バトルオブさなコン3(ひとり反省会)

はじめに

 Pixivで開催されている第3回日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト(以下さなコン3)で書こうとしたもの、書いたものに関する個人的なメモ書きです。去年やったひとり反省会と同じ性質の自己満足記事なので、興味のない方はスルーしてください。

さなコン3の課題文について

 今年の課題文は次の通りでした。

「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。

第3回日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト

 この文章から考える余地のある要素はざっとこんな感じ。

  • チャンスとはなにか

  • 〈残り〉なのはなぜか(他にもやったのか)

  • 三回なのはなぜか(上と似てる)

  • どこかなのかはぜか(どうして曖昧性があるのか)

  • 楽しげなのはなぜか(上と似てる)

  • 声の正体とはなにか(なぜ声として認識されるのか)

  • どうして〈告げた〉なのか(どうして「言った」みたいな言葉じゃないのか)

 この中から突き詰めることで面白そうな要素を取り上げ、それ以外の部分については拾いきれなくてもスルーというスタンスで書き進めた。すでにこの時点で課題文を完璧に使いこなすことを放棄しているが本当にだいじょうぶだったのか?

さなコン3での創作姿勢について

 どういう作品を書こうかなというところですが、自分はどうも今年の四月上旬に書き上げた作品の影響で去年度の自分と比較して〈素直におもいしろい作品を書こうぜ〉〈明るく終わろうぜ〉という嗜好が強くなりました。
 また、課題文に拘泥して〈オレのテクを見よ〉みたいな小説を書こうとしても虚しい結果に終わることが目に見えていたので、開き直ってパワーで突破することを目指しました。
 そんなわけで、今年の創作姿勢は

  • 明るく終わる作品を書く

  • おもしろいといってもらえることを目指す

  • わかりやすくする(それもライトノベル的なわかりやすさ)

  • テクニックではなくパワーで勝負する

  • それはそれとして数は撃つ(だって今年もファイナリストになりたいんだもん)

 という感じになりました。

ボツになった作品たち(とその書き出し)

 今年は苦闘をするはめになったのでボツになったものたちを紹介します。興味のない方にはとてもつまらないゾーンだと思うので、見出しから次に飛んでください。

トライ・トライ・トライアングル

 夏の百合大三角形を作りたかったので、三回のチャンスに挑戦する三角関係の少女たち、というテーマで書こうとしたものです。書き出しは以下の通り。

「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。「さあ、真実の愛を証明してください」

 あれ? どこかで見たことがあるような気がするぞ。
 というわけでこの作品はボツったあとにLily Genesis Over the Cradleという投稿作品に流用されました。ボツになった理由は単純にどんな三角関係ならおもしろく三回のチャンスを消化できるか思いつかなかったことです。企画倒れ。

Rain Bullet

「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。排出された薬莢は回転して白い筋を描きながら雲海へとおちていく。七色に光るブースター光を棚引かせながら逃げていく三角錐、空中要塞〈雨の弓〉は、加速してこちらを振り切ろうとした。先の尖ったマンボウを追いかけている気分になる。水族館での思い出がよみがえった。ナンバーⅫはまだ無事でいるだろうか。

 残り三回のチャンスで敵要塞を撃墜せよみたいな内容のSF小説になる予定でしたが、バトルするところと主人公ナンバーⅧとナンバーⅫのキャラクター作りに失敗したためにぽしゃりました。

百合の間に挟まる男デスゲーム

「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。「わたしはそう伝えたはずなんですがねえ」青少年たちの前には巨大な正四面体があり、その下からは赤い色が滲み出していた。「これで残りは二回。ンフフフフ」

 百合の間に挟まった疑惑を持たれた男たちが集まり、無実を証明できなければ死ぬというデスゲームコメディ小説になる予定でした。イケメン男子高校生たちの描写がうまくいかなかったのと、そもそもデスゲームの内容がうまく思い浮かばずにおじゃんとなりました。

Perfect Blue Sky (AI生成作品)

 今年のさなコンのなかでもっとも足を引っ張ってくれた問題の作品。
 AI生成作品です。
 
出だしの文章をBingAIに読ませて梗概を出力させるという形でAIが関わっています。本文はハンドメイドなので厳密にはAI生成作品と言い張ってはいけない気がするが……。

