ひとつ星

『捏造術士-スフィンクスの問い』

☆☆★★★ 新しい才能と呼べるかどうか…

第一回クーガー文庫大賞で見事に大賞を受賞した本作。捏造術という『この世に存在しないもの』を生み出す魔法使いと、それによって振り回される少年少女の姿が描かれている。特にヒロインの元カレが……。再読してなお、かなり衝撃的な内容だった。と書くと、多分多くのひとは展開を想像してしまうだろう。だが、いくら予想してもこのショックは不可避だ。本作はWEBで発表された内容に大幅な加筆訂正が加わり、かなり読み応えのある小説となっている。その一方、結末部分の変更に関しては人によって賛否あるところだと思う。元々は完結した作品だったものが、商業媒体なので仕方ないと思うが、続編をにおわせる形で変更されている。クーガー文庫の新人賞受賞作はすべて内容に変更が入っていることがひとつの売りとなっているが、これがもし作者の本当に書きたいものだったとするならば、元々書いていた作品を含めて、浅い計算で書かれているところがあったのだなと少し残念に思えてしまう。そうした邪推はともかく、レーベル含めてまだまだこれからの作品であることは確かだ。続編でより多くの星を与えられるように成長することを望む。

☆☆☆☆☆ 続編ありがとうありがとう続編

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 素人はいつも上から目線で物を言う。小説みたいな紙だの画面上だのに文字が羅列されているような芸術作品は、だいたいそうやって上から物を言われるようにできている。まあ、そういうのは当たり前のことだと思う。漫画の小学生でもあるまいし、そうしたものを自分と同じ目線に置いて読むか? 読まんだろう。だいたい机の上に置くとかする。だから上から目線になる。寝ながら読めばいい。そうすれば見上げる形になる。ただし目は痛くなるし、疲労が蓄積してそのうち視力が悪くなっていくことになる。ソースはわたしだ。それがやめられず、ずるずると生きた結果、眼鏡の厚さはどんどんと増していく。この調子で薄い本も厚くなればよいのに、と思いつつ。今日も無料開放された顔のいい男どもの漫画を読む。これでは飲んだくれのSF小説家みたいだな。まったく。
「読んだかい、来夏」
「うへえ」
 どん、と背中を叩かれてわたしはむせる。そんな狼藉を眼鏡女子たるわたしにやってくるようなやつはひとりだけだ。タカナシコトリは恐ろしく丁寧に編まれた三つ編みを指先でぐるぐるといじくりながらわたしに笑いかけている。御年二十三歳の大学六年生。これだけでどんな人格の持ち主かある程度伝わるはずだ。
「なにをです。今度はどんないやがらせをやったんですか?」
 そんな返事をするわたしは、元大学四年生。なのにいまでも大学の部室に居座っている。許されているわけではない。こっそり、いる。職員に見つからないようにしている、というわけではない。わたしの数少ない特技のひとつが発揮されている。六等星のように存在感がないという特殊能力だ。おかげで青信号を渡っていても車に轢かれそうになったことが両手の指の数プラスアルファ、ある。
「いやがらせとはなんだい。世の中のために一読者の率直な意見を書き込んでやっただけだよ」
「見りゃわかるんですけどね。あなたのくせのある文体はどうやったって目立ちますし」
「なにを言ってるんだい。ボクときみの仲だからこそ通じるというものだろう」
「あんまり自分に自信を持ちすぎるのもどうかと思いますよ。過信は事故の種ですから気をつけてくださいね」
「言ってくれるね。ま、きみの方こそ気をつけたまえ。物事はうまく回り始めた次の瞬間が一番危険だ。事故はほら起きるよ」
「突然に、ですか?」
 こういう話をしていると、本当にちょっとあととかにドカっと事故が起こりそうでそわそわする。わたしはスマホの画面に指をすべらせながら、頭のなかに流れるメロディに沿って文章を打ち込んだ。

