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リーディング小説「美しい子宮~寧々ね~」第十五話 これが欲しいものを受け取る方法

これが欲しいものを受け取る方法

天正十四年九月、秀吉は天皇から豊臣の姓をたまわりました。
十二月には太政大臣となり、ここに豊臣政権が誕生いたしました。
大阪城を居城にした秀吉は、この日本国で最大の権力者となったのです。
妻のわたしは、女性の最高位である「北政所」の称号を与えられました。
わたし達夫婦は、天下人になりました。

が、天下人の秀吉にも、まだ手に入れられないものがありました。
茶々様です。
秀吉は江様も初様もまだ茶々様とご一緒におられる時から、彼女達のご機嫌うかがいをしておりました。
戦の合間を見て、豪華な着物や女子が喜ぶような可愛い小間物などを持ち、彼女達を訪れていたのです。
秀吉の話し相手をするのは、もっぱら長女の茶々様でした。

秀吉は自分から好意やプレゼントをどんどん相手に与え、相手も秀吉に何かを返さなくは、と思わせます。これは秀吉の得意技です。
後にビジネスの手法で使われる返報性の原理ですが、秀吉はこれを無意識の内に使っていたのです。
これこそ、秀吉の強みでした。

わたしは一人お茶を飲みながら、茶々様のことを考えておりました。江様や初様が嫁いだ後、茶々様は今お一人です。天下人である秀吉の好意がすべて自分に向いている、と感じた茶々様はどう出るでしょう?わたしを茶碗のお茶を一口すすりました。
秀吉はきっと三十歳も年下の茶々様を相手に、彼女を笑わせるような話をたくさんしていることでしょう。わたしの口の中でお茶が苦く喉をゆすります。

その時、廊下を走ってくる音がしたかと思うと、秀吉が部屋に飛び込んできました。秀吉がわたしの着物の袂を持ち、今にも泣きそうな顔をしています。「どうしたのですか?お前様?」わたしは何事か、とびっくりいたしましうた。秀吉は顔を歪め、泣きそうな顔で訴えます。

「寧々~~~!
どうしたら茶々様が、わしに心を許してくれるんじゃろう?
何をしたら気に入ってくれるんじゃ?
どうしたら茶々様が、わしのものになると思う?
欲しいよ!欲しいよ!茶々が欲しい!!」

秀吉は畳に寝転がり、手足をバタバタさせながら叫びました。
「欲しい!欲しい!」
「茶々、茶々!!」

その姿は、子どもが欲しくてたまらないものを、親にねだっている姿のようです。天下人ともあろうものが、なんという姿でしょう!わたしはため息をつきました。

「お前様、恥かしくはないですか?」

すると秀吉は起き上がり、けろりとした顔になりました。

「なんじゃ?なぜ、恥ずかしいのじゃ?
 欲しいものは欲しい、と口に出さねば受け取れないではないか?」

「確かに、オーダーをハッキリさせるのは大切です。
ですが、五十男が駄々っ子のように欲しがり、受け取るのを待っているだけでは何も始まりませぬ。欲しいものを受け取る行動を起こさねば、いくらオーダーしても受け取れませんよ」

「おおっ、確かにそれはそうじゃ。で、寧々どうしたらいいと思う?
どうしたら茶々様を、落とせるのじゃ?お前になら何か策があるであろう?」

秀吉は興味津々の顔で、わたしに自分の悩みごとを押し付けました。

「そうですね~」
わたしは腕を組み、考え込むフリをしました。
もちろん、同じ女ですからどうしたらいいのかわかっています。
でもそれを易々と秀吉に伝えるのも、しゃくですからね。ちょっとじらしてやります。わたしは眉間に皺を寄せ、天井を見上げるふりをしました。秀吉は焦れ焦れしています。それでもわたしが黙っていると、わたしの腕を取り、揺さぶり始めました。