「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。お姉ちゃんの形見の眼鏡をかけているときだけ聞こえてくる、彼女によく似たいじわるな声。アオイはそれを聞くたび、お姉ちゃんの代わりに自分が死ねばよかったと思う。硝子の表面には、白くて涼しげな夏服を着たアオイと、軽音楽部で一番顔が良い男といわれているハレが談笑している姿が映っていた。アオイは手にアコースティックギターを持ち、なめらかな手つきで流行の純愛ソングをかき鳴らしている。そこに若い女の先生が割り込んできた。お姉ちゃんだった。「相変わらず純愛をしているようでなによりだ」といって微笑む。アオイもハレも笑っていた。なにも問題のない、完璧な光景だというようにアオイには感じられた。

 4000文字まで書いたところで、この作品はどうも明るく終わらせてくれそうにはない、ということが彼女たち(特に主人公のアオイ)から伝わってきたので、完成させることを一時断念しました。
 そう、一時というところがこの作品の問題だったのだ……。

Perfect Blue Sky (2nd)

「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。
 はじめてお姉ちゃんが死んだのは、アオイがまだ中学生のころだった。それ以来、この声には馴染みがある。なのに、いまだにだれのものかわからない。その声としかいいようのない存在がアオイを誘惑する。

 題名が気に入っていたらしく、この作品に執着してしまった。書き方を変えればいけるのではないか、と思ったので出だしと設定を変えてリスタートさせた。しかし心の中で「いやこの作品はやばいって」と声が告げていた。
 7500文字まで書いたところで、やっぱりこの作品はどうあがいても明るく楽しくなんて終わらないじゃん! ということになってボツった。この作品にはアオイ、レイン、ハレという三人のキャラクターを設定していたのだけど、だれも労力に見合ったリターンを得ておらず、こんなもん読ませてどうすんだ、という感じになった次第です。
 はじめてお姉ちゃんが死んだのは~という文章はいいと思ったんですけどねえ……。

月雪に舞う花のように

「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。ひきがねにかかっていた指が硬直する。どこかで聞いた覚えのある声質だった。数年ぶりだ。ためらいが好機を逸する原因になったのもの、戦場で声を聞いたのも。ミーアは周囲を見渡したが、自分以外の鳥は見当たらなかった。ただ分厚く固まった凍土が広がるのみだ。パワードアームに支えられた全長二メートルを超す巨大な黒い銃身を下げ、彼女は耐寒マスクごしに外気を深く吸った。直接吸えば肺が凍るとされる冷たい空気が彼女に冷静さを与えた。

 次に書く長編に支障が出るからやめようとなった作品です。どんな作品なのかは次に長編を書いたときにあきらかになるでしょう。なにも伝えてないのと一緒だなこれは。

Raven and Mermaid

「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。だからオレは、これを最後のダイブにすることにした。電子の海を泳ぐのは楽しいし、理想の自分を楽しむことができる。でも、それがいつか終わってしまうことをわかっていた。だから逆に、まだ機会の残っているうちに自分からあきらめようって、そんなふうに思ったんだ。

 オンラインゲームプレイヤーが自分のアカウントを消すか売るか迷い、その相談をゲーム内でもっとも親しい相手とおこなうという物語。
 主人公は海の熟練プレイヤーで稀少なマーメイドになることができ、引退するのであれば電子資産としてアカウントを譲渡することで上等な家一軒分の資産を得ることができるほどなのだが、これまで自分の理想として作り上げてきた人魚の自分を見知らぬ人間に譲り渡すことが生理的に受けつけずに……みたいな話だった。
 この話は主人公の性別に関するごちゃごちゃした問いかけが頭のなかで激しくぶつかりあってしまい、そのすったもんだを書いてるだけで3000文字も使ってしまったので、こんなもん他人に見せられんなとなって試合終了した。いま見せてるけど?

