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ベートーヴェンのピアノソナタ全曲を聴く (前編)


ベートーヴェンのピアノソナタ全32曲は、19世紀の大指揮者ハンス・フォン・ビューローによって、
ピアノ音楽の『新約聖書』といわれるほどクラシック音楽にとって重要な曲集です。

今年はベートーヴェン生誕250年の記念年でもあるので、
「普段は3大ソナタ『悲愴』『月光』『熱情』くらいしか聴かない」という方も、この機会にぜひ全32曲のピアノソナタを聴いてみましょう。

前編ではベートーヴェンの初期〜中期に作曲された、
第1番〜第20番(1794〜1802)までの作品を取り上げています。

後編では第21番〜第32番を取り上げています。



♪第1番〜第7番 (+第19番、第20番)

第1番 op.2-1   (1794年)
第2番 op.2-2   (1795年)
第3番   op.2-3   (1795年)

op.2の3曲は、ベートーヴェンの師匠であるハイドンに献呈されています。
(もっともベートーヴェンは「ハイドンに習ったことは何もない」と言っていたそうですが…)

すべて四楽章制で古典的な様式ですが、
第1番は「悲痛」、第2番は「優美」、第3番は「華麗」な性格で、
同時期に異なる性格の楽曲を創作するという、当時としては珍しい創作活動を行っています。

《第1番 op.2-1》

《第2番 op.2-2》

《第3番 op.2-3》




第4番     op.7    (1797年)

op.2に比べると規模も内容も拡大し、曲の長さは第29番『ハンマークラヴィーア』に次ぐ大作となっています。
ベートーヴェンのピアノの生徒で、恋愛関係にあったとされるバルバラへ献呈されています。

《第4番 op.7》




第19番     op.49-1      (1798年)
第20番
    op.49-2      (1798年)

(番号が遅いのは、1802年にベートーヴェンの弟が無断で出版社に持ち込んだからだそうです。)

初版には「2つのやさしいソナタ」と表記され、
弟子の練習曲用に書かれたといわれています。
「ソナチネ集」に収録されており、初めて弾くベートーヴェンのソナタがこの2曲のどちらか、という人も多いです。

《第19番 op.49-1》

《第20番 op.49-2》




第5番   op.10-1    (1798年)
第6番   
op.10-2   (1798年)
第7番
 op.10-3   (1798年)

《第5番 op.10-1》
初めて三楽章制で書かれたソナタで、規模の縮小とともに、内容の濃縮が見て取れます。
激しい曲想でハ短調で書かれていることから、『小悲愴』と呼ばれることもあるそうです。

比較的短くて弾きやすいので、コンクールの課題曲になることも多いです。

《第6番 op.10-2》
第5番と同じく、三楽章制で書かれています。
軽快な調子の曲で、同じくコンクールの課題曲になることも多いです。

《第7番 op.10-3》
この曲は四楽章制で、第5番・6番に比べて大規模で、内容も傑出しています。
続く第8番と双璧をなす作品です。





♪第8番〜第11番 

第8番『悲愴』 op.13   (1799)

ベートーヴェンの初期を代表する傑作のソナタで、彼がピアニストだけでなく、作曲家としても名をあげるきっかけとなった曲です。

後期の「深遠な悲劇性」とは違った「青春の哀切」を表現した作品となっており、
激しい曲調と美しいメロディは、ピアノソナタの人気曲として確固たる地位を築いています。

《第8番 op.13》




第9番     op.14-1   (1799)
第10番
 op.14-2  (1799)

《第9番 op.14-1》
楽曲の規模が小さく技術的難所が少ないため、よく学習用のソナタとして使われます。
(しかし意外と内容が濃いため、簡単といえる曲ではありません…)

ドイツロマン派を思わせる楽想が盛りだくさんなので、初期のソナタの中では1番好きな曲です✨


《第10番 op.14-2》
第9番と同じ理由で、よく学習用のソナタとして使われます。
ユーモラスで移り気な曲で、第一楽章冒頭の動機は「男女の対話」に例えられています。





第11番 op.22   (1800)

ベートーヴェンが自画自賛した作品で、初期様式を締めくくるのにふさわしい楽曲です。
冒頭がキャッチーで、明るく伸びやかな曲です。

《第11番 op.22》






♪第12番〜第18番 

第12番『葬送』op.26   (1801)

四楽章制ですが、ソナタ形式は1つもなく、
続く『幻想風ソナタ』にむけて、古典的なソナタ形式からの脱却をはかっています。

第一楽章の変奏曲は、後期作品を思わせるような敬虔な曲調です。
第三楽章が葬送行進曲なので、『葬送』という愛称で呼ばれています。

ショパンはこの曲が好きで、コンサートで演奏することもあったそうです。

《第12番 op.26》






第13番『幻想曲風ソナタ』op.27-1  (1801)
第14番『幻想曲風ソナタ』
op.27-2  (1801)
             (月光ソナタ)

《第13番 op.27-1》
この曲もソナタ形式の楽章が1つもなく、
また、楽章間を切れめなく演奏するようにという指示が書かれています。
終楽章に比重が置かれるという構成は、
次の『月光ソナタ』でより一層発展していきます。

《第14番 op.27-2》
ベートーヴェンのピアノソナタの中で最も有名な曲です。
伝統的なソナタというものをかなり壊したロマン派的な作風で、
序破急的な、終楽章にむけて盛り上がっていく構成となっています。





第15番『田園』 op.28   (1801)

「攻めのop.27」と打って変わって、伝統的な形式で回顧的な趣の曲です。

パストラル風の第2楽章が素朴で美しく、ベートーヴェンも好んで弾いていたそうです。

《第15番 op.28》





第16番    op.31-1  (1802)
第17番『テンペスト』   
op.31-2  (1802)
第18番『狩』
 op.31-3  (1802)

《第16番 op.31-1》
三楽章制で、明るく古典的な楽曲です。
第一楽章の冒頭の、つんのめるような動機がとてもユニークです。

《第17番 op.31-2》
ハイリゲンシュタットの遺書が書かれたのと同時期の作品で、
革新的で劇的な作風からは、「芸術のために生きるのだ」というベートーヴェンの決意が伺えます。

(『テンペスト』の由来になったシンドラーによる「シェイクスピアを読め」のエピソードは、現在では創作話だとされています。)

《第18番 op.31-3》
四楽章制で、緩叙楽章がありません。
どの楽章もメロディックでかっこよく、第4楽章の冒頭のメロディが角笛を想起させることから、『狩』の愛称で呼ばれることもあります。

幻想的な曲想とはほど遠い、古典的でかっちりした曲ですが、
初期作品と比べて格段に発展しており、内容や演奏効果の進歩が著しい作品です。





後編は、中期(第21番〜第27番)と後期(第28番〜第32番)のピアノソナタについて解説しています。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます✨


さくら舞🌸

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