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「ソウルメイト・ドラゴン~篤あっつつ~」第二十九話 「ここより、どこか」は、自分で決める


ねぇ、あなた。今、あなたが今いる世は、わたし達が生きていた世よりかなり自由だろう。
結婚もすきな男とできるだろうし、恋愛も楽しめるだろう。
仕事をして、自分でお金を自由に動かすこともできるだろう。
結婚してもいいし、ずっと一人で生きていくことも選べるだろう。
私のように、結婚しても子を持つことなく生きる女もいるだろう。
一方、子が欲しくてたまらない女もいるだろう。

思うように生きられない女もいるかもしれないが、私や静寛院宮様がいた大奥に閉じ込められているような、窮屈な生活はしていないだろう。たぶん。
あなたたちが今生きている世界は、私がこの世を去りたった百三十八年後の世界だ。
気づいてほしい。
あなた達が今当たり前のように過ごしている生活は、たった百三十八年年前の私達には望んでも望んでもできなかった生活だ。

ただ自由になり選択肢も情報も増えた分、より複雑になったかもしれない。
けれど、その見た目に騙されてはいけない。
基本的にこの世は、何一つ変わっていない。
それは、すべてあなたの思い次第だ、ということだ。
人は時に自分を被害者にしてみたり、うまくいかない事を人のせいにする。
なぜ?その方が楽だからだ。被害者でいる自分がすきだからだ。それは全部自分が望んだことだ。

「えっ、うまくいかないことなど、望んでない!」

あなたはそう言うだろう。
いや、うまくいかないことが望みなのだ。
うまくいっては困ることを、潜在意識下で知っている。可哀想な自分を自分で憐れみ「どうしてうまくいかないんだろう」と悲劇のヒロインになって嘆く。そして今の場所から出て行かせないよう、自分で自分を縛るのだ。大奥にいた時の女達のように。今考えると、大奥も自分の意志で出る事もできた。とっとと尼寺に入るなり、お褥すべりして女を放棄すれば自由になれた。でも女として意地がそれを邪魔した。女でいることを維持したかった。
だからうまくいかないような出来事を、自ら起こさせる。今と何も変わらない。
うまくいかない状況を、誰かに反対させる状況を、作ることもある。
そうやって自分が動けなくなるしていく。
傍から見ていると歯がゆいが、しかたない。
あなたが本当に変わらない事を望んでいるのだから。

私は運命という名の龍に乗り、薩摩の田舎から江戸城大奥に運ばれてきた。
分家の娘が予想もしない大幸運を手に入れた。それは一見、私が望んでいた事のないように見える。
だが私は心のどこかでずっと望み願っていた。
「ここよりどこかに」
のんびりゆったりした薩摩で一生を終えるのではなく、もっと開けた刺激的な未来を望み、願った。
当時、島津家に家定様に見合う年頃の娘は私を含め何名かいたが、私が選ばれた。これも一見ラッキーに見えるだろう。
だけど、これも強く望み自分が引き寄せた。
生まれ育った場所で安穏と一生を暮らすことを望んでいなかった私は無意識に「ここよりどこかに」ある自分の居場所を探していた。
それが江戸城大奥。御台所の座だった。

家定様も静寛院宮様も家茂様も、ご自分で望んで龍に乗っていない、と言われるだろうが、実は彼らも望んでいた。
徳川の世を終わらせる役割を持って、新しい時代の扉を開く役割を望みやってきた。
新しく時代を切り開くのは並大抵のことではない。
子宮の中で守り育てていた子を、子宮を開き産み出すがごとく、痛みや苦しみを味わう。その分、限りない喜びと希望も味わう。

あなたが今やりたいことは、なんだ?
あなたが今感じたい気持ちは、なんだ?
そこから目をそらしてはならない。
産みの苦しみの向こうにある快楽に目を向けるのだ。
女達、開くことを怖れるな。
「ここよりどこか」は、自分で決めるのだ。

自分で決めなさい。
その自由をあなたは手にしている。
私達は百三十八年前、あなたのために開いた。
重く閉じられた扉を開いた。
今を生きるあなたなら、きっと開ける。
そう信じて、あなたに託した。
だからきっと大丈夫。

そして未来に進むあなたに・・・

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あなたが今いる場所は、自分で決めた場所ですか?

あなたのここよりどこか、はどこでしょう?

あなたは何のためにそこに行くのでしょう?

そこに何があると思いますか?

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