恋の天使舞い降りて

「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。
 恋の天使たちはいっせいに雪雲のおおう空を見上げて、それが自分に投げかけられたものはのではないかと不安げな表情になる。そのなかにひとりだけ自分のてのひらを見つめているものがいる。透きとおった青い髪を地面に届くほどに伸ばし、人間が両手を広げたのよりさらにおおきな白い翼を持った御使いが立っている。はらはらと桜のように舞いおちる雪を受け止めて、それでちいさな山を作りあげる。彼女は光輪に降り積もった雪も指先でぬぐいとり、手のなかでぎゅっと固める。そんなふうにして作られたボールが大小ふたつ。それを街灯の脇にそっと置く。雪だるまの目にあたる部分として、ついさっき拾った一円玉の硬貨を二枚突き刺す。これでは目ではなくて耳に見えてしまう。そのことに気が付いてその天使はひとり笑う。となりにもうひとり別の天使が着地してくるまで、その少女は自分の作ったオブジェクトを眺めるばかりだった。

 もうね、開幕から長いんだよ、描写が。テクニックで勝負しようとしてる感がすごい。
 話の内容は〈恋の天使〉である主人公がマッチングをサボっているので警告を受け、仕方なく街に出ていく、というところまで書いてなにがしたいのか自分でもわからなくなったので終わった。もうこういうものを書くのはやめなさい。

さよならさなコン999 あるいはさなコン3の伝説

「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。
 それはさなコン996の最終結果発表日にあらゆる創作存在に降り注いだ言葉だった。

 完成したけどこんなもん出せるかタコ! ってなって終わった作品。
 あらすじ含めて全文で2525文字(Pixiv換算)となっている。
 ちなみにあらすじはこう。

さなコン996の最終結果発表日に、あらゆる創作存在の頭のなかに殿堂入りのチャンスは残り三回ですという声のお告げがあった。現実は声に従い、さなコンは999で終わり、次から大きな小説コンテストに生まれ変わるという。残り三回の間にさなコン3で起きた伝説を再現すべくサイボーグ小説家たちが銀河鉄道に乗り込む。
そのさなコン3で起きた伝説とはなにか。それは一回のさなコンで殿堂入りするという内容だ。なんとひとりでふたつ以上の作品を受賞させてしまったやつがいるらしい。それがだれなのかは教えられないが、その作品の書き出しは次のようなものだったと伝わっている。
「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。

 天の川銀河SF作家クラブ(旧太陽系SF作家クラブ(旧地球SF作家クラブ(旧日本SF作家クラブ)))主催の小さな小説コンテスト通称さなコンとか書いてるところを見るとだいぶ狂ってたんだなと思います。

百合を失った男

 ファイナルボツ作品。
 さなコン3の締め切り前日あたりになんとなく題名だけ思いついたのだけどついぞ書き出すことができずに終わりました。内容的には百合の間に挟まる男デスゲームと同じなんですが、主人公だけ男で他は全員女の子、主人公は自分よりも百合カップルたちを生かそうと奔走するのだけど、システムはそんな主人公を真に生き残るべき人材と認定して百合カップルたちを次々と……という、実に哀しいお話。頭のなかにディテールが見えてこなかったのでリタイア。

投稿した作品たち

 前回の記事で4作品中3作品は紹介しましたが、改めてここでどんなものを書いたのかと、反応について振り返ります。前に書いてあることと違うこと書くかもしれません。(記憶の改竄と考え方の変化)

Lily Genesis Over the Cradle

 11ブックマーク中6いいね!なのであまり読者のかたの反応が芳しくないです。しょんぼり。
 真実の愛を証明せよなどとぬかしおるシステムと、それに立ち向かう人間の少女ユノ、そしてその育ての親である機械天使。どうしてそんな状況になってるんだっけ、という背景を描くために登場するテロリスト。話をわかりやすくするために地上を滅ぼす兵器は機動戦士ガンダムSEEDからネタを引っ張ってきています。無謀というか安直というか。
 以前の記事ではテーマがどうのこうのと書きましたが、創作の動機として一番強かったのはやはりラストシーンが書きたかったというところだと思います。やっぱり花を咲かせるのが大好きなので。
 まあ、でも、うん……やっぱりブックマークに対していいね!が少ないのは最後まで読むのが大変な作品なんじゃないかなあ……というところですね。どこで振り落とされたのか、そもそも読む気になれないような書き出しだったのかとか、そういう情報が知れたらいいのになと思いました。
(ブックオフとかで小説を買うと変なところにしおりが挟まってて「あ、ここで読むのやめたのかな?」とか邪推できる。そういう種類の情報が欲しいなって感じです)

