だってこんなに....
【櫻の魔法 〜月下美人〜「石森璃花」】
一年の間、一晩だけ美しい花びらを咲かせる花がある。それは翌朝には萎み、二度と同じように咲き誇れない。
付いた名は『月下美人』
「先輩!良かった....まだ居ました......」
「どうしたんですか?」
「せっかく同じタイミングで上がったので一緒に帰りたいなって」
「そうでしたか」
「.....先輩ってみんなに対して敬語ですよね」
「言葉を崩せるほど成った人間ではないので」
「ふふっ笑......先輩って面白いですね笑」
「そうですか?」
「からかったんです笑」
「そうでしたか.....」
「.....それ何読んでるんですか?」
「夏目漱石です」
「え!夏目漱石、私も好きですよ」
「本当ですか」
「えぇ、特に『彼岸過迄』の千代子が主人公に対して苛立つけど惹かれていくところがめちゃくちゃ共感して....」
「この先.....そうなるんですね.....」
「あ....ごめんなさいもしかして......」
「そうです.....『彼岸過迄』です」
「......ごめんなさい」
「いえ.....先の展開が分かっていても楽しめるのが夏目漱石ですから......」
「そう...ですよね.....えへへ.....笑」
月明かりに照らされて横で笑う彼女が艶やかで、見蕩れてしまった。
「........でも意外です。石森さんがこういうの読むなんて」
「普段どんな風に見えてるんですか?笑」
「僕には華やかに過ごしてるように見えるので」
「そんなことないですよ。彼氏だって居たことありませんから」
「そうなんですか?」
「はい....告白だってされた事ないですよ」
「それは嘘ですよ」
「ほんとです」
「だってこんなに可愛....」
「😳」
「あ、いや....すみません」
「なんで謝るんですか!」
「僕なんかが言うのは失礼だと....」
「一度口から出した言葉は最後まで伝えるのが責任ってもんじゃないですか?」
「..........石森さんは可愛いです」
「ホントですか?」
「.....はい」
「どうして顔を背けるんですか」
「.....あまり.....見られたくないので」
「見せてください」
「嫌です」
そう伝えたのに彼女は僕の両の頬を持って無理矢理顔を覗く。
「えへへ.....見えちゃいましたね」
「ちょっと.....石森さん.....」
「先輩.....今夜は月が綺麗ですね」
「それは.....」
「🙂」
「.....今なら手が届くかも知れません」