毎年の楽しみ
【櫻の魔法 〜誕生日の記憶〜「小田倉麗奈」】
「それでは以上で役員会を終了します。起立....礼」
小田倉先輩は1年生にして生徒会長を務め、その後3年生までの3年間ずっと生徒会長をしてる言わばエリート。
『小田倉先輩ってさ〜、めっちゃ綺麗なのにどっか突っかかりにくいよなぁ....』
「そうかなぁ....?」
『好きとか言おうもんなら毒吐かれそうじゃね?』
「そんな事ないと思うけど笑」
『高嶺の花過ぎてもダメなんだなぁって』
「高嶺の花か.......」
『お?なんだ?もしかして好きだったりすんの?』
「はぁ!?そんなんじゃねぇよ!!」
『おいおい笑 今どきそんな分かりやすい反応するやつ居ねーよ笑笑』
小田倉先輩は可愛い。
きっとそう思ってるのは僕だけなのかもしれない。
「○○〜ちょっと△△さん家にケーキ届けてる間、店番してくんな〜い?」
「分かった〜」
「今日、フロランタンが結構余っちゃったから○○の判断でオマケしてあげていいから」
「食べていい?」
「売り物😠」
「はぁい....」
「よろしくね〜」
僕の家は小さなスイーツ店。
元々都内にお店を持ってたんだけどコロナの影響で去年、地価の安いここに移転した。
「いらっしゃいまs」
「こんにち......あら」
「小田倉先輩!?」
「○○くん?」
話したことないのに覚えてくれてるんだ.....。
「.....どうしてここに?」
「それはこちらのセリフです。うちはバイト禁止ですよ」
「あ、いやここ僕ん家で.....」
「え?あ、そうなの?」
「今、母が宅配に行っててその間任されてるんです.....」
「それは失礼しました」
「いや全然.....えーっとケーキですか?」
「はい.....見てもいいですか?」
「もちろん!」
小田倉先輩は店内を見て回った。
その姿も優雅で綺麗な横顔に正直見惚れてしまった。
「○○くん、オススメはある?」
「......へ?」
「全部美味しそうで決められなくて.....」
「えーっと僕はモンブランが好きで、ウチのはちょっと特殊でモンブランソースの前に生地を飴でコーティングしてあってそれが新食感でめっちゃ美味しくて!」
「美味しそう......じゃあこれを1つ」
「.....誰かのお誕生日ですか?」
「えーっと.....」
明らかに戸惑った反応をされたことでようやく自分が踏み込みすぎたことに気がついた。
「あぁいやすみません!踏み込み過ぎました」
「いえ......」
「あ!そうだ!フロランタン好きですか?」
「え!大好き!」
さっきまで優雅に店内を待っていた蝶からは想像出来ないほどのテンションの上がり様....。
......なんだこの可愛い生き物は。
「......」
「すみません取り乱しました....」
「え、あ、すみませんえーっと.....あ!フロランタンが今日たくさん余ってて良かったらオマケしますけど入れてもいいですか?」
「えぇぜひ!」
「もしどなたかの誕生日とかならラッピング無料でできますけどどうします?」
「......お願いします」
「プレートのお名前いかがされます?」
「......」
「......?」
「......やっぱり大丈夫です」
「え」
「ごめんなさいラッピングも大丈夫です」
「......かしこまりました」
「......」
「......何かご迷惑でしたかね.....?」
「いえ.....気にしないで......」
小田倉先輩の初めて見る表情は感情が読み取れなかった。
「......○○くんのお母様はどんな方?」
「母ですか.....?」
「うん」
「そうですね.....比較的優しいと思います」
「そっか.....次はお母様ともお会いしたいです」
「......小田倉先輩!」
「はい?」
「......もしかしてお誕生日だったりしますか?」
「......どうして?」
「やっぱり.....」
「......」
「お店に入った時の反応からずっと違和感があったんです.....なんていうか感想が全部一人称というか.....」
「......」
「合ってますか....?」
「......誰にも話さないって約束してくれますか?」
「はい」
「......私、誰かに誕生日を祝われた事ないんです」
「え」
