親切で、鳩の恋路の邪魔をする
朝の道路沿いのアーケードには馴染みの景色があって、以前別のところで書いたのだけど、薬局の前では丁寧に開店前の掃除をしている女性がいる。
先日、その道を歩いていたら、前方から誰かをきつく叱るような声が聞こえてきた。
まだどの店も準備中で、聞こえているのは道路を走る車の音くらいの中、その声はとても目立った。子供を叱っているにしても声が大きい。パン! と手を叩くような破裂音もして緊張感が漂う。
さらに歩いて行くと、「サトウのサトちゃんのおばさん」が、鳩を追っている様子が見えてきた。3羽の鳩が薬局の前を歩き回っていて、それを、おばさんが手を叩いて道路の方に追い払っているのだ。「なーんだ」と思うと同時に、「なんで?」となった。おばさん、あまりにも執拗だ。
薬局の隣は居酒屋で、店はまだきっちりと閉まっていたけれど、薬局との間に米粒のようなものが置かれていた。
鳩はそれを食べに来たのかな、おばさんはそれが気に入らないのかな、もしかして餌を置いているお隣と確執でもあるのかな…? などと思っていたら、おばさんの言葉が聞き取れた。
「どーうして仲良くできないの?! こら!! 追いかけないの!!
どうしてそうやって追いかけるの?!(そしてパンパン!と手を叩く)
やめなさいっ!! こら!!
もっと仲良くしなさい!!(パンパンパン!!)」
いやいやいやいや、奥さま、これは見るからにオスがメスを追っているという図。まさに今、仲良ーくしようとしているところではないかしら。
恋の季節ですもの、どうにも仕様がありませわ、ほほほ。
とも言えず、あらあらと思いながら通り過ぎたんだけど……
どうしてあんなに大きな声で鳩を追い払っていたのかなーと考えると、なんとなーく「鳩の諍いも見逃せない優しいあたくしアピール」にも思えてしまって、でも、そうすると毎朝サトウのサトちゃんを磨くのもそういうアピールに見えてきてしまうから、
あの人はとにかく優しくて、ちょっとお節介な人なんだ。
…と、思う。