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リーディング小説「美しい子宮~寧々ね~」第九話 光があるから闇は黒く、闇があるから光は白く輝く

光があるから闇は黒く、闇があるから光は白く輝く

秀吉は三法師様を連れ、清州へと向かいました。彼らを見送ったわたしも胸がドキドキいたしました。
清州でわたしの仕掛けた爆弾も、威力を発揮するでしょう。
あのお方はきっと、わたしの爆弾を受け取るに違いありません。確信はありませんが、そう思いました。
わたしの爆弾は、とても危険です。
ともすると、秀吉を危機に陥れるかもしれません。
それでも、この時こうしておかねばならぬ!とわたしの本能が叫ぶのです。わたしは自分の本能に従いました。
それは、まさにわたしの闇の顔でした。

そして秀吉は会議を終え、帰ってきました。
スッキリしない顔で帰ってきたところを見ると、わたしの送った爆弾が首尾よく運び、威力を放ったことが見て取れました。秀吉は浮かない顔でわたしに言いました。

「のう、寧々・・・
わしの思惑通り、三法師様が織田家の跡継ぎに決まったわ。
じゃがの・・・」

そこで言葉が詰まり、秀吉はガックリ肩を落としました。

「お市様が、柴田様のところに嫁に行かれるんじゃ!
どう思うよ、寧々!!
あの髭もじゃの柴田様ぞ!
お市様より二十五も年上の柴田様ぞ!
わしは、本当にびっくりしたぞ!!」

「あらまぁ、なんということ・・・」
そう答えながら、心の中でほくそ笑みました。
ええ、これがわたしの送った爆弾です。
秀吉から三法師様の話を聞いた後、彼が織田家のすべてを手に入れたい、と望んでいることがわかりました。
すべて、とはお市様も含めてです。
あのプライドの高いお市様が、秀吉の側室になることなど承知しないでしょうが、女心はいつ変わるかわかりません。
ですから、先手を打ちました。

柴田様に文を描きました。お市の方様を妻にもらえばいかがでしょうか?と提案したのでございます。
もちろんそこに、秀吉が三法師様を連れて行くなど書いておりません。こちらの手の内を明かす必要など、ございませんからね。
柴田様には、こう申しました。

「女の立場といたしまして、お市様は織田家のため自分から柴田様の妻になる、とは言いにくいと存じます。
ですから、ここは柴田様から手を差し伸べ、お市様にプロポーズされたらいかがでしょうか?
女は男からの熱烈なプロポーズに弱いものです。
内心、お市様も柴田様からのプロポーズを待っておられることでしょう。
けれどそれは決して女の口から、また主筋のお市様から、口が裂けても言えぬものです。お市様が柴田様の妻になることが、お市様と三人の姫様達、ひいては織田家を助けることになるのではないでしょうか?
どうぞ秀吉と協力しながら織田家を、そしてお市様を幸せにして下さい」

そのように文にしたためました。
どちらにしろお市様には、二つの選択肢しか残されていなかったのです。
織田家家臣の誰かの妻になるか、あるいは、誰かの側室になるか、です。

お市様は信長様亡き後、織田家のシンボルとなるお方です。
戦国一の美女と誉れ高く「信長様の影の懐刀」と言われるほど、影響力の強い女性です。
そんなお方が、このまま一人で織田家に残るなど無理でしょう。
もう誰もお市様をサポートし、守ってくれる人はおりません。
お市様は自らが先頭に立ち、采配を振るうタイプではありません。
この時代の女がみなそうであるように、力のある男の元で自ら持つ眼力や美しさや策略を生かす方です。
ですから織田家家臣の中で妻の座が空白な柴田様が、受け入れ先として一番ふさわしくきれいなのです。

柴田様の女扱いの下手さを見ていますと、とても自分からお市様に積極的に言い寄る流れは望めませんでした。
ですからわたしが「女の立場として」と前置きし、お市様へのプロポーズをお薦めしたのです。
柴田様からは「本当に?!」というような文が、返ってまいりましたよ。
わたしは「本当です」とまた返しましたけどね。

わたしのことを、恐ろしい女だと思いますか?
けれど母親というものは、そういうものではありませんか?
愛する我が子の危険を察知したら、どうやってでも近づけまい、とするものです。
わたしも自分の本能に従い、そうしたまでのこと。

お市様の存在は、秀吉にとっては危険な香りがします。
美しいけれど、毒を持った花。
食虫植物のように、いい匂いをさせおびき寄せ、男を食って美しく咲き誇る花のようです。
断じて秀吉のそばで、美しく咲いていただいては困ります。

これから先、柴田様と秀吉が争うことになったら・・・・・・
いえ、その危険性は十分あるでしょう。
その時、お市様を擁する柴田様が有利なのかどうか、わたしにはわかりません。
でも、言っていますでしょう?
わたしは秀吉の才能と運に、賭けたのです。
ならば、秀吉は柴田様と争って勝つはずです。

本当にお市様を手に入れたいなら自らが勝利し、その時にこそ手に入れればいいのです。
高嶺の花を手に入れる喜びがあるからこそ、秀吉の野望と欲望はなお一層彼を強くするでしょう。
そうやってご褒美としてお市様を手に入れるなら、大目に見ましょう。
たぶんその時のお市様は、男を引き付ける魅力が半減しているはずですからね。ただの観賞用の美しいだけの花になっていることでしょう。
それがプライドの高いお市様の行く末、と見ました。

わたしの闇は自分が思うよりもっと深く、えげつないほどの黒さなのでしょう。けれどわたしはその深くて黒い底なし沼のような闇に、白い蓮の花を咲かせたいのです。
蓮の花は、泥の中に咲いています。
「蓮は泥より出でて、泥に染まらず」と言います。
わたしは闇だけを抱えた女ではありません。
白い光もわたしの中にあるはずです。
だからこそ、豪や秀勝を慈しみながら育てることができるのです。

人は誰しも割合は違えど、光と闇の両方を持っているのではないでしょうか。
光があるから闇は黒く、闇があるから光は白く輝きます。
陰陽のように、二つでひとつ。
善と悪、という言い方はすきではありません。
自己弁護をするわけではありませんが、光と闇に折り合いをつけながら生きていくのが人間です。
わたしもそうやって自分のドス黒い闇という泥の中で、泥に染まらない白い蓮の花を咲かせます。

清須会議で信長様の領地の配分も決まり、秀吉の領地は加増され、柴田様をも超えました。
そこから秀吉の闇のふたが開き、表に顔を出し始めたのです。


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