発展途上国で見た忘れられない光景
私は子供の頃親の仕事の都合でとある発展途上国に住んでいた。
まだあまり車も普及しておらず、道路は整備などされていないままだった。
外国人がよく利用するカフェやスーパーマーケットの近くには、ホームレスの人々が路上生活をしていたり、自分と同じかそれより幼いであろう子どもたちが風船を売りお金を稼いだりしていた。
それでも治安がそこまで悪いということはなく、国民性なのだろうか、皆いつも穏やかに過ごしているように感じた。
そんな私には、どうしても忘れられない出来事がある。
両親と共に、外国人がよく利用するカフェを利用した時のことだった。
私たち家族はテラス席に案内され、昼食を食べていた。
少し離れたテラス席に座るバックパッカーの外国人二人組が私たちと同じように昼食をとっていた。
そこへ1人のおばあさんが近寄って行った。
ぼーっと見ていると、彼女は外国人二人組に何か話しかけているようだった。
どうやら食べ物を少し恵んでくれないかと言っているようだった。
現地の言葉とジェスチャーを使ってなんとか【少しだけ恵んでください】と伝えていた。
外国人二人組にはおそらく彼女の言いたいことは伝わっていた。
二人組のうち1人の男性がカバンの中をゴソゴソと漁り始めた。
(わ、何か食べれるものをおばあさんに渡してあげるのかな…?)
と思った次の瞬間、彼がカバンから取り出したものは“歯磨き粉”だった。
明らかにおばあさんを嘲笑しながら「これが欲しいんだよね?笑」とでも言わんばかりに歯磨き粉をおばあさんに渡そうとする男性。
「ちがう、ちがう」と首を振り歯磨き粉を拒否するおばあさん。
男性はまるで虫を手で追い払うような仕草をし、おばあさんは苦笑いをしながらその場を去っていった。
たった数分の出来事だったが、胸が痛くてしょうがない光景だった。
言われるがままに食べ物やお金を恵むのが正しいとは限らないことも理解している。
それでも、そこであえて歯磨き粉を、嘲笑いながら渡そうとする必要はあったのだろうか。
当時10歳の私にはどう行動するのが正解なのかよくわからなかった。
帰国してからもう10年以上経つが、いまだにこの日のことだけは忘れることができないし、思い出すたびに苦しくなる。
最近SNSで話題になり、ニュースにもなっていたホームレスいじめの動画を見て、先進国である日本でも、日本人同士で同じようなことが行われているのかと思い残念な気持ちになった。というか胸が痛くてほとんど見ることができなかった。
相手の気持ちを考える
たったそれだけのことができない人がどうしてこんなにもいるのだろう。
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