「寧々、寧々、わしはどうしたらいい?」

「待ってください。今、考えているんです!」

わたしは秀吉にこれを伝える対価に、自分が何を手に入れればいいか?頭をフル回転させていました。
その時、わたしの頭の中でキラリ、と閃いたものがありました。わたしは腕をほどき、秀吉に大きな笑顔を向けました。

「わかりましたよ!お前様、わたしが茶々様を落とす方法を教えましょう。
その代わり、わたしの願いを叶えて欲しいと存じます」

秀吉は目を輝かせました。魚がエサに食いついたのです。

「なんじゃ?寧々の願いとは?」

「わたしがお前様という天下人の妻として、お前様の代わりに朝廷との交渉事をすべて引き受けさせて下さい。
あと、お前様が人質として集めた諸大名たちの妻子の監督を、わたしにさせて下さい」

わたしはまだ跡継ぎのいない豊臣政権の先を見越し、朝廷との太いパイプを作っておきたいと思いました。朝廷とのご縁を持ち、自分を売るのは悪くありません。
そして秀吉が人質の中から側室を選ぶ際の見極めと、無駄な殺生を避けるため、これらの条件を出しました。殺生をすることで彼の人気が下がります。そして側室の品定めもできます。わたしの交換条件を聞いた秀吉は面白そうにうなづきました。

「う~む、寧々は策士よのう。
わかった、寧々にそれらの権限を与えよう。
で、茶々様のことを教えてくれ」

「あのね、お前様。
茶々様はお市様に似た、プライドの高いお方です。
ですがそういう方ほど、ストレートな口説き文句と情熱に弱いのです。
回りくどくそれとなく攻めても、プライドが高いのですから、こちらの思うように落ちません。
落ちてなるものか、と自分のプライドにしがみつているのですから。
女は男のストレートで一途な思いと言葉に、弱いのです。
ですから下手な小細工はやめ、ドストレートで茶々様に向き合ってみて下さい」

「なるほど!そうか、そういうものか!!」

「ええ、そうですよ。ちょうど明日は満月。
月見に誘って、そこでお前様の気持を素直に伝えてみたらどうですか?」

そう言いながらも、心に冷たい風が吹きすさぶような、さみしい気持ちになりました。
けれど感情を超え、わたしの体、わたしの子宮が叫ぶのです。

「あの女だ!
あの女が、秀吉の子を宿す。
豊臣の跡継ぎを産むのは、あの女だ。
あの女なら、どんな手段を使ってでも豊臣の為の子を産むにちがいない」

そうです。
わたしは自分の子宮から声に賭けたのです。
自分の感情よりも、豊臣政権の存続の為に北政所として役割を優先しました。

その夜秀吉は茶々様に、自分の気持ちをストレートに伝えることを約束しました。夜、わたしも自分の部屋から満月を眺めました。煌々と輝く満月のまぶしい光が、灯りもつけていないわたしの部屋に降り注ぎます。何の根拠もなく、この満月のもと秀吉が茶々様を抱いていることがわかりました。茶々様は秀吉の軍門に下ったのです。けれどあの茶々様のことです。何らかの企みを持ち、秀吉に抱かれたのでしょう。それでも良いのです。豊臣の子を産んで下されば。あの方が産むのは豊臣の子、です。それがあの方の役割です。

夜空に女王のように輝く満月を見上げたわたしの胸に、苦しいような切ない気持ちがこみ上げてまいりました。わたしは両手に血が出るほど、爪を食い込ませました。

辛くはない
さみしくはない
悲しくはない

自己暗示をかけるように、何度も自分に言い聞かせたのです。

わたしは秀吉の妻です。
けれどこの満月から、豊臣の母として生きる決意をいたしました。
豊臣の母として、何としてでも豊臣を受け継ぐ子を望みます。その願いを月に届けます。

「豊臣の子を、受け取ります」

わたしは、月に向かって声に出してオーダーを出しました。願いをオーダーする時は、すでに叶っている前提で願うのです。
オーダーしたら、そこに向けて行動を起こします。
これが欲しいものを受け取る方法です。

わたしはきっと受け取るでしょう。
茶々様、という女性の身体を使って。


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