宇宙
町営駐車場に車を止めて土産物屋の通りを抜け、向かった先は、秋吉台秋芳洞。熊本の搬入作業と長距離移動で身体はガタガタ、階段を登るのもおぼつかない。
九州の帰りには、山口を過ぎたあたりからいつもみる『秋吉台』との表示がずっと気になっていた。今回は、時間的にも少し余裕があるので、無理を言って立ち寄ってもらったのだ。
「そんなんで、よお歩くかぁ?」
「え?そんなにきついん?」
「1時間ほどは歩くからなぁ」
仕事の相棒は、以前に来たことがあるという。
「ここまで来たから頑張るわ」
意気込んで言ってはいるものの、口ほどになく心と身体がバラバラで、ついていってはいなかった。
入り口付近から樹齢何年?と思われる大きな木々と勢いのよい水の音が心を清める。
秋芳洞への導入口から中に入った途端、私は絶句した・・・
・・・洞窟が宇宙になった・・・
何億年という積み重ねが結果をもたらす、時間のなせる技。ぽたりと肩に落ちた水滴でさえ、至福の珠のように思える。何百年、いえ、何千年前の一滴だろうか・・・慌てて手にとり頬に撫でつけてみる。
入り口から近いところ「百枚皿』と中ほどの「千町田」とネーミングされたそれは、規模こそ小さいが一度は行ってみたい『中国、黄龍の彩地群』を想わせる。
中ほどまで進んで、身体が軽くなっていることに気がついた。階段も平気に歩けているし胸いっぱいに空気を吸い込んでいたら、信じられないほどに疲れが取れていた。マイナスイオン効果かな?これは。身も心もリフレッシュされていたのだ。
もう一つ、不思議な感覚が私を襲う。
『ああ、ここに来ていたんだ・・・』
実は、もう何ヶ月前から私は怖い夢をみていた。
水音のする岩場を延々と歩く。時には大きく窪み、まわり道しながら延々と続く岩場をひとりで歩いていく。どこからか、滑るので四つん這いになって進む。お腹も空くし、誰もいない。
毎日夢に見ていた光景と肌感覚。それはまさしくこの千畳敷であった。私はなんとなく納得したのである。もしかして、前世にはこの岩場に棲む虫だったのかも、私は虫・・・デジャブ現象か・・・あの夢が続いたのはとても長くて、いっときは、眠るのが怖く、一睡もできずにいた日もあった。今、あの夢の謎が解けたように妙に納得しスッキリとした。
現に、家に帰ったその日から、あれほどみていた夢をまったくみることがなくなり、眠るのも怖くなくなった。マイナスイオン効果は、私の心の奥、気の奥まで浸透していたのだった。
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2007年12月14日記
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