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今を最高にするには、過去を受け入れられてこそー櫻坂46「何歳の頃に戻りたいのか?」MV解禁
センターを務める山﨑天が、朝の情報番組のインタビューで、こう語っていた。
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上り詰めるということは、そういうプレッシャーと戦うということであり、さらにそのプレッシャーに勝つということであり。
2023年、このnoteをご覧いただいている皆様には言うまでもないことではあるけれど、5th桜月の可憐さ、6thスタオバと7th承認欲求の爆発力の勢いで、11月のアニラをあれだけの熱量にし、年間の目標でもあった紅白の復帰を果たした。
目標を達成した瞬間が、実は勝負どころである。
そこで一丁あがりになってしまうのか、途切れそうになる気持ちに負けずに新しい目標に立ち向かえるモチベーションを形成できるか。
それだけ上り詰めてきた彼女たちだからこそ、言い知れぬプレッシャーを感じているだろうし、それを最も感じているとしたら、その新たなスタートの「顔」に指名された彼女だろうなと。
8th表題曲、MV解禁。
もともと私は、櫻坂界隈が得意な考察というものをしてこなかった。敢えてそれはしなかったということだけれど、理由は意味を限定しない方がいいような気がしていたからだ。
ただどうしても気になるところというのはあるもので。
だから「こういう意味ではないか」という「正解」にフォーカスしていくのではなく、「こう見えた」という「感想」を置いておこうと。
山﨑天の撒く落ち葉とは
曲の序盤、ウエイトレスに扮する三列目メンと、客に扮するフロント・二列目メンとのシーン。
山﨑天は踊る三列目メンと、フロント二列目メンに、それぞれ一瞥をして動き出す。
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そして、謎の葉を撒いてから自分もウエイトレスのパフォーマンスに入っていくわけだが…
彼女のいた場所から考えると、順序から言えばフロント二列目メンを見てから、ウエイトレスを見た、という形になっている。
なんとなくだけれど、この視線の順序も意味がある気がする。
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実は、京都で初めてティザーを見たときから、あの落ち葉のことが少し気にはなっていた。
欅坂時代から、このグループは落ち葉との親和性が高い。
そう、それもあったので、この落ち葉はもしや…?という気持ちがあったのだ。
山﨑天が、落ち葉の入った袋を持って走り寄り、その袋の中身をぶちまけて踊り出すのが件のシーン。
…となると。
この曲、実は常に過去を意識させる作りである。その最もこだわりたい「過去」があるとしたらそれは…
この葉が、ケヤキの落ち葉かどうかが知りたい。
もしそうだとすると、全てがつながるのだ。
過去に 戻れやしないと知っている
夢を見るなら 先の未来がいい
ケヤキの葉だと仮定して。
三列目メンバーのウエイトレスは、実に厳しい表情でダンスをしている。
そこに天ちゃんがやってきて、ケヤキの葉を撒き、その上で自分のパフォーマンスを披露する。
それをじっと見ていたフロント二列目メンが、間奏のところで動き出し、自分たちの動きを見せつける。
ケヤキの葉を下敷きにして、というのがポイントである。
「夢を見るなら 先の未来がいい」と歌いながら、やっていることは過去を忘れずにいること。もっとはっきり言えば、夢を見るなら未来がいいに決まっているのであって、それを敢えて言葉にしないといけないのは、自分が過去にこだわりがあることを告げているようなもの。
本当に過去を見ていない人は、そんなことすら口にしない。
故にこの曲は、欅坂を決して忘れない、という意思表示にも見えてしまったのだ。あくまで個人的には。
村井優を見つめる中嶋優月の視線
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個人的に震えたのは、このシーンだった。
「過去」というのが一つのキーワードであるとして、グループとしての「過去」を知らない三期生。
