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楽しそうな人が楽しそうにしてちゃいけない車内なんて

今日はそれほど雨には降られないだろうと思っていたら、しっかり裏切られ、スカートもお気に入りの靴も濡れてしまった。行きは日傘、帰りは雨傘。どちらも風で吹き飛ばされそうだった。

でも、暑い日のスコールのような雨はキライじゃない。帰りだったからそう思っただけかもしれないけれど。探せば青空がどこかにあって、水たまりはキラキラしている。止んだと思って傘を閉じると、待っていたようにパラパラパラっとまた雨が降ってきて、道行く人がそのまま走り出したりまた傘をさしたりと、てんでに動くのもどこか楽しい。

ちょうど雨脚が強くなる頃、電車に乗れた。端の席が空いていないので、座らずにドア際に立つ。そばで、換気用の窓の隙間から吹き込む雨に、女の子たちがひゃーひゃー言っていた。閉めようとしても閉まらないらしい。向かいのロングシートから男の人が一人立って、代わりに閉めてあげていた。

「いや、結構重いんだよ」と、席に戻った男性が、連れの男性に言い訳のように言う。女の子たち3人は、何事もなかったようにおしゃべりに熱を上げ始めた。

大学生くらいだろうか? 私から見たら娘よりも若そうな「女の子」たちだ。端のひとりは体を斜めにして、隣のふたりに向かってしゃべっているから顔がよく見える。普通の、ごく普通のお嬢さん。足元には小ぶりでカラフルなスーツケース。久しぶりに会ったのか、とにかく楽しそうだ。本当に楽しそうだった。

だけど、だからこそ、イラッとしてしまう。窓を閉めたんだから、おしゃべりは止めなさいと言いたくなる。不要不急の外出なのかどうか、そんなのはわからないけれど、斜めになって転がりそうなスーツケースが、ものすごく邪魔に見えてしまう。

気になるのがいやで、場所を移動した。その子達が見えなくて、声も聞こえない車両まで移動した。

なんでこんなことしてるんだろ……! とため息が出る。

楽しそうな人を見て、楽しそうと思えないばかりか、諸悪の根源みたいに忌み嫌って離れる。そんなの、もう本当に嫌だ。更に言えば、車内で具合の悪そうな人を見た時に、気の毒に思う前に「離れなきゃ!」と思うのも、もう嫌だ。陰気な車内の陰気な顔が正解なんて嫌だ。

ぼんやり外を見ながらドアの側で立っていたら、直ぐそばのシートの一番端の席が空いた。やれやれと座ろうとすると、端から3番目に座っていたおばさんが、素早く腰を上げ、スススっと移動してそこに座ってしまった。

端っこ取り合戦敗れたり。

でも、雨の日は特に、開閉するドアの側が一番換気がいいんだろう。ついでに、なまりになまった足腰にも。