戦略級魔法少女は輝く未来の夢を見ない

 11ブックマーク中10いいね!と圧倒的に好評。マジかよ……。
 本作品の初稿は課題文に続けて主人公が「嘘だッッ」と叫ぶところから始まり、そのあと八歳と九歳と十歳のときと十二歳と十三歳のときもクリスマスプレゼントを待っていたというオーガニック的なものでした。
 それじゃあ話がどうにもならんなと思ったので、理論上最強になれるはずなのにうまくいかない主人公、それを支えるマジカルなアイテム、そしてかっこいい先輩たちに登場してもらい、話を無理やり先に進めました。やはり推力。推力こそすべてを解決する。
 この作品を書いてるときめちゃくちゃ楽しかったのは「魔法少女なんて他に書くひといねえだろうなあ」というのと「魔法少女の皮を被ってるけど書いてることは地球防衛軍なんだよねえ」という、自分にしかわからない創作の楽しみがあったればこそという感じです。
 個人的にはしっかりエンターテイメントしたつもりなので、少なくとも現時点における読者の方々に楽しんでいただけたようでなによりです。結果がついてくれば文句のつけようがないのですが。

サイボーグユリユリナインVS冥球帝国

 シリーズ×未完結でお送りするとんちき野球ファンタジー小説です。題名見ただけでUターンする方が多いらしくて一話で7ブックマークですが最終的には3ブックマークまで減ります。そりゃ、シリーズものでパロディの題名でしかも未完結と三拍子そろってりゃ読まないですよね。当然の結果です。
 枠組みありきの作品で、いきあたりばったりな連載小説みたいな感じでラストは打ち切りになってますが、最初からそうなるべくして作られているというのがなんとも言えない。
 あと、この作品と同じように未完結だけどレギュレーションを守っている仲間がさなコン3のなかで見つかっていません。なんで? 読み切りで本文に未完って書いてあるのかな……そうだとすると仲間を探すのがきつい。
 まあ書くのが楽しかったからいいか、と思ってる作品でもあります。あらすじがお嬢さま口調になっていたり、どう見てもDDDだろってルビが振ってあったり、サイボーグ戦士を書いたり。あとキャラクターとしてはクロノス=三日月って子が自分のなかでも指折りの可愛さ(他の人がどう感じようともね)だったんでヨシッて感じです。
 だから、さよなら。これでよかったのよ。

The MotherWill Comes Again

 ゆりぶんで落選したSpirit of Motherwillの続編というか後日談というかスピンオフというか短編連作のひとつというか、です。見ての通りといって伝わるひとは限られると思いますが、アーマードコア楽曲インスパイア小説の系譜になっています。詳しくはACfAとかACVDで調べてみてください。なお同じことをウマ娘の二次創作でも相当やってます。わたしはアーマードコアの信者なので。
 本作品の最大の特徴は「締切日当日の午後から書き始めてその日のうちに投稿した」ところですかね。それ以外は普通のSF小説感出てると思いたいです。ちょっと尺が厳しかったかもしれねえ。
 セクサロイドの主人公が自分の相手をしてくれる人間を求めて流浪する物語なのですが、自分が偽物なのだという想いを払拭して本物になっていくという明るいラストにできたのはやっぱり長編を書いたことによる心境の変化が大きいのかなと思います。
 あと、作業時間がそんなにかからなかったのは前作を書いた時点で「続編のタイトルは〈The MotherWill Comes Again〉で決まりだな、百合文芸の結果が出たらどうにかしよ」って決めてたおかげって感じもします。
 こうしたアーマードコアリスペクト系小説は今後も書きつづけたいと思っているので、機会を見つけたらすかさずねじ込んでいこうと思います。

 それはそれとして、コンテストに投稿するならコンテストにマッチした小説書いた方がいいと思うよ? 百合と書いてあるなら人間の女の子同士の関係を描かないと読者の求める百合にはなりづらいでしょ? ボクゥからの苦言です。

現時点での総括

 今月は結局、ずっとさなコン3って感じでしたね。いやまったく、去年の反省をなにも活かせていない気がします。
 だが出力した作品はどれも去年と比べて出来がいいと思う。結果はどうあれ、自分のなかでそういう評価が持てるということが自分の進歩の証だと思うからたいせつにしていきたい。
 いや、もちろん、結果もたいせつです。前回の記事には記念参加とか書いてあったけど、騙して悪いが今年の私は去年よりもパワーアップしている。さなをコンするだけの男で終わってたまるかよ!

 本稿は以上です。長かったね。
 ここまでお読みいただきましてありがとうございました。

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