しかも、特に村井優については、母親にオーデを勧めてもらって初めて櫻坂のことを調べたという、櫻坂に触れずにオーデまで来た人。
過去に染まっていない、未来しか語れない人たちだ。
三列目メンである中嶋が、今回二列目となった村井を見つめる眼が厳しい。
かたや村井はどこか冷めた目で中嶋を見つめる。
そんな二人が対峙し、対立しているように見えて、踊り出した瞬間にそんなお互いへの感情を忘れたかのように笑顔でダンスに興じる。
加入して一年。
ここまでの表現力を身につけるまでになったかと感慨深い思いがあったのと同時に、8thで一つの区切りをつけるという意味で、ここからの歴史に一つのヒントとなるようなシーンだなとも思えた。
…実は、表題に入った推しメン三人が全て三列目だったというのもあって、色々複雑な思いがあったのもまた事実ではあるけれど。
ナスカ曲Cメロに今回も心震える
櫻坂表題としては、3曲目になるナスカ曲。
もはや彼女たちの象徴とも思えるくらい、私たちBuddiesにとっても大切な存在となった。
他のクリエイターチームの方ももちろんそうなのだが、やはりナスカさんは歴史を知る方だ。
繰り返しになるが、未来が大切なのは当然として、それは過去が素晴らしかったが故に今があり、未来へ繋がるのだというメッセージだと読んだ。
であるならば、エキセントリックから続く欅坂からの歴史を彩ってきた、しかもそれらがエポックメイキング的なところで散りばめられるという存在のお二人が、一つの区切りを思わせる櫻坂8thにはふさわしい。
櫻坂に改名してから、私自身がCメロに相当注目しているわけだが、それが極まったのは5th桜月。そしてこれもナスカ曲だった。
Start over!におけるCメロは、その後の大サビへの爆発力しか感じさせない秀逸なものだった。
そして今回も。
最近は、一番の歌詞よりも二番の歌詞のヲタになりつつあるのだが、その原点はやはり自分でもCメロヲタから始まっていることを改めて思わせられる。
未来が大切だと言いながら実は
改めて、噛み締めたいこの歌詞。
過去に 戻れやしないと知っている
夢を見るなら 先の未来がいい
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確かにそのとおりなのだけれど、この曲、ほぼ全編過去作か過去の何かを思い出させるようなつくりになっている。
これは私の持論なのだけれど、現在や未来を大切にするためには、忘れてはならないことがあると思っていて。
それは、過去を受け入れること。
今この瞬間、その場所にいるあなたは、突然降って沸いたわけではない。
過去との繋がりの中で、今を生きている。
その過去がなければ、存在しないのだ。
もしも。
その過去を否定するようなことがあれば、あなたは今の自分をも否定することにつながる。
そして、そんな人に、大切にすべき未来がこの後生まれるだろうか。
そう考えるとこの曲は、言葉ではしっかりと「過去には戻れやしないと知っている」と言いながら、もちろん過去に戻りたいという思いはないにせよ、その過去を受け入れているからこそ未来を向けるのだと。先の未来という夢が見られるのだと。
悪い言い方をすれば、最も過去に拘っている、とも言える。
でもそれでいいじゃないか、とも思う。
秋元康をはじめとして、制作側の心にはずっとあの緑の木が生きているのではないかと思うことが多々ある。深層心理の部分では、欅坂をもう一度やってみたいと思っているのではないかと、そんな場面には枚挙にいとまがない。
でも、それは過去に生きること、そして過去に戻りたいと願うことであって、それはできないと知っている。知っているからこそ、こういう表現になる。
敢えて欅坂の楽曲を披露させないのも、特にサイレントマジョリティーをあのLAST LIVE以来一度も披露させてないのも、逆に欅坂に拘っているからに思える。
でも、私はそれでいいと思っている。
確かに過去には戻れない。未来を作るしかない。
作り手が深層心理に閉じ込めた欅坂46という存在を抱えるからこそ、継承すべきイズムが残る。
初めは意識して欅坂を見ようとせずにやってきて、櫻坂としてのステータスが確立された今はそんな欅坂の存在が無意識の領域に落ちていって。
ただ、決して忘れたわけではなくて。
言葉のチョイスが間違っているかもしれないけれど。それも自覚したうえで言わせてもらうと。
