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たゆたゆと

 小さな単線に乗り換えて、山を越え、山を越え、山を越え・・・
ひょいと海辺の町に出た。

 いったい、幾つの山を越えただろうか。連続したトンネルを途中まで指折り数えていたのだが、とうとうわからなくなってしまった。

 駅のすぐ傍で仕事を終え、町を少し歩いてみたが、言うほど歩かないうちにもう海。湾の先の波はすでに冬かと思うほどに、荒々しいが、この入り江は午後の凪のようにたゆたゆとしてとても静かだ。

 こわごわ、堤防の下を覗いてみると、きらりと光る魚の大群が見えた。踵をかえすごとにきらりと光る。10cmほどの大きさもあれば、もっと小さなチリメンジャコのような赤ちゃんの大群もいた。

「何と言うんでしょうね」
 手押し車を押してこっちへ歩いてきたおばあさんに海を指して聞いてみたら『このしろ』だと言う。
「このしろ?」

「都会の人は、焼いたら人を焼く臭いがするゆうて、嫌がってとられてなぁ〜ぁ」
「あらっ!」
「これをなぁ〜ぁ、おろして骨を取るじゃろぉ、かる〜く焼いて酢醤油で食べたらうみゃぁ〜に、寿司にもなるでぇ〜ぇ」
「そうなんだ・・・」

「どっからきなったあ〜?」
「大阪です」

 旅に出ると、こうした会話が楽しい。
 ひとしきり魚料理談議をして、干物のおいしい店を教えてもらった。

 帰りの電車の中、頭上の網棚にはゲットした一夜干しの包みがあったことは言うまでもない。

***

2007年11月17日記


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