
Twitter140字+α①「大丈夫」
4月。出会いと別れの季節。遅咲きの桜に見守られてこの校門をくぐったのはもう何年前のことだろうか。不機嫌そうな顔をしていたはずの私に近づいてきてにこやかに声をかけてきた君の姿を思い出す。もうここにはいないと分かっているのに。
そいつは変なやつだった。表情が読めなくて、何を考えているか分からない。時折見せた哀しそうな表情は助けを求めているのか、はたまたただの悪戯なのか分からなかった。ただ、そんなそいつのことが少しわかった時があった。それは、死生観が突飛であるということだ。怪我をした時に大丈夫かと聞くと「生きているから大丈夫。」そう笑いながら言った。階段から落ちて体を数カ所骨折したときも、交通事故に巻き込まれて数日間意識を失って目を覚ましたときも、例外なく笑顔で言った。そんな調子だから入退院を繰り返し、学校にはほぼ来ていなかった。初日から飽きもせず絡んでこなかったらただの不登校のクラスメイト程度にしか思わなかったのに、私にとっての数少ない本音を話せる友人になっていたことに気がついたのは、そいつが病院の屋上から飛び降りたと知る1ヶ月前の事だった。
秋晴れが続いていた日々の中にあった冷たい雨の日。起きた時から何か嫌な予感がしていた。しかし、それは私が幼い時から患っている喘息の発作の予感だろうと無視していた。心配だから薬を持ち、普段通り学校へ向かった。教室に入るとやけに騒がしい。スマホは持っていたけれどクラスLINEに招待されることもなかった私は昨夜、重大なニュースが流れていたことを知らなかった。
『飛び降りたんだって、遺書もあるみたい。前から変だとは思っていたけどまさか...ね。』
信じられなかった。確かに変なやつではあった。でも、私を置いていくなんて知らない。いつも通り笑って同じことを言うんだ。大して早くもないし息がすぐに上がってしまうのに私は病院へ走った。
いつもの病室にそいつはいなかった。ふと名前を呼ばれ振り返るとそいつのお母さん。目元は赤く、腫れている。その事実だけで嫌なことが頭をよぎって仕方がない。嘘だと言ってほしいのに。
「あの子の...お友達よね?わざわざ来てくれてありがとう。」
そんなことを聞きたい訳じゃない。無事なんだと、どこの病室にいるのか知りたいのに、声が出ない。
「あの子に会ってほしいのだけれど...大丈夫?」
会えるならいいと思った。結果は想像していたけれど静かに首を振った。いつも通り笑って同じことを言われる。確証もないのに、分かっているのに今回も同じだとどこか期待していた。着いた先は病室では無かった。安置室だった。
突然体が言うことを聞かなくなった。気がついたら手を握っていて何度も声をかけた。でも、その手は冷たい。その事実に私は絶望して泣いた。もう帰ってこないそいつの横で聞きたい言葉も聞けず、ただ泣いた。
そして月日が経ち桜が咲く季節になった。何度も桜を見たけれど、とうに色褪せている。嫌なほど絡んでくれる君はもう居ないのだから。大丈夫と笑った君の顔の下の涙に気づけなかった私を叱ってくれ。もしいつかまた会えた時でもいい、思いっきり殴ってほしい。でも君は言うんだろうな。
「死んじゃったけど、そんなことはしない。だって、笑っているから大丈夫。」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
友達は変なやつだった。怪我をした時に大丈夫か聞くと「生きているから大丈夫。」そう笑顔で言うようなやつだった。階段から落ちて体を数カ所骨折しても、交通事故に巻き込まれて数日間意識を失っても目覚めた時にはいつも通りに笑顔で言う。だから今回も同じだよね。冷たい手を握りながら私は泣いた。
[2021.12.14]
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