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公園で泣いた日
とある日曜の夕方。
私は娘を連れて近所のお祭りに出かけた。
引っ越して来てから約5年。
初めて行くお祭りだ。
会場が小さな公園で、道路も通行止めになどならない、町内の住人くらいしか知らないようなお祭り。
近所のママに、来週こんなお祭りがあるよーってフライヤーのスクショをLINEで送ってもらってからというもの、この日を娘以上に楽しみにしていた。
焼きそば、たこ焼き、出店もたくさんありますとの文字に心を弾ませて。
そして、その時からこれだけは買おうと心に決めていたものがある。
ケバブだ。
10代の頃、バイトの帰りに繁華街の片隅にあるケバブのキッチンカーに毎日通っていた。
本当に毎日。
帰って寝るだけの胃によくもまぁ毎日放り込んだものだ。
自分でも感心する。
毎日通っているから、当然お店のひととも仲良くなる。
暑い寒いから始まって、今日は暇だったとか、こんなことがあったよとか、プライベートの話なんかもしたりして。
いつかくりくりお目々の少女の写真を見せてくれたこともあった。
異国出身の彼の子供は、顔立ちからカーリーヘアまで本当に天使のようだった。今は事情があって、離れ離れだというような話だったんだけど、その時の彼の悲しい顔を私は今でもおぼえている。
そうこうして過ごしているうちに、
彼はひと足先に他県に引越してしまったんだけど、
20代の半ばくらいまでは定期的に連絡を取っていて、
最後に話した時は都内で物販の仕事を始めたとのことだった。
その頃、私の携帯のトラブルが何度か重なって、連絡先も分からなくなったまま番号も変わってしまった。
あの頃は多分まだスマホだバッグアップだなんてなかった気がする。
元気かなぁ。
色々思い返しながら会場の公園に着いた。
まずは幼児の物欲と食欲を満たそうと娘の行きたいお店に行き、欲しいものを買った。
フランクフルト、メロンソーダ、スーパーボール…
混雑状況を確認すべく、私はケバブのキッチンカーを振り返った。
なんと…中に、例の彼がいた。
いやいやいやいや…こんな縁もゆかりもない公園にいるわけがない。
私は誰も並んでいないことを確認し店の前まで行くと、小銭をトレーに出してオリジナルをひとつ注文した。
私は娘と手を繋いだまま、肉を削ぐ男性の横顔をじっと眺めた。
いや…こんなに他人が似ているなんてことがあるのだろうか。
でも、20年…いや下手したら25年くらい経っている。
ひと違いだったら失礼だし。
でもな…声を掛けるならブツを受け取るまでの今しかない。
モヤモヤしたまま家に帰って後悔するくらいなら…
散々葛藤の後、私は勇気を出して声をかけた。
『あ、あの…もしかして…』
そこまで言うと彼はニッコリ笑って、
「そうです、そうです!すぐ分かりましたよ!さっきそこにいたでしょ?見てすぐに◯◯(私)だと分かったよ!!ちっとも変わっていないね!」
私はみるみるうちに目が涙でいっぱいになった。
思い出したわけではない。
こんなに長い間、私をおぼえていてくれたのだ。
まだこの顔でいて良かった。
もうあと数年もしたら、切ったり縫ったりしていじり倒していたかもしれない。
彼も髪が真っ白になった以外は何も変わっていなかった。
笑った顔も。
話し方も。
それから娘を紹介して、結婚したこと、近くに越してきたこと、彼の仕事のこと、たくさん話した。
「おぼえてる?とても寒い日、僕にマフラーくれたこと。」
『嫌だ〜本当?全っ然おぼえてない!!けど、優しかったんだね、私www』
泣きながら二人でたくさん笑った。
その後、合流した夫にこの再会を話し、並んでる列にみんなでもう一度並んだ。
夫も彼も、はじめましてを喜んでくれた。
あの頃、一緒に通った親友にも報告した。
『ちょ!!!今、近所の公園に△△(彼の名前)がいるんだけど!!』
「声かけた!?!?懐かしい!一緒にマカレナ踊ったよねwww」
『マカレナ!?!?www
知らねーっwwwどこでだよwww』
今度、みんなで彼のお店に行く。
その時はまた改めて泣いたり笑ったりしたいと思う。