「父も母も私が生まれた時から兄ばかり見ていて、私のことはメイドさんに全任せ....」
メイドさん居るんだぁ.......。
「メイドさんは祝ってくださるけどあくまでも仕事の内なんだって気づいてしまったの.....」
「そうなんですね.....」
「学校では完璧だなんて言われて友達も出来なくて....みんな勝手に私と比べて......」
「......」
「......だから毎年自分だけは自分の誕生日を祝おうと思ってね」
「......小田倉先輩」
「なに.....?」
「実はもう1つオススメのケーキがあって」
「そうなの?」
「これ.....僕が作ったチーズケーキで誕生日に人気のケーキなんです」
「美味しそう.....いくら?」
「いえ、代金は結構です」
「でも.....」
「もしご迷惑じゃなければプレゼントさせてください」
「......いいの?」
「もちろんです」
小田倉先輩の綺麗な目から涙が落ちる。
「えぇ!!!?」
「.........ごめんなさい」
「そんなそんな!謝らないでください!!」
「こういうの.....慣れてなくて......あはは.....なんで泣いてるんだろう....笑」
「.......良かったら落ち着くまで奥のカフェスペースで休みますか?今貸切状態なので」
「ご迷惑おかけします.....」
普段じゃ絶対見れない小田倉先輩の弱々しい姿に失礼ながら母性を感じてしまった。
「ただいま〜...あ、いらっs」
「しーっ!」
「.......🥺」
「なに?あんたが泣かせたの?」
「違うから!」
「.......なにがあったか知らないけどもう店番大丈夫だから自由にしな」
「シェイクもらってもいい?」
「はぁ.....明日も店番頼むわね」
「ありがとう!」
僕は奥の席にいる小田倉先輩にシェイクを持っていった。
「小田倉先輩........」
「......ごめんなさいね.....こんな姿見せてしまって....」
「いやいや!それは全然!」
「........」
「......この後ってもしかしておひとりですか?」
「そうね.....」
「......小田倉先輩が嫌じゃなければ僕、お祝いしてもいいですか?」
「これ以上迷惑かけられません......」
「迷惑だなんて思ってないです!」
「それに申し訳ないです......こんな私なんか」
「そんな事言わないでください!」
「...........」
「僕が小田倉先輩のお誕生日をお祝いしたいんです。させてください!」
「○○くん.....」
「......そしてご迷惑じゃなければこれから毎年祝わせてください」
「...........それって」
「......あ!いや!これはその」
「......ふふっ笑」
涙を浮かべながらも笑う小田倉先輩を見て、必死すぎて変な顔でもしたのかもしれないと思い恥ずかしくなってきた。
「.......○○くん」
「はい......?」
「.......ありがとね」
「いえ......」
「嬉しいです.......毎年の楽しみにしてもいいですか?」
「はい!!もちろん!!」
「.....ここはケーキ食べてもいいの?」
「もちろんです!あ!そうだ!ちょっと待っててください!」
「......?」
誕生日に必要なものはなんでも揃ってる。
「お待たせしました!!」
「これ.....」
「すみません.....漢字だとまだ書くのが難しくてひらがなになっちゃったんですけど....」
「........」
「あとえーっと今年で18歳で合ってますよね?」
「........そうです」
「じゃあこれで.....」
「ふふっ....私から見たら81歳になってるよ.....笑」
「あぁそっか!!失礼しました!!」
「ううん.....笑」
「改めて」
「......」
「お誕生日おめでとうございます!!」パァン🎉
「うわぁ!!びっくりした!!」
「これも初めてですか?」
「それクラッカーっていうもの?」
「ですです!」
「そっか....これがクラッカーかぁ....」
涙のせいかそれとも好奇心か、目をキラキラさせる小田倉先輩は僕が今まで見てきたどんな人よりも"可愛い人"だった。
「.....可愛い🤭」
「.....え?」
「.....?」
「今なんて.....?」
「.....ん?」