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『サイコスクライバー 姫海棠ミケ作品集』

☆☆☆☆★ やっぱり百合こそが至高それ以外はぜんぶ〇ネバイイ

やっぱり百合の間に挟まる男は秒速5センチメートルで動く剣山で串刺しにされて全員〇ぬべき慈悲はないほらおまえもいまから五秒以内に〇ぬんだよ

☆☆☆★★ 作者の新しい一面を発見…

クーガー文庫廃刊後はなかなか新刊が出なくてやきもきしていたが、このたびマッキークリエイティブさんから待望の短編集が発売された。とは言え手放しに褒められるような出来のものではなく、ほとんどが手慰みに書いたような書き散らしの作品群だ。しかしそのなかにひとつ、これはという佳作もある。大学六年生という不良学生と、不法侵入者という珍妙な取り合わせの女性たちが出てくる百合小説。これは日常系的になにも起こらない作品なのだが、このだらけた感じが妙にはまる。読んでいてとても心地のいい作品だ。非常に強い私小説感が漂っている点が気になるが、もしかすると作者の実体験から書かれているのだろうか? もし現役でこのような生活を送っているのだとしたら、悪いことはいわない。すぐに更生しなさい。₍₍(ง🎃)ว⁾⁾

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「で、相変わらずのようだね」
 わたしの家の鍵を手に入れてからというもの、隔日くらいのペースでタカナシコトリが家に来るようになった。その生活は、わたしが所得税を取られないほどに収入面で追い詰められてからも、ずっと続いている。まあ、今年はどうにかこうにか壁越えを果たせそうではあるんだけど。もしかするとあまりうれしくない壁越えになるやもしれなかった。
「あいかわらずってなんですか。眼鏡の厚さですか」
「調子の方さ。筆のね」
「いまどき筆なんてものを使って文章を書いてる人間なんているわきゃないですよ。いたとしたらそいつはとんでもない変態です。いえ、ただのパフォーマーでしょうね。合理的に考えて修正の難しい手段で文筆業を営んでるやつなんているわきゃないんです。電子化するときに迷惑ですし」
「ろくなことがないんだ。きみの口数が多いときなんてのはね」
「そう……ですか? そう……かもしれませんけどね」
 わたしは眼鏡を外し、そして拭く。もちろんレンズをだ。戻す。たいして世界がよく見えるようになるわけではない。でもコトリがいじくる三つ編みの、髪が交差する点の数を数えるのであれば必要だ。そうでなければ世界はぼやけた色の滲みへと変質してしまう。だからわたしにはどうしてもこの眼鏡が必要だった。
 そしてそれは、彼女の書くどうしようもない低評価レビューに対しても同じだった。
「そっちはどうなんです? 最近の差し入れはちょっと豪華に見えますけれども」
「ぼちぼちと言ったところさ。止まらないインフレとどうにか並走できる程度にはやっている」
 元大学六年生は、いまでは他人を養うことができるほどしっかりとした生活を送っている。わたしは有料のビニール袋から金色に包装されたピザを取り出して電子レンジに放り込んだ。ボタンを押す。回る。回る。回る。買ってもらったカフェオレのボトルを開け、口をつける。
「ごらん。今日は月が綺麗だよ」
 液体を含む前で本当によかった。
「やめてください。そういうの、よくないですよ」
「そうか? そうかな。そうかもしれない。ボクはいつも遠回りをしている気がするからね」
 呼吸を整えて、改めて苦く甘い液体を飲み込んだ。それから、学生の時分に買った型落ちのノートパソコンを起動する。
 ……頑張らないと。
 いつまでもこうしてはいられないから。
 このひとの、コトリの前では。
「……いつか、もっと素直に受け止められるようになりますよ」
 その言葉をどこまで聞いていたのかはわからないけれど、ぼんやりと窓の外を眺めているコトリがこくりとうなずいた気がした。

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『ヒューベリオンの帰還』

☆★★★★ 帰ってくればいいってわけじゃない

マッキークリエイティブで大爆発した作者だが、作品の質は落ちる一方だ。続刊が途切れることのないいまだからこそ言いたい。初心に帰ってしっかりと地に足のついた小説を書きなさい。本作品は言わずもがな、有名なSF小説をもじった題名がついているわけだが、内容はこれまた別の有名SF小説を改変して女性同士の仲にスポットを当てたようないいかげん架空戦記みたいなもんである。ところどころに作者らしいキャラクター作りというか、ここでも例の元大学六年生みたいなキャラクターが登場してくる。よっぽど好きらしい。そろそろ卒業した方がいいぞ。そして肝心の戦記の部分はぐだぐだもいいところだ。いくらなんでも相手の船体に直接突撃して白兵戦を仕掛けるとかむちゃくちゃもいいところだろう。反省しなさい。₍₍ᕦ(🎃)ᕤ⁾⁾ ₍₍ʅ(🎃)ว⁾⁾

