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静かな夕凪の中

【櫻の魔法 〜静かな夕凪の中〜「小島凪紗」】
「好きです!付き合ってください!」
「あ...えっと...ごめんなさい...彼氏が居るんです.....」

頬色に茜がかった日は鋭く、僕を突き刺す。
爆ぜた斜陽は僕の目を開けさせてはくれなかったんだ。

「そ...そっか.....」
「ごめんなさい.....!」

オレンジ色に染まる校舎は、走り去る彼女の背中を押して僕を遠ざける。

「○○.....」
「凪紗.....」

幼なじみの凪紗に応援してもらっていたのに、この通り僕は惨敗して、彼女になんと伝えようか。

「だめ...だったね.....」
「まぁダメで元々だったから」
「ごめん...私が告白しようなんて言っちゃったから.....」
「なんでなぎが謝るんだよ笑」
「だって.....」

お日様のせいで手が濡れた。

「え.....」
「泣かないでよ.....」
「ちがっ...これは.....」
「.....」
「なんでなぎも泣くんだよ.....笑」
「うぅ...ずっと好きだったじゃん.....」
「そうだけど.....」
「悔しいよねって思って.....」
「お前が泣くなよ.....笑」

僕よりも僕のことで泣いてくれる、大事な幼なじみ。

「なぎ」
「なにぃ...ぐすっ.....」
「甘いもの食べに行こ?」
「甘いもの.....?」
「辛くなったら甘いものでしょ?」
「うん.....」

もう少しで僕は僕を愛せたのに、斜陽に気付けば目も開かぬままだった。

「はい、お水」
「ありがと」

なぎと帰り道のファミレスに。

「ごめんね、ほんと.....」
「気にすんなよ」
「あの...なんか...」
「うん」
「いっぱい私が笑わせるから!」
「3回目だよ?それ笑」
「ごめん〜.....」
「なぎは優しいね」

また泣きそうになっているなぎの頭を撫でてやる。

「ほらこの通り、僕は大丈夫だから😊」
「ほんとに?」
「僕より泣く子が居たら泣けないよ笑」

なぎと目が合う。

それだけでお互いがなにを考えてるか分かるだなんて、きっと僕たちは特別だ。

「失礼します、ディップチュロスとフルーツパンケーキとプリンアラモードです」
「ありがとうございます!」

デザートを目の前にするとなぎの目が輝く。

「美味しそう.....🥰」
「なぎ、ブラウニーあげる」
「いいの!」
「うん、食べな」
「やったぁ〜」

なぎはほんとに美味しそうに食べる。
僕はそんななぎを見るのが好き。

「あ、○○これあげる」
「え?いいの?なぎこれ好きじゃん」

なぎの大好物のマンゴー。

「いいの、はいあ〜」
「ん」

なぎなりの優しさだ。

「.....美味しい?」
「うん、美味しいよ」
「そっかぁ😊」
「なぎって」
「うん?」
「好きな人とか居ないの?」
「ゴホッ!」
「えぇ!?」

水に手を伸ばすので渡す。

「死ぬかと思った.....」
「なにしてんの笑」
「パンケーキ喉に詰まった.....笑」
「気をつけてよ笑」
「で好きな人だよね?」
「うん、居るのかなって」
「居ないよ」
「何回か告白されてるじゃん」
「みんな顔ばっかりなんだもん」
「可愛いってことじゃん」
「やだよぉ...中身を知らないくせに」

たしかに僕から見てもなぎは可愛いと思う。

それ以上に僕はなぎの優しい所が好きだから、なぎの言いたいことも分かる。

「たしかに、なぎは可愛いだけじゃないもんね?」
「なに?もうこれ以上マンゴーはあげないよ?」
「いらないよ笑」
「それに○○が居たらいいもん」

最近よくなぎから聞くようになった言葉。

「.....僕が誰かと付き合ったら寂しい?」
「えっ?」
「なぎ、寂しくないかなって」
「あぁ.....」

パンケーキを食べるなぎの手が止まる。

「.....寂しいかも」
「だよね.....」
「でも私のせいで○○が好きな人と一緒になれないのはもっとやだ」

いつもにこにこして可愛いなぎの、久しぶりに見る真剣な顔。

「なぎ.....」
「だから私には気にせずn」
「僕の事好きでしょ」
「えっ.....」
「幼なじみとしてじゃなくて、異性として」
「そんな訳!笑 あはは笑」
「.....🙂」

なぎはゆっくりナイフとフォークを置く。

「.....うん.....好き」
「やっぱり.....」
「バレちゃってたんだ.....」

机の下で靴が当たる。

「答え...知りたくない.....」
「大丈夫」
「え?」
「これからは幼なじみとしては見ない」
「え.....」
「都合良いかもだけど.....」
「.....いいよ、それでも」

当たったままの足をなぎに軽く踏まれる。

「もっと早く気付け...ばか」
「ごめん.....」
「じゃあもう私も遠慮しないから」
「遠慮?.....い"っ!」

思いっきり強く足を踏まれる。

「さっきの告白聞くのしんどかった!」
「はぁ?それはなぎが勝手に!」
「呪い送るために居たの!失敗しろって!!」
「はぁ!?」
「ばーかばーか」

再びナイフとフォークを取ってパンケーキを食べ進めるなぎ。

「ずっと好きだったんだから.....」

わざと聞こえないフリをしてプリンを1口食べる。

「今日○○の奢りね」
「えぇ.....」
「あと今週末付き合ってね」
「なにに?」
「デートに決まってるじゃん」
「デート.....」
「嫌なの?」
「嫌じゃない」
「じゃあなんか言うことは?」
「え?.....嬉しいです」
「なにそれ笑笑」

斜陽にはにかむ貴方が見えた静かな夕凪の中、僕らは目も開かぬまま。

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