邂逅
周囲に流されること、それはいつもの事だった。進路も趣味も何もかも。私、藍川蓮は両親や兄弟に影響されて進路を決め、友人が入ると言ったサークルに入りはや二年が経つ。今年に入ると実家から離れたところに住むよう言われ、友人はサークルを辞めた。案外、人生こんなものだろう、と諦観しながら日々を過ごしている。
今日もいつもと同じようにサークルの飲み会に出席して安いアパートに帰ってきた。そう、いつも通りに。
「う、う……ん。」
ドアを開けようとした途端、不意に聞こえた唸り声。辺りを見渡しても声の主は見当たらない。まさか、と思って足元を見てみると腰まであるやたら長い、星のような灰色のウルフカットの少女が寝込んでいる。
きっと私は人生を左右しそうな選択を迫られている、そう理解して声をかけるのか悩んだ数分。誰かの教えだったかは分からないけれど、きっとあの人ならそうする、そんな思考が数分の後に流れてきた。
「大丈夫、ですか?」
困っている人は極力助ける。微笑み絶やさず、無害な振りをして、その先の見返りはいらないとアピールするように。頭で理解していても行動には中々移せないこと、だけど誰かはきっとやっていた。それに救われたこともあった。だから、声をかけた。
「大丈夫……です。帰る所はありませんが。」
少女が何を求めているのか即座に分かってしまった自分に嫌気がさすも、声をかけた以上は責任を取らねば。
「そうですか。じゃあ、うちに泊まりませんか?少しの間なら大丈夫ですよ。」
動揺がバレないように極力平穏を保った。相手の要求をのんだ、と伝えるように。
そこから長い沈黙が流れた。少女は動揺した顔のまま固まっている。貴女の要求をのんだ筈なのに、なんで貴女が動揺しているの、と聞きたくなったが心に秘めた。
長い長い沈黙を破ったのは、少女の意外な質問と問いかけの答えだった。
「ありがとう、ございます。数ヶ月、泊めて、くれますか?」
「数ヶ月……バイトしてくれるなら。」
「それなら、大丈夫。バイト先は、見つけてある……ありますから。」
「そう、ならいいですよ。」
「ありがとう……一つ、聞いてもいい?」
「何ですか?」
「私のこと、知らないよね?」