かくれんぼ
【櫻の魔法 〜かくれんぼ〜「村山美羽」】
「ご飯、美味しかったね」
「おいしかったぁ」
「ん」
手を差し出すと、美羽はじっと見つめてゆっくり繋ぐ。
「美羽の手、冷た」
「○○の手、暖か」
身長がほぼ一緒の2人を蒼色のネオンライトが照らす。
「愛季って覚えてる?」
「美羽のお母さん?」
「友達」
握っている手に力を入れられる。
「すみませんでした」
「愛季がね、○○の事カッコイイって」
「ほんとに?」
「うん」
「それで?」
「怒っといた」
「なんで!?」
「私のだよって」
職場の同期から『お前の彼女って怖いよな』ってよく言われてるけど、僕は全くそうは思わない。
「なんだそれ」
「○○は私の」
「僕は僕のです」
「いいや、私の」
手を繋いだまま、腕に絡んでくる。
「私のだよぉ〜」
「なに?笑 酔ってんの?」
「失礼な」
「急に愛情表現凄いじゃん」
「だって.....」
美羽は立ち止まり、僕を上目遣いで見つめる。
「.....なに」
「愛季から褒められてたって伝えた時、ちょっと嬉しそうだった」
「そりゃ嬉しいでしょ」
「やだ」
「どうしろと」
「キスして」
「帰ってからね」
「今がいい」
僕たちが歩いてる道にはまぁまぁの人通りがある。
「いやいや」
「してくれないんだ.....」
「恥ずかしいよ、流石に」
「.....じゃあ」
美羽は辺りを見回すと、僕の手を引っ張ってどこかへ向かう。
「ちょ、ちょっと」
「いいから、こっち」
入ったのは裏路地。
「人、居ないよ?」
壁に追いやられた僕の両頬に、美羽の冷たい手が当たる。
「してよ、キス」
すると奥から物音がし、2人して奥を見つめる。
「.....」
「.....」
しばらく気配を消した後、美羽が一言。
「猫だ」
「猫?居る?」
「うん、あそこ」
美羽が指さす辺りに、確かに小さい何かが動いてる。
「ほんとに猫?」
「猫だよ」
「あんま見えないや」
「.....追いかけてもいい?」
ちょっとからかいたくなった。
「美羽」
猫に興味津々な美羽の顎を優しく持ち、名前を呼ぶ。
「.....なんですか」
「キスしてほしいんじゃなかったの?」
ニコッと笑った美羽はそのまま目を閉じて待っていた。
「.....ふっ笑」
「.....なに」
「いや笑 可愛いなって笑」
「.....バカにしてる?」
「ううん笑 したい?」
「したい」
「お願いしますは?」
「やだ」
「じゃあしない」
「.....じゃあいいもん」
僕の両頬を冷たい手で摘む美羽。
「.....いふぁい」(痛い)
「おしおき」
「おえん」(ごめん)
「ゆるす」
諦めた美羽は僕の両頬から手を離し、ネオンライトの光の方へ向かおうとしていた。
でも、僕もスイッチが入ってしまった。
「美羽」
美羽の手を引っ張り、壁に追いやる。
もちろん頭と壁の間に僕の手を挟んであげる。
「1回だけね」
「.....はい」