☆☆☆☆★ デスラー流超光速ワープ戦法でお前も蝋人形にしてやろうか

おまえはなにもわかっていないこれからお前をいまからいっしょに殴りに行こうかヤーヤーヤー

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『転生したら百合でした』

☆★★★★ 売れて調子に乗っている?
☆☆☆☆☆ おまえこそ調子に乗るなよ

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『残念だったな、百合からは逃げられない!? 完全版』

☆★★★★ 逃げたいしんどい
☆☆☆☆☆ しんどいのはこっちだよ

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『鷹は舞い散った』

☆★★★★ もうボクの知っている作者はいないようだ

最近、本作の作者にはゴーストライター説が出ている。確かにこれまでの作品と読み比べると語彙に違いがあり、語り口にもだいぶ開きがあるように思える。これを作者の成長ないしは変化と捉えるか、新しい書き手が模倣に失敗していると捉えるかについては、市井で議論をする余地があるように思える。しかしそうしたゴシップの類を抜きにしても、本作品からは過去の作品から読み取れた愛情の渇望、のようなテーマ性が抜け落ちてしまっているように思える。本作は実に凡庸な空戦小説である。女性だけが登場する、というような内容ももはやありきたりを通り越して古臭い。ただ性別としての女がたくさん登場すればそれは百合、のような適当さすら感じる。だからあえて言おう。ただちに反省するべき。₍₍ ʅ(🎃) ʃ ⁾⁾

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 わたしは手のなかにコトリが切り落とした髪の毛の房を握りしめる。これを長持ちさせるにはどんなコーティングをすればいいのかな。どこに相談すればいいのか皆目見当もつかない。レディースなんとかネイチャーとかだろうか。髪の毛、保存、で検索すると、高価買取と表示されるので世も末だ。
「というかさ、こんなものを送ってきてわたしにどうしろって言うの。もうやめたって言ったじゃない」
 作家でn円は稼げません、というような表現がある。ありゃまあ嘘だけど、わたしにとっては真実だった。だからやめたんだ。そのはずだったのに。
「でもボクは、どんな手を使ってでもきみをこちらに戻すといっただろう?」
 トレードマークを切り落としておかっぱになってしまったコトリが、まるで失った翼を惜しむかのように毛先をいじくっていた。彼女の部屋のなかはがらんとしている。夜だから当たり前だけど、それにしても暗い。彼女の生活を維持するための最低限のものしか、ここには置かれていない。保護されるためにはそうするしかないのだと言っていた。
「それがこの、呪いみたいな髪の毛と、手書きの☆1レビューですか? だいたい、わたしがいくらセンスがないって言っても、こんなどっかの作品をもじった作品をさらにもじったような題名で小説を書くわけがないでしょう。性別が女子同士のいちゃいちゃなら中身がどうあれ全部百合、という乱暴さがあるものを書いていることについては申し開きする気はありませんが……風評を手裏剣にして人を殺せると思わないでください」
 コトリは笑顔をつくろうとした。しかしその出来の悪い造花は、もうすでに散りつつある彼岸花のように力がなかった。
「窓の向こうに木が見えるだろう。あの木の葉っぱが全部散ると共に、ボクも」
「どこかで聞いた話で他人を引きずり込もうとするのはいい加減にやめてください。わかりました。わかりましたよ。また書けばいいんでしょう? やります。やりますよ。ただし今度の今度こそ最後です」
 窓辺に立つ。コトリがのそりと近寄って来る。その肩を抱く。月を見あげる。別に美しいとは思わない。星が少ない。ひとつ。ひとつ。ひとつ。それはまるで、わたしの書いた作品が受ける評価のようだった。
 しかしそれでも。
 わたしはやっぱり。
「持ち込んでみます。元クーガーのひとが、なにかコンテストをするようなので」
「きみならやれるさ。ボクが保証する」
「そうですか。なら、またレビューを書いてください。今度こそは本物の」
「ふっ。悪いものなら☆1にしてくれる」
「上等だよ、コトリ」
 彼女の顔を仄かな光が照らしている。
 だからわたしにはわかっている。
 たったひとつの星であっても照らしてくれるものがあるならば、それはそこにある意味がある、ということを。


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