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コーヒーマジック
【櫻の魔法 〜コーヒーマジック〜「大園玲」】
「.....あ、雨ですかね」
「え?」
「ほら」
「ほんとだ.....」
大園と外回りの帰り道。
「.....うわ、傘忘れた」
「社用車って乗って帰ったらダメなんですか?」
「うん、明日休みだし」
「送ってもらおうと思ったのにぃ.....」
「だと思ったわ」
「あ、傘忘れました🙂」
「今朝持ってただろ」
「なんで見てるんですか?私の事好きなんですか?」
「『この傘可愛くないですか?』って聞いてきたの誰だっけ」
「それ私の真似ですか?」
「あぁ」
「似てないです」
「うるさい」
「喉乾きません?」
「あ〜...たしかに」
「次コンビニ見つけたら入りましょ」
「この先あったっけな」
「見てみますね」
そう言い、大園はカーナビを操作する。
「ん〜...無いですね」
「やっぱりか」
「ポンコツですね、この子」
「地図が読めないやつに言われたくないってさ」
「あ〜...うるさいですよ〜」
たぶん目を細めてる。
「そういえば会社の近くに新しく珈琲屋さんが出来てたような」
「え!行きましょ!」
「そうだな」
珈琲を買うために少しだけ遠回りをする。
「大園って珈琲好きなんだっけ?」
「朝は絶対コーヒー飲んでます」
「へぇ」
「なんですか?ついに私に興味が出たとか?」
「普通の会話だよ」
「残念です...先輩は?」
「じゃあ当ててみろ」
「うわ、めんどくさい人だ」
「嫌いになったか?」
「いえ好きです」
「.....はぁ」
「んふふ笑」
「こんな親父のどこがいいんだか.....」
「いっぱいありますよ」
「例えば?」
「なんだかんだ優しい」
「みんなに対してだよ」
「あといい匂いがします」
「.....なんだそれ」
「分かんないです。でも好きですよ○○さんの匂い」
「香水だろうな」
「何の香水使ってるんですか?」
「教えるわけないだろ」
「どうしてですか」
「絶対買うだろ」
「当たり前じゃないですか」
「勘弁してくれ...目立ちたくない.....」
「あ、あと照れ屋さんな所とか」
「うるせぇな」
「んふふ笑 可愛い」
「完全に舐めやがって」
「舐めてないです」
「.....はぁ、目薬取ってくれる?」
「どこですか?」
「内ポケット」
「え、触っていいんですか」
「.....貸せ」
「あー!嘘です嘘です!.....これですか?」
「うん、ありがと」
「好きになりました?」
「バカか」
「ひどーい」
信号待ちで目薬を注す。
「.....ほい、ありがとう」
「.....」
「.....なんだ」
「.....うるうるおめめさんですね」
「法律が無かったら手出てた」
「え〜...えっち......」
「そっちじゃないわ」
そうこうしてると珈琲屋さんに着く。
「わ〜...いい匂い」
「たしかに.....」
「いらっしゃい」
「オススメありますか?」
「苦い系?それとも酸味系?」
「大園、どっち?」
「私、苦い系で」
「ではインドネシア産のものがオススメですよ」
「じゃあインドネシアのおまかせで!」
「かしこまりました」
「フルーティーなのはありますか?」
「へぇ...フルーティーか.....」
大園が隣でニヤニヤしてるが、冷たい視線を送って無視しておいた。
「エチオピア産のものはベリーの様な香りが特徴ですよ」
「へぇ...あとは眠気が覚めるものは?」
「でしたらルワンダ産のものが苦味もありつつ、爽やかなフルーツの香りがします」
「じゃあそれで」
「かしこまりました。少々お待ちください」
俺と同い年だろうか...これまたイケおじな店員さんだった。
若い時に珈琲屋を開く夢を持ってたっけな.....。
「あ、見てくださいクッキーですって」
「美味そうだな」
「良かったら試食、いかがですか?」
商売上手な店員だな。
「食べたいです!」
「.....はい、どうぞ😊」
「.....あ、シナモン?」
「へぇ」
たしかにスパイシーな匂いがする。
「そうです。珈琲の苦味にアクセントを付け加えるように調整して作ってます」
「いるか?」
「いいんですか?」
「俺も食べたくなった」
「やったぁ」
大園は嬉しそうに左右に身体を捻っていた。
こういう素直な所は可愛いのにな。
「お待たせしました」
「ありがとうございます!」
「どうも」
「クッキー、すぐ召し上がりますか?」
「えぇ、お願いします」
店を出ると小さな粒の雪が降っていた。
「あ、雪ですね」
「珍しいな」
「知ってます?」
「なにが?」
「初雪を男女で見ると結ばれるっていう噂」
「じゃあ俺たちが初めての失敗例だな」
「も〜...つまんない.....」
「お、このクッキー合うな.....」
「ほんとですか?」
「飲んでみ」
「え.....」
「なに?」
「いえ...別に.....」
なんだ?
「飲んだらそこ入れといてくれ」
「.....え、ほんとに飲んでいいんですか?」
.....あぁ笑
「そういうことか笑」
「な、なんですか.....」
「別に飲まなくてもいいぞ」
「.....別に飲めますからぁ」
「早く飲めよ、冷めるだろ」
「.....いじわる」
「あはは笑 なにやってんだ、ほんと笑」