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「シャイニング・ワイルドフラワー~千だって~」第三話 今を変える魔法の言葉
今を変える魔法の言葉
わたし、なかなか妊娠できなかったの。
そもそも秀くんがお泊りする日がほとんどない上に、秀くんがお泊りした夜も、わたし達はおしゃべりばかりしていた。
秀くんに腕枕してもらい、いろんな話をしたり・・・・・・と言ってもわたしが一歩的におしゃべりし、それを秀くんが「うん、うん」と言いながら聞いてる感じ。
だから子どもができるような行為が少なかった。
秀くんは、いつもどこか疲れていた。細い肩に重い荷物を担がされていたように、いつも疲れた様子に見えた。端正な顔だちに、とてもきれいで澄んだ瞳。秀くんの黒い瞳は、光の加減で少し青みがかって見えた。その瞳でじっと見つめられると、わたしはドキドキした。
秀くんのパパはカリスマ性があったみたいだけど、秀くんはそんなパワフルな感じではなく、どことなく威厳や気品が感じられた。
だけど、それはどこか人間離れしていたの。
背は高く美丈夫なのに、どこかちがう星から無理やりここに連れてこられた人みたいだった。
宇宙人?!もし宇宙人だったら、どうして秀くんはここに来ちゃったの?
淀ママを選んで産まれてきたの?
秀くんのこと、お茶を手にぼっ~と考え込んでいた。
「千姫様!姫様!! もしもーし!!」
また乳母の刑部卿局が、耳元に手を寄せ囁いた。
彼女はわたしに子ができないのは、自分の力が足りないからだ、と思い色々アドバイスしてくる。
「姫様、もっとsexyになりましょうよ!
女の色気、というか何と言うか、秀頼様にもっと自分の魅力をアピールしましょうよ。
女が可愛いのはいいですが、それだけではねぇ~」
「sexy・・・・・・ねぇ」
わたしは首を傾げた。まったくイメージできないわ。
「例えばですよ、もっとsexyな薄手のおねまきを身に着けるとか・・・・・・」
「でもね~あまり薄くしたらお腹冷えちゃう・・・・・」
「あ、ほらほらまた、そんなことおっしゃって~~!
このままいくと側室に先を越され、お子を作られてしまいますよ!
それではダメではないですか!!」
「あら、なぜダメなの?
秀くんのお子なら、わたしのお子でもあるじゃない?
寧々ママだってそうだったじゃない?
秀くん、パパが亡くなった後はしばらく淀ママと寧々ママの三人で暮らしてた、て言ってたわよ」
「そ、それはですねぇ・・・・・・いろんな大人の事情があったのですよ!
とにかく姫様と秀頼様との間にお子ができると、豊臣と徳川がもっと仲良くなれるのです。
家康様も姫様にお子ができると、きっと変わります!」
言い切ったわね、刑部卿局。わたしはじっと刑部卿局を見た。彼女は豊臣のために子を望んでいるわけではないのね。だけど、わたしはそう思えない。
おじいちゃま、わたしと秀くんの子どもができたら、なんとなく困ってしまう気がするの。
嫁いでぼっ~としてるけど、いろんなことが見えてきた。
今、豊臣は必死に徳川から自分のテリトリーを守っている。
だけど将来的に、豊臣と徳川は戦うことになるかもしれない。
そうなった時、わたし達に子どもがいたら、お互いつらくない?
そのことを何か感じてるから、わたし秀くんがお泊りに来てもsexyな雰囲気にならないよう、たくさんおしゃべりをして、子作り作業をしないのかもね。
そしてわたしが妊娠しないことを、淀ママも望んでいる気がするの。
だって側室さんのところばかり、秀くんを行かせてるんだもの。
それはちょっと悲しい。
だけど、寧々ママに
「豊臣には跡継ぎが必要です。お子ができたら、あなたのお子でもありますよ」
と言われたから、それもありかな~と思うの。
秀くんのために、お子はいたほうがいいわよね。
わたしか側室さんに、お子ができますように!わたしは目をつむり、手を合わせて祈った。それが子供っぽいしぐさに映ったのか
「そうやって、のほほんとしておられるところが姫様のいいところでもありますけどね~」
と刑部卿局はため息をついた。
「だって、仕方ないじゃない?
あ、わたしね、自分で考えても仕方ない時、心の中で魔法の言葉を唱えるの。」
「魔法の言葉?何ですか、それは?」
「うふふ、教えてほしい?」
「そりゃ、そこまで言われたら聞きたいですよ。わたしにもそれは効きますでしょうか?」
「そうね、刑部卿局にもいけるんじゃない?」
「まぁ、でしたら早く教えて下さいな!!」
「えっとね・・・・・・まっ、いいか~」
「もう、早く教えてくださいませ!」
「だから、言ったじゃない」
「はぁ?!」
「だーかーらー、まっ、いいか~」
「と申しますと?」
「んもう!!まっ、いいか~、なの!!」
「まっ、いいか~、が魔法の言葉なんですか?」
「そうよ」
わたしはつん、とすまして、顔を斜め四十五度に上げた。
「自分でどれだけ考えても、しかたないことって、あるじゃない?
そんな時に、これを心の中でつぶやくか、口に出すの。
そうしたらね、気持ちがすうっ、とするの。
ずん!と重かった「今」が変わるの。
側室さんのこととか、お子のこととか、自分ではどうにもできないじゃない?
どうにもならないことって、いっぱいあるのよ。
そんな時に、この言葉を使うの。これは今を変える魔法の言葉なのよ」
わたしは両手を腰に当て、どや顔で言った。
「そうですね。
姫様はそうやって、嫁いで来られてからずっとこの魔法の言葉に支えられてきたのですね。
まっ、いいか~ですね。わたしも使ってみましょうか」
そう言いながら、刑部卿局は涙をこらえ袂で目じりを抑えていた。
わたしのこと、不憫に思ったのかしら?
だけどいつも厳しい彼女に褒められた気がして、うれしくなった。
わたしも成長してる?少しは?!
そうやってキャーキャーしていたら、侍女が呼びに来た。
「淀様が姫様にお茶でもご一緒にいかがですか?とのことです。秀頼様もご一緒です」
わお、淀ママからのオファー!
うれしいなぁ!!魔法の言葉、やるじゃん!
「参ります!千、まいりま~す!!」
わたしは急にウキウキし、新しい着物に着替えていくことにした。
「刑部卿局、ちょっと大人っぽいsexyなお召しにして」
「かしこまりましたで、ございます。」
刑部卿局もうれしそうにニコニコして、お召しを見繕いに行った。
ねっ、この魔法の言葉、きくでしょう?
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愛し愛され輝いて生きるガイドブック
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煮詰まった心を開放してくれる、魔法の言葉。
そんな言葉が見つかったら、ぜひ使ってみてくださいね。
あなたの「今」を変える魔法の言葉・・・
何でしょうね?