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記憶の糸

 道すがら、滝のごとく実をつけている柿の木を目にした。

 実のなる木は大好きで、ことあるごとに写真に収めているが、特に柿の木を見ると、遠く幼い頃の記憶を呼び覚ましてくれるのが不思議。田舎の家の前に、大きな柿の木があったのできっとそれが刷り込まれているのだろう。

 京都と兵庫の境目にある私の田舎は、あとを継ぐものも居なくなり、気に入っていた小さな田の字型の藁葺屋も『火事でもおこれば大変だから』と言うご近所の要望で壊してしまい、今はもうない。
 残った土地も隣家の畑として使っていただいている始末。

 たまに墓参りに帰り、懐かしさで辺りを歩いてみるのだけれど、子どもの頃の面影は綺麗さっぱりなくなっているので、解っているクセに、いつもとても悲しい気持ちが残るという繰り返し。
 それでも法事などで近くに住む従姉妹たちと顔を合わせれば、また気分は違う。従姉妹たちのお母さんは、私の大好きな大好きなとても働き者の伯母だった。

 私が料理(特に保存食)を好んでつくるのは、その伯母の影響。春夏秋冬、山や畑で採ってきた食材を料理してくれた。いつ行っても決して過剰なもてなしはせず、都会育ちの私たちに田舎の生活そのものを体験させてやろうと思っていたのであろう。

 特別なことはせず、平常心で招き入れるお接待。心が触れ合えば懐かしい気持ちでいっぱいになる・・・これはまさに心の原風景。

 滝のごとく実をつけている柿の木を見て、今は亡き伯母のことをふつふつと思い出した。


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(2007年11月14日記)


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