう時になにもできないから陰キャとか言われちゃうんだろうな.....」
『よ〜○○じゃ〜ん』

なんで!?くそ...寄りにもよって1番最悪なタイミングで.....。

『俺らちょうど喉乾いてたんだよね〜』
『それな〜』
『ってことでよろしく』
「.....分かったよ」
『聞き分けが良くて助かるよ〜』
『部室まで持ってこいよ〜?』
「分かってるよ.....」
『あ?今なんつった?』
「.....なんでもない」

僕が反抗的な態度さえ取らなければ、別にこんなの大したことない。

「買ってきたよ」
『遅くね?』
「ごめん.....」
『うぜぇな』
「じゃ.....」
『おい、待てよ』

炭酸の弾ける音がなった直後、鋭い言葉に空気が凍る。

『かかっちゃったんだけどどうしてくれんの?』
「え」

なんど目を凝らしても濡れてなんかない。

「.....どこが」
『あぁ?』
「ひっ.....!」

拳が僕の目の前で止まる。

『ここ見えねーの?』

指の第2関節あたりだろうか.....たしかに小さな水滴が見える。

「いや、それ...」
『あーごめん、手が滑っちゃったー』

髪から流れ落ちる水滴で、シャツがみるみる茶色に染まっていく。

『うーわ、汚っねー笑笑』
『笑笑』
『笑笑』

体操服...今日体育無いんだった.....。

『お前、それ掃除して帰れよ』
「.....分かった」
『ぷっ笑  あははは笑笑』

そいつらは嫌悪感を残したまま、部室を去っていった。

「掃除しろったって.....」

近くの掃除道具入れに雑巾が入っていたので、しゃがんで床を拭k

「がはっ...!!」
『あぁごめーん笑笑』

頭が痛い.....。
一瞬何が起きたか分からなかったけど、頭を踏まれたんだと気が付いた。

そしてメガネが割れたことも.....。

『まだ居たんだー!笑笑』
『笑笑』
『笑笑』

嫌な笑い声が遠のいていく。

別にこ...こん...こんなこt.....

床に落ちる透明な水はすぐにコーラ混ざる。

「なんでこんな...お前らが悪いんだろ.....」

拭いても拭いても床は濡れていく。

「○○.....?」
「え.....?」

前を向くとそこには

「なに!?なんで...!な...なにがあったの?」
「美...村山なんでここに.....」
「そんなことどうでもいいから何があったか話して!!」

見られたくなんかなかったのに.....。

「ごめん.....!」

濡れたままの床もそのままにその場からできるだけ早く遠ざかりたかった。

「はぁ...はぁ...はぁ.....」

がむしゃらに走って、気づいたらまた屋上に来ていた。

「ここなら乾きそうだな.....」

シャツを1枚脱いで、近くに掛けた。
髪の毛を触るとぎしぎしで、メガネが割れたせいで遠くは見えない。

「メガネ高いのに.....」

次で3つ目...さすがにそろそろ母にも怪しまれる.....。

「やっぱりここに居た.....」
「なんで.....」

もう逃げられるほどの体力も精神も残っていなかった。

「ねぇ何があったか話してよ」
「.....言いたくない」
「言って」
「ウザいよ.....」
「思ってもないこと言わないで!!」

初めて聞く、美羽の怒号が空気を伝って全身に響く。

「嘘ついてるじゃん!!ずっと!!」
「嘘なんか.....」
「あんなに優しい○○がそんなこと言うわけないじゃん.....」

やめてくれ.....。

「前も見ちゃったの.....」
「.....」
「あの人たちに殴られてるところ.....」
「忘れてくれ.....」

美羽の足元に涙が落ちる。

「その時怖くて...なにも...なにもできなくて...逃げちゃったのをずっと謝r」
「もうやめてくれ!!!」
「○○.....」
「もう関わらないでくれ.....」
「.....」
「黙って言うこと聞いてれば死ぬことなんかないから、別に大した事ないんだよ.....」
「でも」
「いいからもうほっといてくれ」

まだびしょびしょのシャツを取ってそのまま帰る。
途中、先生に見つかるものの色々言い訳して事なきを得た。

次の日、いじめっ子3人組が退学した事を知った。

クラスの人達が話していたのを盗み聞きしただけだから詳細は分からない。

「.....やっと解放されたんだ」

でも考えれば考えるほど恐怖が増していく。

急に3人同時に退学するなんて絶対おかしい。
誰かがあいつらに何かしたんだとしたら必ず復讐に来るはず....そうなると確実に僕が狙われる.....。

「くそっ!!誰が.....いや」
「やっぱりここに居た」

タイミングを見計らったかのように美羽が現れる。

「何をした!?」
「なんのこと」
「あいつらに何かしただろ!!」
「.....してないよ」
「どうするんだよ...絶対あいつら復s」

美羽は僕を優しく包み込む。

「.....もう大丈夫だから」
「.....離せよ」
「ごめんね...気づいてあげられなくて.....」

やめろ.....。

「私がもっと早く気が付いていれば.....」

頼むから.....。

「でももう大丈夫だから」

やめてくれ.....。

「安心して」
「離せよ.....」

1度離れた美羽は僕の濡れた頬を撫で、微笑む。

「もうアイツらは二度と○○にちょっかいかけないから」
「分かんないだろ.....」
「まぁ正しくはもうちょっかい"かけられない"かな」

さっきまで優しい微笑みだと思っていたものは、何かこう.....違う何かに見えた。

「帰ろう?」

小学生以来だろうか.....久しぶりに美羽と肩を並べて歩いている。

「いつの間にか身長抜かされちゃったね」
「うん.....」
「私の方が高かったのに」
「そうだね.....」

何を話せばいいか分からず、会話が続かない。

「お母さん元気?」
「元気だけど」
「久しぶりに会いたいなぁ」

さっきからスマホの通知が止まらない。

「なにしてんの?」
「え?」
「せっかく久しぶりに2人きりなんだからスマホなんか見ないで」

でも通知は鳴り止まない。

「ごめんちょっとだけ」
「.....」

「もしもし?」
「もしもし、○○?」
「なに、母さん」
「あんたどこ居るの!?」
「今帰ってるとこだけど」
「近くに何かない?人が沢山居るところ!!」
「え?どういうこと?」
「いいから急いで人が沢山居る所に行きなさい」
「なんで.....」
「近くで殺人事件が起きたの!!」
「え.....」
「しかもその犯人g」

僕のスマホは美羽によって奪われる。

「ちょっと」
「ねぇいつまで待たせるの?こんなに可愛い子ほっとくなんて酷くない?」

たぶんさっきの母さんの感じ、嘘はついてないっぽいので美羽にも伝える。

「美羽、とりあえず近くの人が沢山いる所に行こう?」
「なんで?」
「なんか近くで殺人事件が起きたみたいで、たぶん母さんが迎えに来ると思う」
「その必要ないよ」
「なんで.....?」
「なんでって笑














私が殺したもん笑」

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