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焼き餅焼くなら狐色 7話

「ね〜!寒いってば!」
「着たらいいやん、そっちは」
「なんでなん!梨名の部屋やで!?」
「はぁ?梨名が居ってって言ったんじゃん」
「そうやけど20℃は寒いって」
「暑いもん」
「も〜.....」

それは花火を観ている最中のことだった。



「よいしょっと」
「○○待って〜.....」
「浴衣なんて着るから」
「いいじゃん別に.....」
「はい、手」
「ありがと.....」

○○の手を掴んで、ゆっくり坂を上がる。

「今年は誰も居ないね」
「ほんとだ.....特等席じゃん」
「いえーい」「いえーい」
「うわ...ベンチ汚れてる.....」
「え〜最悪.....」
「1人分は空いてるわ。梨名、座る?」
「いいの?疲れてない?」
「僕は別に...それよりさっきから足痛いでしょ?」

え.....。

「.....うん」
「やっぱり...見せてみな」
「よく分かったね.....」
「いや、だって今日やたら歩くの遅いなと思って、ふと足見たら動き鈍かったから」

それに気づくんだったら梨名の気持ちにも気づいてよ.....。

「ここ痛い?」
「ううん」
「こっちは?」
「もうちょい上」

○○は私の足を持って痛いところを探す。

「痛っ」
「もしかして捻った?」
「かも.....」
「これさ.....よいしょ...花火見てる間は動かさないこと」

そういって素早く私の足に、かき氷を入れたハンカチを巻いた。

「ありがと.....」
「ったく.....可愛い格好したいのは分かるけど怪我しないでくれ」
「.....ごめん」

こんなんだからダメなのかな.....。

「.....ぷっ笑  やめてその顔笑笑」
「え?」
「最近、梨名のその悲しそうな顔、めっちゃツボでさ笑笑」
「はぁ?」
「昔みたいだなって笑」
「なんなんもう.....笑」
「あー面白っ笑」
「うわぁあああ!!!」

突然、羽の音と一緒に虫が邪魔してくる。

「なに!!!?」
「虫.....」
「びっくりしたじゃん!勘弁しろよ!!」
「ごめん.....」

せっかくいい雰囲気やったのに.....。

「だからさ笑笑」
「笑笑  どれ?この顔?笑」
「それ笑笑」
「てかさっきからしれっと肩、持つのやめてくれへん?セクハラで訴えるで」
「え?そんなことしてないけど、ほら」
「え.....?」
「こっちはポテト持ってるし、こっちはコーラじゃん」

たしかに○○は既に両手を使っている。

「.....え」
「なに?気のせいなんじゃない?」
「いやいやいやいや」
「え、ガチなやつ?」
「えーっと.....帰らへん?」
「来たばっかなのに?」
「うん.....ちょっとほんとに怖い」
「大丈夫だって」

どうしよ...幽霊とかやったら.....。

「.....バカにせんで欲しいんやけど」
「うん?」
「手、繋いでもいい?」
「いいよ笑」
「ありがと」
「大丈夫大丈夫。なんかあっても囮が居るから」
「○○ぅ.....」
「いや梨名が囮よ?」
「なんでなん!!!!」
「笑笑」
「てか梨名の方こそ抱きついてきてなに?そんなに怖い?」

えっ

「.....そんなことしてない」
「え.....」

溶けそうなくらいの真夏日なのに、身体の中が冷えていく。

「.....帰るか」
「.....うん」

帰ろうと後ろを振り返った時、明らかな人影が見えた。

.....あるいは

「いやぁあああああ!!!!」
「うわあああああ!!なに!?大きい声出すなよ!!」
「今今今今今!誰かが!!!」
「そんな訳ないだろ!!さっき僕らだけだって話したじゃん!」
「だってでも見えたんだもん!!」
「分かったから一旦離れてくれ!!その.....近いっ!!」

気付かぬうちに○○に抱きついていた。

「ご、ごめん.....」
「あぁいや、別にその...嫌とかではないんだけど.....」
「.....とりあえず梨名ん家、戻らへん?」
「分かった。絶対手、離すなよ」
「.....うん」



家に戻った僕達は、冒頭のエアコン争奪戦になる。

「ねぇ...寒いって.....」
「服着ろ」
「出さなあかんもん」
「.....せめて25度な」

部屋にはエアコンの起動音と、遠くから聞こえる太鼓の音。

「.....寒い」
「布団潜ればいいじゃん」
「限度があるもん」
「はぁ.....ココア淹れる?」
「1人にせんで」
「なんなん」
「.....ねえねえ」
「なに?」
「ハグしてくれへん?」
「なんで?」
「いや.....」

正直、今は怖さが勝ってしまっている。

「昔よくしてくれてたから」
「昔とは違うだろ色々」
「.....怖いもん...寒いし」
「.....はぁ...おいで」
「そっちが来い」
「こいつ...奥寄って」

○○は私の横に座り、そのまま私を抱き寄せた。

「.....はい...これでいい?」
「.....うん」

○○が好きだと自覚してから手に触れることさえドキドキしてたのに、その時のハグはなぜか安心した。

「.....梨名はさ、好きな人とか居ないの?」
「.....急にどうして?」
「.....ううん、なんでもない」

なんでそんなことを聞いてくるのか。
もしかしたら心臓の音が聞こえてるのかもしれない。

じゃあもう.....

「.....居るよ」
「え?なんて言っt」

恐怖心と興奮が私の思考を鈍らせたんだ。

「.....ずっとずっと大好きな人が」

○○の唇を奪ってしまった。

なのに○○は抵抗しなかった。

「.....梨名」

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