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山葵の蕾

【櫻の魔法 〜山葵の蕾〜「遠藤光莉編」】
光莉を迎えに行く途中、職場の後輩が自慢げに話していた事をふと思い出す。

「先輩聞いてくださいよ〜」
「なに?」
「この前彼氏がイタリアン連れて行ってくれて〜」
「良かったじゃん」
「それでエスコートまでしてくれて、まじでかっこよかったんですよ」
「へぇ」
「先輩も彼女にしてあげたらどうすか〜?」
「してないみたいな.....笑」
「いやだってしてなさそうですもん笑」

図星だった。

「光莉、イタリアン食べたくない?」
「えぇ!?どうしたの急に」
「いやまぁ.....なんとなく」
「う〜ん.....」
「他に何か食べたいものある?」

光莉は考える時の癖でいつも顎に手を置く。

「ん〜.....回転寿司?」
「あ、それも良いね。なんか僕もお寿司の口になってきた」
「絶対うそじゃん。笑」
「もうそっちの道に入っちゃった〜」
「もう.....笑」

光莉は昔からよく気を遣う。と言っても世間的に言う「気を遣う」じゃなくて彼女の本能的なもので、そんな所も合わせて彼女に惹かれた。

「でもなんで急にイタリアン?」
「いや特に理由はないけど」
「.....あ!もしかしてこの前、私が行ってみたいとか言ったから?」
「あ〜うん...正解.....笑」
「やっぱり〜笑 背伸びしようとしたの?笑」
「いじってんな.....笑」
「可愛いね笑」

光莉は僕の手を握り、軽く肩をぶつけてくる。

「そうだなぁ.....いつかエスコートしてくれたりするのかなぁ.....」
「するよもちろん」
「できる〜?」
「で、できるよ」
「できなさそう.....笑」
「いーや!できるね」
「じゃあ食べ終わった後のナプキンはどうやって置くのが正解?」
「え〜っと」
「うふふ笑  知らないんでしょ〜」
「知ってるけどね。ド忘れしただけ」
「😊」
「ん〜.....あ、先輩から連絡だー」
「だーめ、ズルしようとしてるでしょ」
「すみません、分かりません.....」
「もう.....笑  適当に投げて置くのが正解なんだよ」
「え?そうなの?あ」
「尻尾出したな〜?」
「綺麗に置かないんだ」
「うん、綺麗に畳むことを忘れるくらい美味しかったですよって意味なんだよ」
「へ〜.....難しいね」
「昔の人たちってほら、神経質な人多いから笑」
「そういうもん?笑」
「うん笑」

少し歩いた先にある回転寿司屋さんに入った。

「空いてるね」
「ね〜、珍しい」
『本日はご来店ありがとうございます。お飲み物お決まりでしたらお伺いいたします!』
「僕はレモンサワーを」
「私も同じので」
『かしこまりました!すぐお持ちいたします!』

店員さんが元気すぎて光莉がビックリしてた。

「.....びっくりした笑」
「笑笑」

光莉が頼むものは大体覚えてるので僕の方で適当に頼む。

「あと他は?」
「ねぇねぇ『花わさび』の天ぷらだって〜」
「花わさび?」
「なんだろう.....菜の花みたいなやつかな」
「頼んでみよっか」

いつも通り他愛のない話をしてお寿司を待つ。

『お待たせしました!花わさびの天ぷらです!』
「ありがとうございます」
「ねぇねぇ」
「なに〜?」
「先食べて♡」
「任せろ!」

でも怖いものは怖い。
一旦、光莉の方を見たらニコニコしてた。
これ逃げられないやつだ。

「.....いただきます」
「.....どう?」
「あ、美味しい」
「辛くないの?」
「そんなに辛くないよ」
「食べてみよ〜っと」
「.....どう?」
「ん!美味しい!」
「Wわさびとかやっちゃおっかなぁ〜」
「なにそれ笑」
「....かっっっっら!やばい付けすぎた!鼻に来てる!」
「ねぇ、何してんの笑笑  はいお茶」

そう言いながらケラケラと笑う彼女に今日も救われてる。

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