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タバコの薫り
【櫻の魔法 〜タバコの薫り〜「石森璃花」】
「あ、ごめん起こしちゃった?」
部屋に月明かりが差し込んで、ベランダに居る彼女の華奢なシルエットが僕を呼んでいた。
「いえ...それ.....」
「あ〜ごめん...引いた?」
「いや...ビックリはしました」
タバコを吸っている彼女を初めて見た。
そういうのとは無関係だと、むしろ嫌いだとばかり思っていた。
「元カレが吸っててね.....」
「最近別れた人ですか」
「うん...何度も止めてって伝えてたんだけど.....」
火の粉が散る。
「それが重荷だったのかなぁ.....」
璃花さんは前を向き、また一吸いする。
「.....ふぅ」
「1本貰ってもいいですか?」
「だめ...君には吸って欲しくないもん」
「僕もどういう味か知りたいです」
タバコなんて似つかわしくない綺麗な瞳で見つめられ、少しドキッとする。
なんでこんなに綺麗な人が.....。
「.....口開けて」
自分が吸っている途中のタバコを入れられる。
ピンク色の口紅が付いていた。
「.....こほっ!.....なんだこれ」
「意味わかんないでしょ?」
「こほっこほっ.....はい」
僕の手からタバコを取り上げ、また一吸いする璃花さん。
「.....私もそう思う」
喉を鳴らしながら続ける。
「こほっ.....でも今まで吸ってなかったっすよね?」
「.....そうだね」
「なんで急に?」
「急じゃないよ.....たまたま君と居る時に吸わなかっただけ」
「どうしてですか?」
璃花さんが吸うと、タバコが一気に縮んでいく。
「.....そういうの野暮だよ」
「.....そう...っすね」
「ねぇ」
「はい」
「寒くない?」
「寒いっすね」
「こっちおいで」
たばこの火を消した璃花さんは、自分が纏っていた毛布を広げて僕を誘う。
従う他なかった。
「忘れてよ」
「何をですか」
「.....色々と」
「今日のもですか」
璃花さんの心音が聞こえるくらいに密着してるはずなのに聴こえるのは、下の道路を車が通る音と僕の心音だけ。
「.....野暮」
「.....それ嫌いです」
「ふふっ笑」
無邪気に笑う璃花さんにいつも心を乱される。
「嫌っす」
「.....」
「忘れたくないっす」
「.....悪い子だね」
「それでいいっす...それで璃花さんに近づけるなら」
臭いことを言ってるなんて理解ってる。
それでも伝えて留めておかないと、今にも消えてしまいそうで。
「.....○○くん」
「はい」
「さっき伝えてくれた言葉、信じてもいいの?」
「え.....もちろんです」
「○○君が思ってるような人じゃないかもよ?」
「どんな璃花さんもきっと素敵です」
「.....ふふっ笑 『きっと』か笑」
「なんですか.....笑」
「ううん...なんでもない笑」
璃花さんは体勢を直し、僕の方を向く。
「知ってる?」
「なんです?」
「このタバコ、唇にフレーバーが残るの」
通りでさっきから唇が甘いなって。
「.....ほんとだ」
「でもね、最初と最後じゃ違う味なんだ〜」
「へぇ.....」
「最初の味知りたくない?」
「なんd」
振り向いた瞬間、僕のそれは璃花さんに奪われた。
「.....分かった?」
さっき死ぬほど求めたのにまだ欲しい。
「.....分からなかったです」
「ふふっ.....うそつき」