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衣は新に如くはなく、人は故に如くはなし 4話

着いてすぐに彼はバレーサービスに車を預け、私の手を取り、エレベーターまでエスコートしてくれる。

その間、ずっと私がぽかんとした顔をしてたのが可笑しかったらしく彼は静かに笑ってた。

「映画で見たバレーサービスって日本でもやってるんだ.....」
「そうだね。僕もびっくりしてる」
「そうは見えないけど.....笑」
「今日は大人モードだからね🙂」
「か...かっこいいっす先輩.....」
「笑笑」

『12階です』

「ここだよ」
「12階って何階?」
「12階だね」
「こんな高いところ来たことないよ.....」
「先週、スカイツリー登ったじゃん」
『いらっしゃいませ』

ドアが開いた瞬間にまた、ラグジュアリーな空間、そしてきっちりとしたスーツの女性が。

「○○です」
『○○様、お待ちしておりました。お席のご用意できておりますのでこちらへどうぞ』

案内される途中に見えた景色は、東京を一望出来る大きな窓と、それすら背景にしてしまうオシャレなお客さんたち。

「ちょっとねぇ.....ほんとに大丈夫なの?」(小声)
「大丈夫だって笑  堂々としときな」
「高すぎて怖いんだけど.....」(小声)
「ん?それはどっちの意味で?笑」
「どっちも!笑」(小声)
『こちらへどうぞ』
「ありがとうございます」
『失礼いたします』
「うわぁ.....」

席に着いて見えたのは、途中に見えた景色とは違い、夕が焼けて黄昏と夜さりの間の水平線が見えていた。

「里奈がこの時間帯のこういう景色が好きっていつも言ってるから、最高なのを用意したかったんだ」
「綺麗.....」
「良かった😊  さぁさぁ座って」
「うん.....」
『失礼いたします』

景色に見惚れていると、店員さんがやってくる。

『お食事の前にシャンパーニュはいかがでしょうか』
「お願いします。彼女にはミモザをお願いします」
『かしこまりました』
「里奈、こういう高いところ仕事で来たりした?」
「ううん...だから超緊張してるんだけど.....笑」
「今のところ大丈夫だから、リラックスして僕に任せて」

その一瞬、さっきまでの大人モードの彼からいつもの彼の笑顔に安堵を覚えた。

「.....分かった」



『失礼いたします。牛フィレ肉のソテー トリュフソースでございます。こちら香りに自信を持っておりますので併せてご堪能ください。』
「.....うん、とてもいい香りです」
「.....ですね」
『大変ありがたいお言葉でございます。ごゆっくりどうぞ』

出る時の細かい仕草まで丁寧な店員さん。

「こういうお店ってほんとに香りとか大事なんだね.....」
「突き詰めると内装や雰囲気、BGM、そしてソムリエたちの接客全てが演出の舞台だと思ったらいい。僕もそう上司に教わったんだぁ」
「私、似合ってるかな.....」
「これから2人で似合う人になっていくんだよ」
「なんか...いいね.....」

こういう時の彼の優しい笑顔が好き。

「.....柔らかっ!」
「そして美味しい.....」
「もう口の中無いもん」
「それがほんとのパターンあるんだね笑」
「笑笑」
「.....覚えてる?高校生の時の会話」
「どれ?」
「いつか2人で高級レストランに行って、カッコつけたいって夢」
「.....あぁ覚えてる」
「それ...叶えられたね」
「そういう事だったんだ.....」
「うん」
「.....里奈、また泣いてるよ笑」
「え.....?」

自分でも気づかない間に、涙脆くなっているのかもしれない。

「今日はよく泣くね笑  はい」
「ありがと.....違うよ、これは料理が美味しすぎて泣いてるんだよ」
「ふふっ笑 そういうことにしとくね」
「美味しい.....」
「ふふっ笑笑」

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