櫻坂46は、欅坂46というグループの延長線上、そして正統継承グループである以上、欅坂という過去にも生きる存在なのだ。
彼女たちが欅坂をポジティブに見るか、ネガティブに見るかは別として。
でも、それでいいんだ。
思い出の日々は普通だ
目に浮かぶ日々は幻想
美しく見えるだけさ
(Those days)
大人になったその分だけ
青春を美化し続ける
確かに、そんなもんだ。
でも一つだけ言えることがある。
過去をそうやって想うということは、少なくとも過去にどこか囚われているからだ。
過去を美しくしたいという無意識の願望も、過去を美化しているだけでそんなに大したことはないと斜に構える見方も、結局過去を起点としているからできることであって、本当に過去を捨てて生きている人はそんなことはしない。
いや、本当はそんな人はいるはずがない。過去に影響されずに現在を生き、未来を生きようとする人なんて、いるはずがないのだ。
繰り返すが、過去に囚われることは悪いことではない。自然なことだ。
問題があるとすれば、度が過ぎることくらいで。
願わくば、メンバーにも、そしてクリエイターチーム、スタッフの皆様にも、ずっと欅坂を意識していただきたいというのが私の本音だ。
ポジティブな想いでもいい
ネガティブな想いでもいい
自分たちの歴史を、なかったことにだけはしてほしくない。
欅坂46を超えろ。
それは、忘れろ、という意味ではない。
常に意識して意識して、その高い壁を乗り越えてこそ、意義がある。
逆に言えば、ここまで徹底的に意識してくれていることがわかって、ホッとしたほどだった。
本当のStart overはもしかして
櫻坂46「何歳の頃に戻りたいのか?」監督しました。
— 加藤ヒデジン (@hidejin_0) January 24, 2024
自分は自分でしかないstart overの自由から、自分は何者なのか承認欲求の葛藤、そして最後は、自分は何色にも染まれる同調の支配。締めは救済で。
利己から利他になっていってますね。
よろしくどうぞ。https://t.co/Zc01tEHA4M pic.twitter.com/Otmq2z1ZRI
「Start over」とは、やり直す、という意味だった。その前の桜月から大きな路線変更、いや、我々からすれば「原点回帰」。それを「やり直す」という意味で捉えたBuddiesも多かったのではないだろうか。
しかし、ヒデジン監督の言葉どおり、この曲が三部作的な完結編だとしたら、真のStart overは 9thなのではないかとも思えてくる。
奇しくも、 9thといえば、欅坂が到達できなかった数字。欅坂から含めた櫻坂の歴史の新章は、まさにここから始まると言ってもいい。
加えて二期生にとって、自分たちが初めて表題入りするはずだったのも、また9thだった。 9thという言葉には、一期生とはまた別の感慨を持っているに違いない。
次は、あのときと違う。
自分たちが主になっての、 9thだと。
もし、仮に櫻坂が欅坂路線とは別のカッコ良さ、スタイリッシュさを追求するような方向に行くとしたら、それがタイミングなのではないかとも思う。
過去には生きない。
でも、過去を決して忘れない。
それもこれも飲み込んで、新しい道を、坂を走る。
ここまで欅坂から支えてくれたファンは、宝物だ。
でも、櫻坂を支える新しくBuddiesになってくれた皆様も、同じくらい宝物だし、できる限り多くの人にそうなってもらいたい気持ちはある。
その分岐点、ターニングポイントがまさしくこの8thシングルではないかと…そんなふうにも見えてくるのだ。
そして、本当の意味でのStart over
やり直す
それは、9thからではないか。
もちろん、櫻坂46としての歴史を否定してやり直す、という意味ではない。
欅坂46として見ることができなかった、未知の領域に足を踏み入れる、その意味での本当のやり直しが始まる瞬間が、次なのだ。
だからこその、集大成。
8thシングルは私はそう捉える。
「何歳の頃に戻りたいのか?」
その答えは、既に出ている。
たとえ戻りたいと思っても、戻れない。
いや、戻らなくていい。
今が最高であるように努めるべきだ。
だけど…
過去は決して忘れない。
過去があるから、今があり
そして未来があるのだ。
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