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バスの座席
【櫻の魔法 〜バスの座席〜「村山美羽」】
「奥行きな」
「ありがと」
たまには車じゃなくてバスで移動しようと、2人並んで座る。
「.....」
「.....緊張してる?」
「まぁね」
「ふーん.....」
美羽は外を見ながら黙って僕の手を握る。
「あ、見て」
「ん?」
「この前行ったとこ」
「会社の子と?」
「うん、美味しかったよ」
「今度、僕も連れてってよ」
「いいよ」
座席の下にヒーターでもあるんだろうか。
足元が温かい。
美羽は僕を見つめる。
「.....」
「.....なに?」
「なんでもない」
とは言いつつ、美羽は恋人繋ぎに握り変える。
「落ち着く?」
「うん」
「ありがとは?」
「ありがとう」
「うん、いいよ」
そのまま肩に頭を乗せてくる。
「明日の夜、何食べる?」
「鍋は?」
「好きすぎない?」
「美羽、それしか作れないじゃん」
「え、なんで私が作る前提」
「今日のお昼僕だったし」
「あ、美味しかったよ」
「聞いたよ」
「言ったっけ?」
「帰ってすぐ言ってくれた」
「嘘だぁ」
「ほんとだよ」
「じゃあもっかい言う」
「うん」
「美味しかった」
「お粗末さまでした」
「お粗末さまでした」
「こっちだけのセリフ」
「うるさい」
バスの停車案内がなる度に緊張は増していく。
「ねぇ」
「なに」
「手汗かいてんじゃん」
「ほんとだ」
「ほんと緊張しいだね」
それでも美羽は手を離しはしない。
「離してもいいのに」
「やだ」
「頑固だな」
「別に嫌じゃないもん」
「コンビニ寄りたい」
「分かった。たしか途中にある」
「すまんね」
「なんか言うことは」
「美羽ちゃんありがとう」
「うん、いいよ」
バスを降りて近くのコンビニへ。
トイレの鏡でネクタイを締め直す。
「お待たせ」
「ううん」
「それ買うの?」
「うん、美味しそう」
「あ、タブレット」
「持ってるよ」
会計を済ませて、目的地へ向かう。
「あ〜懐かしい.....」
「なに?」
「小学生の時、ここの花の蜜吸ってた」
「うわ、同じことしてんじゃん」
「みんなするでしょ」
「.....その時から美羽のこと知ってたかったな」
「ふふ笑」
「なに笑」
「なんかいいね」
「ちょっとバカにした?笑」
「してない笑」
「ほんとだから」
「知ってるよ」
肩をぶつけられ、また手を握る。
「帰る前に寄りたいところある」
「いいの?」
「○○にも見せてあげたくなった」
「なに?」
「私が高校生の時、よくぼーっとしてた所」
「そんな所あるんだ」
「落ち着くんだぁ〜」
「お義母さん、お義父さん待ってない?」
「さっき連絡したから大丈夫」
「そっか」
「ほら行くよ」
「ちょっと!」
急に美羽は僕の手を引いて走り出す。
「あはは笑」
「待って!」
「なんか楽しくなってきちゃった笑」
「なんだよそれ.....笑」